火曜日〜本屋〜
今日は定時で帰ってこれた。
珍しく残業がなかったのだ。
まだ晩メシにしては少し時間が早いな。
少し時間を潰してから帰路につこうか。
そう思いながら、ふと足が止まる。
「…本屋か」
滅多に買ったり読んだりはしないが、時間を潰すのには丁度いい。
俺は中へと足を踏み入れた。
本屋というものは、図書館でもないのに何故こうもシンとしているんだ?
そんな疑問が脳をよぎる。
そして図書館でもないのに、立ち読みしてる輩が多すぎるのは何故だ⁉︎
最近は読まれないように、薄いビニールが本に巻かれていることの方が多くなった気がするが、それでも見る奴は見る。
全ての本に巻かれているわけでもなく、当然読むことの出来る本もある。
そう言った包囲網をくぐり抜けて、こやつらはタダで読み漁っているのだ。
(全く…けしからんな)
読んだ本は責任を持って買え!と声を大にして言いたいが、いかんせん。かく言う俺も買う気がないのに入ってきてる。
店側からすれば、俺は冷やかし客と見なされてもおかしくはない。
「…………」
特にこれと言って目当てのものもなかったので、いつの間にやら【料理コーナー】へと来てしまっていた。
(ここは俺とは無縁……ん?)
ピタリと足が止まった。
その目線の先にあるものに、一切の興味を持ってかれた。
《これであなたも楽々手料理嫁の味!》
何とも語呂のいいタイトルだ。
俺は無意識にその本を手に取っていた。
そしておもむろに表紙をめくりーー
「はっ…」
ぱたん。
閉じた。
(いかんいかん…何をやっているんだ、俺は⁉︎)
ここで興味本位に表紙をめくり、中身を読むーーすなわち立ち読みなんぞをしてしまっては、先ほどから目に留まっていた皆と同類になってしまうではないか!
これが本屋の戦略と言うものか!
「…くっ」
俺はそこで初めて思い知らせれた。
手に取ったということは…
その本が気になる→中身がどんなものか知りたい→読む=立ち読み→これは×。
つまり、必然的に買わなければ読めないということだ。
中身を知りたければ買え、ということか。
(ふ…ならばそれも良かろう)
少々気恥ずかしさもあったが、俺は漢らしく堂々と、その本をレジへと持って行った。