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人類滅亡の可否を背負わされるなんてまっぴらごめん  作者: 金屋かつひさ
第4章 とあるデパートでのできごと
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 奥名先輩が言った「珍しくあなたが遅刻したあの日」。それはあの“財布”の件だ。あの「神様のテスト」の記念すべき第1回目のことだ。いや別に記念しなくてもいいんだけど。


「い、いやあ、それは……」


 困ったぞ。あの“財布”の件、先輩になんて説明したらいいんだろ。

 確かに会社には「道に落ちていた財布を交番に届けていて遅れました」って言ってある。上司には「そんなことで遅刻するな!」って怒られたけどね。


 けど今先輩が問題にしているのは「遅刻したのになんで美砂ちゃんや久梨亜と一緒に出社したのか」ってこと。説明しようとすれば「一緒に自宅最寄り駅までの道を歩いてた」って言わなきゃなんない。そしたら先輩は「いったいどこから一緒に通勤してるの?」って聞いてくるだろ。


 俺が毎日美砂ちゃんや久梨亜と一緒に出社してることは先輩も知ってる。でもそれはせいぜい「会社の最寄り駅から一緒に来てるんだろう」ぐらいに思ってるはず。でも“財布”の件を説明しようと思ったら「自宅最寄り駅までの道の時点でふたりとは一緒」ってことを言わなきゃなんない。

 それはまずい。そのあたりを追及されれば、“実は一緒に住んでいる”ってことが先輩にばれてしまう。弁解は不可能。先輩とは終わってしまうことは不可避。


「まだあるわよ」


 更なる攻撃が来る。こっちは“財布”の件の弁明すら思いつかないのに。えー、まだあるのかよ。


「あなたが救急車で運ばれたっていうあの日。あの時病院から会社に電話してきたのはあなたじゃなく美砂ちゃんだった。久梨亜も一緒だって言うじゃない。あれこそどういうわけ? うちで倒れて救急車呼んだんでしょ。なんでふたりが一緒に付き添ってたの?」


 うわあ、決定的だ。


 まずい。いや“まずい”なんて生易なまやさしいレベルじゃない。終わりだ。詰んだ。チェックメイトだ。


 ふたりが病院に付き添ってたからと言って、それが即ふたりが“家から”俺と一緒に救急車に乗っていたってことにはならない。「連絡を受けて病院に駆けつけた」って言えるからな。実際には救急隊員の認知と記憶を操作してふたりとも乗ってたんだけどね。

 でも会社に最初の連絡が入った時点で病院で俺の横にふたりがいたってのは厳然たる事実。会社にも知られてる。当然奥名先輩も知っている。


 “ふたりがいた”ってことがどういうことを意味するのか。俺は自分で会社に連絡できるような状態じゃなかった。はっきり言って生死の境を彷徨さまよいかけてた。三途さんずの川の本物を見たくらいにな。そんな俺がどうやってふたりに連絡を取れる? 正解はひとつだけ。美砂ちゃんと久梨亜が俺と一緒に住んでいて俺が倒れたことを自分たちの目で見て知っている。そういう場合だけ。


 終わりだ。もうおしまいなんだ。


 あーあ、短かったな。勇気を振り絞って奥名先輩に告白してからまだ1ヶ月も経ってねえじゃんかよ。やっぱりあの告白は失敗だったんだな。あのとき告白なんかしてなけりゃ、今頃こんなことにならずに済んだのにな。前と同じように遠くから先輩のこと見てるだけの日々が過ぎてたんだろうな。屋上にも呼び出さずに済んだだろうし。俺も先輩もあの“光の矢”なんかに当たる可能性はなかっただろうし。

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