7話
「困りますっ!!貴方を討伐に向かわせるわけには…!!」
現在、街の真ん中に佇む城の中では大騒動が巻き起こっていた。
「なんでですかっ!隣の国の者だからですかっ!だからってこの街…この国の危機を見過ごすわけにはいきません!!」
白銀の鎧を身にまとったセリーヌはそう言いながらこの城でつかえているであろう1人の男の腕を振り払った。
そして、もう腰に剣はあるはずなのに、セリーヌは武器庫のほうへさっさと歩いていく。
「そちらは外とは真逆の方向ですよっ!!」
「えぇっ!?」
間違って逆の方向へ行ってしまっていたセリーヌは驚きの声をあげ、急反転すると、そのまま急いで走り出す。
「あ、そこで左折です!あぁっ!それは右…」
…方向音痴のセリーヌはやはり迷子になっていた。
そして、俺。ザックは今、広い広い大草原の中をたった1人寂しく歩いている。
…大丈夫。ここを歩いた先にはたくさん人がいるんだから。俺がボッチ…ってことはないから。いや、友達いないから…ボッチか。
少し家から離れ数分ほど歩いていると、急に地響きが俺の足元を襲い、俺はバランスを崩して座り込むように後ろに倒れた。
尻もちをつき、周りに誰も見ている人がいないか確認すると、ホッと一息つきまた立ち上がる。
いや、今ボッチって言ったばかりだし、人がいるわけないけどさ。
…それにしても、今の大きな地響き…大丈夫かな…。
「ほんと、どれだけデケーバケモンなんだろーなぁ」
「ふぁぇ!?」
突如後ろから聞こえてきた声に驚きまくった声を出しながら振り返ると、そこにはたくましい青年の胸が俺の目の前にあった。
…身長差がすごい。
「んぉ、悪りぃ悪りぃ、驚かせちまったみたいだな」
青年はどこかの肉食動物なのではないかと思わせるような八重歯を出しながら笑顔をつくり、俺の頭をポンポンと撫でてきた。
…この人も今回の討伐に参加する冒険者なのだろうか。
それにしては軽量だし、何の武器も持ってないけど…。
いや!!それより!!いつからこの人いたの!?
俺が尻もちついた時に周りは見渡したはずだけど…、その時からいたわけじゃ…ないよね。さすがにね。
「いやー、それにしてもあれだけの地響きで尻もちつくんじゃーまだまだだなちっこいの」
また笑顔で俺の頭をポンポンと叩きながら青年はそう言った。
見られてたんだ…!!それにちっこくないし!!いや、小さいかもしれないけど…それは認めるけど…、ちっこくはない!!
「べっ、べべ別にちっこくなんか…!!」
うぅ…、怒りと緊張が混ぜあって気持ちわるい。
「ちっこいじゃねーか。ちっこいの。お前もあれのとこに行くつもりなのか?だったら…って」
どうせ引き返せって言うんだろ…と俺も思っていると、なぜか青年は途中で言葉をとめた。
そういや、お前もって言っていることからやっぱりこの人もあの魔物のところに行くつもりなんだろうか。武器もなしに。
「いや、お前なら大丈夫か。」
「へ、へ?」
急な発言に俺はわけがわからなくなり、大きく首を傾げた。頭の中はすでに半分オーバーヒートしてしまっている。
確かに、俺だったらその魔物くらい難なく倒せるだろうけど、今の鎧もなしに剣だけを腰にぶら下げている人を見てそんなこと言えるだろうか。
「えっと…あ、あの、どっどういう…」
「だってお前あの伝説だとか天才だとか言われてるあの剣士だろ?まさか…本当に子供だとは思わなかったけどよ」
だめだ…今度こそ完璧にオーバーヒートしてしまった…。なんでこの人いきなりそんなこと当てれるんだろうか。普通ならセリーヌさんみたいに自分から言ったところで信じてもらえないはずなのに。
いや、聞き間違いだという可能性もある。だってわかるわけないし…、絶対そうだって…。
「んじゃ、一緒にあのバケモンのところまで行こうぜー。俺も国の危機だからってあの王様から呼ばれたんだよ」
「え!?あ、そ、そうなんですか…。えっと…なんで俺の…」
「あー、俺の名前はガレア。よろしくなー、えっと…」
「…ザックです。よっ…よろ…」
「じゃあちょっと急ぐかー」
だめだこの人人の話全然聞いてない!?いや、俺の声がきこえてない!!
