66 天界にて その13
今回から新章突入。ということで第68話まで天界のようすです
天界は常に春ではあるが季節の認識がないわけではない。
地上の春夏秋冬、サバンナ地方の雨期乾期、モンスーン気候、台風やハリケーンなどのシーズン。これらはすべて天界が管理しているのだ。
えっ? 「季節は地球と太陽の位置関係で決まるのだろう」だって?
では伺いますが、どうして季節は年によって始まりや終わりの時期が異なったりするんでしょう。
季節が太陽と地球の位置関係だけで決まるのなら、毎年同じときに季節は始まり終わり、年によって時期が前後することなどないはず。
季節を始まらせ終わらせること、実はこれが神様の仕事のひとつなのだ。
季節の予定を決めること、これ自体は天の官僚機構の仕事だ。その季節がいつ始まりいつ終わるのか、その予定を決めることには神様はタッチしない。
しかし実際にその季節を始まらせ終わらせるのは神様にしかできない。それには神様の奇跡の力が必要なのだ。
そして今、天界が決めた季節の予定と実際の季節とにズレが生じ始めていた。日本では「桜が例年よりも遅く咲きそうだ」というのが話題になり、カナダの南部ではある日の平均気温が平年より15℃も低くなるということが起こっていた。春が遅れていたのだ。
原因は神様にあった。神様は季節を進めることをほったらかし、一日中モニターの前にかじりついていたのだから。
神様の脇には相変わらずDVDやブルーレイがうずたかく積まれたままだった。もちろん前回の時より高さはだいぶ減ってはいたのだが。
天使たちはすっかり困ってしまった。このまま季節が遅れ、後で遅れを一気に取り戻そうなどとされたならば大変なことになる。桜と紫陽花と向日葵が同時に咲くなんてことになりかねない。ことによったら秋桜までも。
もちろん天使たちは神様に陳情しようとした。しかし神様は彼らの訴えに耳を貸さなかった。神様の耳はヘッドホンから流れる妖艶な声しか聞こうとしなかった。
ついに天使たちは通常ではあり得ない手段に訴えた。今の神様が恐らく唯一その言を聞くであろう存在に協力を求めたのだ。裏地が赤の黒ずくめのマントを羽織った存在。即ち悪魔メフィストフェレスにだ。
「わかりやした。協力いたしやしょう」
メフィストフェレスの返答は天使たちを驚かせた。彼は驚くほどあっさりとその要望に賛同した。
「お礼とかそういうものは結構です。なんせあっしも日本の桜は大好きなんで」
そしてメフィストフェレスは天界の神様の寝所に現れた。なにやら背に大きな荷物を背負ってだ。
神様はこの前と変わらずモニター画面にかじりついていた。身を乗り出し、画面を凝視し、はては口からよだれまで垂らして一心不乱に見入っていた。




