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 その日の夕食はちょっとしたパーティーだった。ただしメニューは美砂ちゃんが言ったように野菜炒めだったけど。


「なにしょげてんだよ。パーッといこうぜ。英介らしくもない」


 久梨亜のやつはすでにできあがっていやがる。芋焼酎の一升瓶を片手に俺にからんで来やがる。悪魔でも酔っ払うんだな。しかも芋焼酎で。


「そうですよ、英介さん。よかったじゃないですか。奥名先輩が結婚するわけじゃないってわかって」


 美砂ちゃんは俺をなぐさめてくれる。彼女はお酒は飲まない。まさに天使のイメージ通り。


 でも俺は元気が出なかった。確かに俺は一世一代の大博打おおばくちに勝った。美砂ちゃんと久梨亜が俺と同居してるってことは奥名先輩にばれずに済んだ。

 そして先輩が結婚するっていうのは単なる俺の早とちりだってこともわかった。さらには今は先輩に好きな人はいないってことも確認できたんだ。


 満点じゃないか。いや、満点を超えて120点じゃないか。


 でも元気は出ないんだ。原因はわかってる。今月末火曜の有給の理由が「デートのため」なんかじゃなかったからだ。


「でもどうしてでしょう? 私と久梨亜までお休みを取るように、なんて」


 美砂ちゃんが小首をかしげてる。かわいい。


「そんなことどうだっていいじゃねえか。あの女にはあの女の考えがあるんだろうよ。それより英介、そんなシュワシュワしたやつじゃなくこっちをぐぐっと飲みな。嫌なことなんか忘れちまうぜ。ガハハハハ」


 久梨亜は俺から缶チューハイを取り上げて芋焼酎を飲ませようとする。しかも一升瓶からじかにだ。こいつこんなに酒癖悪かったのか。当分禁酒だな。


「うるさいな。ほっといてくれよ」

「おやおや、ご機嫌ななめだねえ。よしわかった。明日の朝はあたしがなにか気力の出るやつをババンと作ってやろう。いいな?」


 またかよ。もういいよ。


 ただ久梨亜の名誉のためにひとこと言っておくと、こいつの料理は旨い。勘違いしているかもしれないが味はいいんだ。問題は謎の効能のほうだな。


「今度のは効果抜群間違いなし。なんたって悪魔印の強壮剤をいつもの倍、放り込んでやるから。あの神だって目を回すほどの量なんだぜ」


 悪魔のくせに顔を真っ赤にしてガハハと笑ってやがる。


 ちょっと待て。「悪魔印の強壮剤」だ? 謎の効能の正体はそれか!


「おい久梨亜、その『強壮剤』ってやつ、あの『大御所様おおごしょさま』にはどのくらい盛ったんだ? まさかお前が明日俺に食わせようとしている量じゃないだろうな」

「いや、英介にいつも食わせてるのと同じ量さ」

「えっ?」

「英介はこれまで3回食っただろ? その1回分と同じ量だよ」


 ちょ、ちょっと待て。

 確かに俺は1回目は死にかけた。でも2回目は1日中トイレにもるだけで済んだ。さらに3回目は高熱は出たけど半日で治ったんだ。


「1回ごとに量を減らしてたんじゃないのかよ」

「いいや違うね。まああたしの見たところじゃ、英介には“耐性”ってやつができてきてんのじゃないかな。だから2倍食ってもだいじょう!」


 なんかどこぞの物置のCMみたいに軽く言うなよ。


 そして翌朝、俺はげっそりとした姿で出社した。奥名先輩が驚いてた。「またなにか悪い物を食いまして」って言ったらあきれてた。ちなみに有給の申請は全員が無事通った。

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