火曜日〜社食〜
「あれ?課長、今日も丼ものっすか?」
そう声を掛けてきたのは、部下の山下くんだ。
入社3年目。
そう、俺がこっちに単身赴任に来たと同時に付いた部下が彼である。
「ああ、食べ慣れてるからな」
そう言うと、俺は適当に空いてる席へと着いた。
「まぁそれもそうっすけどね。あ、ここ一緒にいっすか?」
俺の答えを待たずに彼は対面に座る。
最近の若者は皆こうなのだろうか。
それとも、熊本と東京の差なのだろうか。
俺には到底分からんことだ。
「たまには定食とかいいんじゃないっすか?A定食もB定食も美味いっすよ」
「…何が違うんだ?」
「そりゃもちろんおかずの中身っすよ!」
そう言いながら、彼は1人食べ始めた。
俺も冷めない内に…
「いただきます」
社食の丼ものもなかなかいい。
実に様々な種類がある。
それでいてワンコイン以下で食べられるのだから、かなりリーズナブルだ。
ちなみに今日はカツ丼だ。しかも漬け物付き。
「おかずの中身とは?」
「まぁ日にもよりますけどね。大体が肉か魚、もしくは煮物か焼き物とかですかねー」
「ほう」
「まぁ小鉢なんかもあるし、何品も食べれるのはお得っすよね」
「ちなみに君の選んだものは?」
「あ、俺っすか?俺は…」
言うと一旦箸を置き、水を一口。
改めて山下くんは俺の方へと向き直った。
「俺は、かき揚げそばのミニカレーセットっす!」
「だろうね」
誰がどう見てもその2種類が、彼の盆の上にあった。
あれほど定食うんぬんを語っていたなら、せめて定食を頼んだ日に力説して欲しいものだ。
そばとカレーを目の前に語られても、俺の耳には1mmも入ってはこなかった。
「まぁそのうちな」
そう言い放つと、大好きなカツの端っこを、一口にほうばった。
定食よりも嫁の手料理が味わえる日が来るのは、あとどれくらい先なんだろうか。
ほろりと出そうになる涙をぐっと堪え、再びカツへと箸を伸ばした。