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今回も4話同時公開です。1話目(1/4)

 結局俺たちは駅への道を外れて最寄りの交番へ財布を届けた。そして案の定(あんのじょう)遅刻した。営業のやつにはものすごく怒られた。

 どうやらその打ち合わせ、営業が客先に出向く前のシステム部側との最終調整の意味があったらしい。ろくに打ち合わせもできずに出かけた営業の某氏、健闘を祈ります。しかばねは拾ってあげませんけど。って、拾うのなら骨か。


 でもなによりも俺の胸が痛かったのは俺に対する奥名先輩の視線だ。

 遅刻したってだけでも非難されて当然なのに、俺が両側に女性を連れてたっていうのがよほどお気に召さなかったらしい。あ、両側に連れていた女性っていうのはもちろん久梨亜と美砂ちゃんのことね。


「あーあ。また奥名先輩に誤解されちゃったよ。どうすんだよ、俺」

 会社の自販機コーナーでため息をひとつつく。缶コーヒーがゴロンと転がり出る。


「大丈夫ですか、英介さん」

 いつの間にか美砂ちゃんが心配そうな顔をして俺のそばに立っていた。


「ああ、ありがとう。たいしたことじゃないんだ。大丈夫」

「あのう、英介さん?」

「なに?」

「英介さんがよく口にする『奥名先輩』って、あの“本当は矢に当たるはずだった女の人”のことですよね」


 ギクッ。俺そんなに奥名先輩の名前を口にしてたのか。


「そ、そうだけど……」

「もしかして……、あの私の勘違いだったらごめんなさいなんですが、もしかして英介さん、その人のこと好きなんですか」


 俺のほおを冷や汗が伝う。背中がキュッと真ん中に寄る。


「う、うん。まあ」

「やっぱり……」

「あ、あ、で、でもあの日、先輩にはきっちりと振られちゃったんだけどね」

 俺はハハと力なく笑ってみせた。でもたぶん口元が引きつってたと思う。


 美砂ちゃんは笑ってくれなかった。しきりになにかを考えているようだった。


「あのう、英介さん?」

「なに?」

「もしよかったら私、お手伝いできるかも」

「えっ」

「キューピッドに知り合いがいるんで、その子に頼めば矢を打ってもらえるんじゃないかって」


 なぬっ? キューピッドだと。


「ちょっと美砂ちゃん、そのキューピッドってもしかして……」

「はい。“愛の天使”です。その子に頼んで奥名先輩に“黄金の矢”を打ってもらえば、先輩は英介さんのことを好きになるんです」


 頭の中を美砂ちゃんの言葉が駆けめぐる。


 「キューピッドに知り合い」「黄金の矢を打ってもらえば」「英介さんのことを好きに」……。


 もし本当にそんなことができれば、先輩は俺のほうを振り向いてくれる。奥名先輩と両想いになれる。


「美砂ちゃん!」

 俺は思わず彼女の両肩を激しくつかんでいた。


「は、はいっ」

「その話、ぜひその子に頼んでもらえないかなっ!」


 思わず口調が強くなった。希望が見えた。さっきまで暗黒だった俺の人生に光がぱあっと差してきた。

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