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 もうダメだ。ついに来た。ついにこの時が来てしまったんだ。


 これまで幾度も奥名先輩にすべてがバレかけたことはあった。でもそのたびになんとか切り抜けてきた。

 でも今回は違う。もうダメなんだ。先輩の疑念は確信に変わっちまった。だって見えてるんだもの。目の前に白く浮かび上がるコップの形が見えてるんだもの。


 もう俺にできることはなにもない。終わったんだ。


 すべては終わった。大博打の第4の、最後の、そして最も大切な勝負、「中に入っても(俺と美砂ちゃんや久梨亜が同居しているという)決定的な証拠を見つけないかもしれない」は俺の敗北に終わることはもはや確定。そしてふたりが天使と悪魔だってことが先輩にばれることもまず確定。


 先輩との仲もこれでおしまい。そして美砂ちゃんや久梨亜とのこの奇妙な同居生活もこれでおしまい。そしてたぶん……、人類の命運もこれでおしまい。


 ああ、先輩の作る生姜焼き、食べてみたかったな。この世における最後の食事にこれほどふさわしいものなんてそうあるわけじゃないからな。俺はそんなことを考えていた。


 その瞬間、耳を引っ張られた。久梨亜だ。ビックリする俺に少し強めにささやく。


「なにぼやぼやしてんだよ。やるんだよ。早く!」


 えっ? なに言ってんだこいつ。こいつまださっき言った「あんたのコップのほうを取り上げる」を俺にやれって言ってんのか?


 ダメじゃないのか? もうすべておしまいなんじゃないのか? もしかして大博打の第4の勝負、まだ決着はついちゃいないのか?


 俺は半分呆然(ぼうぜん)としながら久梨亜の顔を見た。やつの目は力強かった。そして確信に満ちたようすで顔を縦に振って見せやがった。


 腹をくくった。久梨亜のやつが「やれ!」って言ってんだ。だったらやるしかないだろう。こいつのアドバイスはいつだって有効だった。こいつは悪魔だ。でも悪魔のくせに信頼できる。悪魔のくせに俺を助けてくれる。俺の魂が手に入るわけじゃないのに。


 なぜだ? なぜ俺を助けてくれる? わからん。でもそんなことはどうだっていい。大切なのはこいつは俺の味方だってこと。


 ええい、やってやる。もうこうなったら自棄やけだ。


「先輩どうしたんですか」


 奥名先輩に声をかける。先輩が俺のほうを向く。そのすきに手を伸ばして俺のコップを台から取り上げる。


「瀬納君、あそこ……、コップが……」

「えっ、コップってこれのことですか?」


 手にしたコップを先輩に示す。先輩が俺のコップのほうを見る。


 その瞬間、久梨亜がサッと動いたのが目の端に見えた。


「さすが先輩、このコップに目をつけるなんて」

「えっ?」

「どうです、いいでしょう? これ俺も気に入ってるんですよ」


 俺は必死になって先輩の注意をコップに引きつけた。俺にはそれからの久梨亜の動きは見えていない。だが見えなくてもわかる。やつはきっとあの“白く曇ったコップ”、そしてもうひとつの“見えないコップ”をどうにかしてくれているはずだ。


 大丈夫だ。信じろ。俺には悪魔がいている……って、やっぱりなんかおかしくないか?

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