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人類滅亡の可否を背負わされるなんてまっぴらごめん  作者: 金屋かつひさ
第1章 俺が人類滅亡の可否を背負わされることになったわけ
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2 天界にて その2

「そうだ、人類、滅ぼそう」

 それは神様自身にとっても、思いもかけない言葉だった。


 深く考えて出た言葉じゃない。なんの気なしにポッと出た言葉だった。

 言葉を発したあとになっても、まったくそんなことをする気が起きてこないほどだった。


 のはずだったのだが……。


「いやいや神様、さすがにそれはまずいでしょ」

 黒い影がどこからか近づいてきた。


 大きなえりのついた全身黒づくめのマント。しかもその裏地は血のような赤。

 卑屈ひくつに笑う口元。相手を値踏ねぶみするような目。

 頭の上にはマントと同じく黒のおかしな形の帽子のようなものを。

 神様の御前ごぜんに進み出るのにふさわしい姿とはとても思えない。

 どう考えても天の住人ではない。


「メフィストフェレス、また貴様か。まったく悪魔のくせにこの天の私の寝室によくも入ってこられたものだな」

「へへへ、まあいろいろありましてな。それより神様、さっきの言葉、ほんとに本気で言うておられるので」


 先にも書いたように、神様に人類を滅ぼす気持ちなんかこれっぽっちもなかった。もしメフィストフェレスが現れなかったら、「なあんちゃって」などというセリフが後に続いていたかもしれないほどだったのだ。


 でもメフィストフェレスが現れた。この憎々しい悪魔に対して、「あれは冗談で本当は人類を滅ぼすつもりなんかないんだ」と言うのがものすごく悔しいことのように神様には思われてしまった。

 こいつに対して弁解なんかするぐらいなら死んでしまったほうがましだ。もちろん神様だから死ぬことはできないのだけど。


「もちろんだ」

 即座に神様は言い放った。多少(あわ)てていたが、それをなんとかかくすように。


「へえ、そいつはうまくありませんな」

 メフィストフェレスのこの言葉に神様は腰を抜かす。


「なんだと。貴様ら悪魔は人間が死ぬとうれしいのではなかったのか」

「確かにそうなんですが、人間がみんないなくなってしまったらあっしら悪魔は困りますんで」

「なんでだ」

「なんでだって、人間の魂が手に入らなくなっちゃうからじゃないですか」


 神様は唖然あぜんとした。あくまで自己の利益しか考えない悪魔の性質はよく理解していたつもりだったが、これほどまでに身勝手な理屈を見せつけられて呆気あっけにとられていた。


 しかし待てよ、と神様は思った。天の不倶戴天ふぐたいてんの敵である悪魔が困ることであるなら、天の主人である自分がやらないでどうするのか。


「そういうことであるなら、わしは断固として人類を滅ぼさなければならない」

 神様は力強くそう宣言した。

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