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 アパートまでの道はもっぱら先輩がまわりの風景について質問して俺が答えるといったやり取りを続けた。

 しかし俺はそのやり取りにはあまり関心がなかった。俺が関心のあったもの、それはもちろん大博打の第3の勝負「来てもアパートは外観を見るだけで中には入らないかもしれない」がどうなるかということ。


 現在のところ情勢は極めて悲観的だ。だが“万が一”って言葉もある。1万回挑戦すれば1回ぐらい勝利することもあるかもしれない。確率0.01%。小数点以下第1位を四捨五入して0%。第2位でも0%。でも本当の“0”じゃない。可能性は“ある”。


 歩くこと10分ちょっと、ようやく俺のアパートの前にやってきた。


「ここがそうなの。ふうん」


 先輩は腰に腕を当てて俺のアパートを見てる。どうです? ぼろいでしょ? 中に入るのなんかやめましょうよ。昼食なんか近所のファミレスでいいじゃないですか。食材は俺が買い取りますから。


「きれいじゃないの」

「えっ」

「『木造のふるーいアパート』って聞いてたからもっとすごいのを想像してたわ。充分きれいじゃないの」


 ちょっとびっくりした。まさか先輩からアパートをめられるだなんて。まあ確かにあの時は、先輩が「じゃあ今度行ってみようかな」って言うことがないようにといくらか誇張したことは確かだけど。


 しかしまずい。先輩の俺のアパートに対する好感度が上がってしまったんじゃないのか。第3の勝負の敗退の可能性、また上がってしまったんじゃないのか。勝利の確率、0.001%……。


「で、部屋はどれ?」


 先輩が聞く。うわあ、第3の勝負の敗退の可能性がさらに上がってしまったっぽい。勝利の確率、0.0001%。


「う、上です。2階の左から3つめ」

「そう」


 ひと言そう言うと、先輩はアパートの外階段へ向かってひとりスタスタと歩き出した。も、もうダメだ。ダメなのか。勝利の確率、0.00001%。


 先輩が振り向く。


「なにボーッとしてるの。行くわよ」


 勝利の確率、0.000001%。1億分の1。いや、まだだ。まだ日本の総人口1億2千6百万には達してない。


 俺はあわてて先輩の後を追った。俺のさらに後ろからは美砂ちゃんと久梨亜も続く。ふたりの存在は先輩には気づかれていない。


 外階段をのぼる。確率0.0000001%。ひとつめの部屋を横切る。確率0.00000001%。ふたつめの部屋も同様。確率0.000000001%……。


 先輩が俺の部屋の前に立った。


「開けて」


 無情にも響く先輩の言葉。確率0.000……。いやもうよそう。もはや絶望的。しかしまだ勝利の可能性はある。もしかしたらここでカギが折れるかもしれない。もしかしたら背後にUFOが現れて、先輩の注意がそっちに向かうかもしれない……。


 カギは無情にもカチャリと回った。UFOも来なかった。もう扉を開くしかない。


「きたないところですが、どうぞ」


 奥へと手を差し伸べる。玄関とその先に狭い廊下が続いてるのが見える。そして先輩はその玄関へと足を一歩踏み入れた。


 その瞬間、確率は0に収束した。希望は消え去った。大博打の第3の勝負「来てもアパートは外観を見るだけで中には入らないかもしれない」はまたしても俺の敗北に終わった。

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