水曜日〜社食〜
「あれ、課長今日はなんか珍しいっすね」
「そうか?」
部下の山下くんにそう言われたのは、俺が頼んだラーメンを2口3口食べた時だった。
「だって、田中課長っていつも丼ものばっかじゃないすか」
と彼がそう言うのも無理はない。
昨日の昼からご飯続きだったのだ。
長年パン→米→麺の生活をしていた俺的には、米以外を食べたい気分にもなる。
「まぁ、こういう日もある」
「そんなもんなんすかー?」
そんなものだ。
かく言う彼も俺と同じくラーメンをすすっている。
隣のライスはセットのだろうか。
そんな事より…
卵だ。
卵があそこまで扱いの難しい代物だったとは…
とりあえず今日の帰りに卵と醤油を買って帰ろう。
とにかくレベル1を達成しないことには、次へ進むことは出来ないのだからな。
「そう言えば…」
山下くんが口を開いた。
「課長って自分でメシ作らないんすか?」
現在進行形で痛いところを突いてくる。
やってこなかった結果が昨日からのアレだ。
「ん、ああまぁ…」
言葉を濁す。
言えん。
昨日思い立って急に料理を始めたなどと…
「自炊な…君は?」
これ以上突っ込まれたくなかったので、彼に話を振る。
「俺っすか?もちろんやってますよ」
なんと!
予想もしなかった言葉だ。
「今は料理男子の時代っすよー、課長♪」
「料理男子…?」
「そうっすよ!今の時代、料理の出来る男がモテるんすよー」
「そうか」
俺はラーメンをすすった。
今はそんな時代なのか。
俺が古い人間なのは分かってはいたが、昨日と今朝の事でだいぶ痛感していた。
(料理…男子、か…)
俺は卵1つも割れない人間だ。
このままじゃいけない。
「田中課長もやってみましょうよ、自炊♪」
「…考えてみよう」
俺は心に決めた。
絶対クリアしてみせる!と。
(レベル1を、な…)