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67 天界にて その14

 メフィストフェレスは神様のようすを少し離れたところから眺めていた。さっきから変化はない。メフィストフェレスが見ていることなどまるで気がついていないかのよう。


 しばらくして、メフィストフェレスはおもむろに神様に近づいて声をかけた。


「たいそうご機嫌なようで、神様」


 しかし神様はメフィストフェレスの挨拶にもピクリとも体を動かさない。


「研究熱心なことで、いや、結構結構」


 これにも神様は反応しない。


 いや実は神様にはメフィストフェレスの言葉は聞こえていたのだ。しかし神様は心の内で「またいらんやつが来おって」と思い、無視を決め込んでいたのだ。


 神様が答えないのを見て取ると、メフィストフェレスは神様をただじっと見つめた。ただひたすらに見つめた。声どころか音も一切発さずに。

 悪魔の視線というものには特別な力がある。それに見入られたものは、どのような存在であろうとそれを無視し続けることなどできないのだ。なにか体の中がむずがゆくて堪らなくなるのだ。もちろん神様とて例外ではない。


 ついに神様がそれに耐えきれなくなった。ブルッと体を震わせると神様は振り向いた。


「おお、メフィストフェレスよ、来ておったのか。気がつかなかったぞ」

「へい。さっきから何度も呼びかけたんですが、ちっとも気づいていただけませんで」

「うむ。例の研究に没頭しておったからのう」


 神様の答えにメフィストフェレスはやれやれといった気分だった。神様の態度はいつもと変わらなかった。自分に悪い点などどこにもない、むしろ当然だと言わんばかりの尊大な態度。


 しかしメフィストフェレスはそんな態度などまるっきり気にしていなかった。それは神様のいつもの態度。それをいちいち気にしているようなら天界には来られない。


「その“研究”ですが、いつごろ終わりそうで?」

「うん? まああと数日といったところじゃな。ディスクはここに積んであるだけではなく、奥にもまだもう少しあるのでな」


 神様の「あと数日」という言葉にメフィストフェレスは心の中で「チッ」と舌打ちをした。彼には神様がディスクを見終わるということの意味がわかっていた。それはすなわち神様が人類滅亡への“一手”を指す時が到来したということにほかならない。その“一手”いかんで、例の賭けが悪魔の敗北で終わるのかが決まるのだ。


 しかしメフィストフェレスはあわてなかった。今の自分にはとっておきの“武器”があるのだ。神様がその“一手”を指すのを遅らせるための“武器”が。この背中に背負った袋の中身こそが、その“武器”なのだ。


「そのディスクですが、神様は本当にありとあらゆるやつをお集めになられたので?」

「いまさらなにを言うか。もちろんに決まっておろう。地上から“研究”に適したありとあらゆるやつを集め、厳選に厳選を重ねて選ばれた最上級のものばかりじゃ」


 神様の言葉にメフィストフェレスは内心ニヤリとした。神様の返事は想定の範囲内。いや、“想定の範囲内”というより想定のど真ん中。

 そして彼はおもむろに“武器”を繰り出すための仕掛けに入った。


「いや、あっしは神様が見落とされてるやつが結構あると思うんですがね」

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