この調子じゃ今回この人に振り回されるだけだよ…。誰か助けてぇぇぇ。
ガレアに引きずられ、そのまま魔物がいると書いてあったところまで行くと、そこには何千人の兵士たちが集まっていた。
どの兵士たちも負傷していて、このままだとあと少しでその魔物に突破されてもおかしくない状況だった。
…こんなたくさんの兵士たちをここまで壊滅状態に追い込むなんて…、正直、ちょっと軽く考えてたんだけど、これは全然笑えないな…。兵士のみなさん本当ごめんなさい。
「…まさかここまでとはな。で、この兵士たちをここまで追い詰めたのがあの怪物ってわけか」
ガレアが顔を上げたところには、たった一匹、だが、とてつもない大きさの甲殻類の魔物が大きな地響きをならしながら歩いてきていた。
ハサミのついたその腕で、巨木を捻じ切り、進路をつくっている。右と左、どちらのハサミも大きく、前から挑んだところですぐに身体を真っ二つに断ち切られそうだ。
「これが城に攻め込んできたら、あっという間に破壊…街も跡形もなく破壊されてしまうかも…」
「そうならないためにも、俺たちでさっさと片付けてやらねーとなぁ」
「ふぇっ!?あ、えっと、武器…」
この人武器持ってないのにどうやって戦うの!?
俺が、自分の腰に下げていた剣を鞘から半分だしたり戻したりする動作を繰り返していると、ガレアは「そんなもん俺にはいらねぇよ」と言い、先陣へと歩いていった。
…でも、武器がなくて勝てるわけ…
俺は、さっさと歩いていくガレアを追いかけるように、先陣へと移動していく。
だが、一人の兵士に首根っこをつかまれた。
「…なんで君みたいな子供がこんな場所にいるんだ!?危険だから!今はとりあえずそこで静かにしてなさい!」
「い、いや…自分はその…」
どうしよう…、俺が王様から呼ばれてきたなんて言ったところで誰も信じてくれないだろうし…。
王様の意図で伝説の剣士が子供ってことは公にはしてないんだけど、ここの兵士にぐらい少しは説明しててくれよ…。
俺が首根っこを掴まれそのまま連れ去られている中、いつ戻ってきたのか、ガレアが俺と兵士の前に立ち塞がった。
「おい、兵士のあんちゃん。今から俺とこいつであのバケモンをぶっ倒すんだから邪魔しないでくれるか?あんたはそこでゆっくり茶でも飲んでな」
「何言ってるんだ君は…って、あ、あなたはまさか…!!」
「うっせー、そういうの俺は嫌いだから、さっさとそいつ返せよ。すぐ終わらせてくるから」
ガレアがそう言うと、兵士は俺をガレアに引き渡し、一度礼をすると、持ち場へと戻っていった。どうやら医療系の係の人だったらしい。
…それより、兵士のあの反応はなんだったんだろう。別にガレア自身からは自分と同じくらいにしか気力を感じないけど…。
「…ん?自分と同じくらい…?」
「んじゃあ行くぜ。ザックはとりあえず俺の後ろで構えてろ」
するとガレアは一つ深呼吸すると、大きな蟹の前で仁王立ちになった。
いつの間にか最前線で戦っていた兵士はみな後退している。
徐々にガレアから闘気のような赤いオーラが溢れ出し…、それが体全体にいきわたった瞬間、ガレアは勢いよく地面を蹴った。