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2話同時投稿の1話めです(1/2)。また再び主人公英介視点で物語が語られていきます。今回から物語に新たな展開が
夢を見ていた。
なんだかすごく暖かかった。ここちよい香りに満たされていた。
「ああ、俺は夢を見てるんだな」
ぼんやりと俺は理解した。一面ピンク色で地面もなにもない空間を、穏やかな気持ちで俺は駈けていた。
ふと、俺は空腹を覚えた。
「腹が減ったな」
そう思って何気なく右側を向くと、大きな中華まんらしきものが宙に浮いているではないか。
フラフラとそっちへ近づく。外観からは区別がつかないはずなのに、なぜか俺はそれが大好きな“ピザまん”だとわかってしまった。理由などない。ただ唐突に俺の頭の中に“あれはピザまんだ”という思考が入ってきたんだ。
しかもそのピザまんはひとつだけじゃない。ふたつもある。
俺はそいつを指でつついてみた。適度な弾力と温もりが俺の食欲をかき立てる。
「いただきます」
ひと言そう言うと、大口を開けて俺はその特大中華まんにかぶりつこうとした。
その瞬間に目が覚めた。
しかし現実の俺は右を向いてやはり特大の“何か”にまさにかぶりつこうとしているところだったのだ----隣に寝ている久梨亜の胸に。
「起きたか英介。まあ朝から元気がいいねえ」
頭の上から降ってくる久梨亜の声。あんぐり口を開けた体勢そのままに上目遣いでようすをうかがうと、やつは片肘ついてニヤニヤしながら俺の顔を見てやがる。
「うわっ!」
俺は慌てて彼女の胸から顔を離して上体を起こした。思わず体の左隣に手をつく。
“むにゅっ”とした感触があった。ベッドとは明らかに違う。素敵だ。できることならずっとこれを触っていたい……。
「えっ?」
びっくりして今度は左手の先、俺が触れた“感触”の正体へと目を走らせる。
美砂ちゃんのお尻がそこにあった。
「ううん。おはようございます」
眠い目をこすりながら美砂ちゃんが目を覚ました。
「わわわわわ!」
言葉にならない叫びを発してベッドから転がり出る俺。
「なんだなんだなんだ。なんでお前ら俺のベッドで俺の両隣に寝てんだよ。昨日あっちに客用の布団を用意してやったろ」
「なに言ってるんだい。あたしらは英介を一日中監視するのが仕事だよ。“一日中”ってことは当然“寝ている間も”ってこと。離れて寝てちゃあ監視がやりにくいじゃないか」
久梨亜は相変わらずニヤニヤしながら悪びれるようすなく言う。美砂ちゃんのほうは半身は起こしたもののまだ眠たげに目をこすっている。かわいい。
「だ、だからって、無断で俺のベッドに潜り込むなんて」
心臓が猛烈な勢いで脈打ってる。それは怒鳴るのに興奮したからなのか。それともまだ口のまわりと左手に残っている柔らかな感触のせいだったからなのか。
「寝ているときの行動なんて寝返りぐらいで大したことないだろ。それともまさか夢の中までも監視してるって言うんじゃないだろうな」
「安心しな、夢の中は対象外さ。ただあたしらは英介を一日中監視するよう命令されてるからねえ。監視してない時間帯ができるのはまずいんだよ」
久梨亜は相変わらずニヤついてる。
冗談じゃない。これから毎晩、こいつら俺のベッドに潜り込むつもりなのか。こんなのそのうち絶対に“事故”が起きるだろ。そしてその“事故”を理由に人類滅亡が決定されかねない。
「いいか、近くに寝てもいいけど俺のベッドはだめだ! 今後決して俺のベッドに潜り込むな! 絶対だぞ!」
俺はそう言うと足早に部屋を後にして顔を洗いに行った。まったく油断も隙もありゃしない。