5話
どうすればいいんだ…?
俺は周りを取り囲んでいる男たちを見渡すと混乱している頭でなんとか策を練った。
周りを囲んでいるほとんどが、だいたい俺より少し身長が高いくらいで、その中で1人だけゴリラのような体格をした男子が混じっていた。
…力がひ弱な俺に、あんなゴリラを押しのけれるわけないし。まあ、それ以前にここから動くこともできなさそうだけど。
「おい、話聞いてんのかよテメぇ」
「へっ!?あ…えっと…」
聞いてますよっ!聞いてます!!でもそんなに怖い形相で睨みつけられたららコミュ障で臆病な俺は口を開くことだけでも精一杯なんだよ!!
胸ぐらを掴まれた俺はそのまま宙に持ち上げられると、目線がその男子と同じ高さまで高くなった。
「ちょっ!やめてよっ!それはわ…」
「フランちゃんは黙ってて、これは俺たち男の問題なんだ」
男たちに跳ね除けられたフランは、そのまま自分の足をコントロールすることができずに数歩後ろに下がると、そこで尻餅をついた。
男女差別はよくないと思うんだけど…。
それにこれじゃあフランに嫌われちゃうんじゃ…。
と言うことはもちろんできず、俺はただ苦笑いしていた。
…フラン、ごめん。
突如、胸ぐらを掴んでいた1人が、俺を突き放し、俺は噴水の枠であるレンガの部分に思い切り腰をぶつけた。腰にかなりの衝撃が走り、俺は一瞬苦痛の表情を浮かべる。
いきなり、人を投げるのはどうかと思うんだけど。
俺は腰をおさえながら立ち上がると、反射的に背中にある剣の柄を握っていた。
「お兄ちゃん!!」
ふと、フランの叫び声が耳に届き、俺は柄から手を離した。
いや、斬ったりするつもりは…なかったよ?ついくせで…
「おい、お前そんな玩具で俺たちを斬れるとでも思ってんのかよ」
1人、あの体格のいい男が、今の俺の行動が気に食わなかったのか、挑発的な態度で俺に近づいてきた。
いや、さっきのフランの「お兄ちゃんっ」って声聞こえてなかったのかな…。それにこの剣が玩具って、多分この人たち一度も剣を触ったことないんだろな。
…セリーヌさんは一度見ただけでわかってたのに。
「おい、黙ってんじゃ…!!」
近づいてきた男が右腕を大きく振りかぶる。周りの男たちも制止しようとしたが、あの体格だし、まあ止めれるわけがない。
「ねぇ!!!」
その一声と共に打ち出されたパンチは見事俺の顔面にめり込まされるものだと思われた。
だが、そのボクサー並みのスピードであるパンチは綺麗に空中で止まっている。
パンチを打った本人も何が起こったのかよくわからないような表情で、ただ、そのまま、立ち尽くしている。
まあ、それはもともと俺が反射神経だけはもともと普通の人の何十倍もあるからなんだけど…。
そう、反射神経だけは昔からよかった。
パンチをすれすれの位置でかわした俺はそのまま男の近くまで近づくと、耳もとで1つ呟いた。
うん、言うことはたった1つ。
「えっと…あのぅ、俺…フランの兄…なんです」
よ、よし!言えた!!
俺は1人ガッツポーズを決めると、フゥ〜と安堵の息を漏らし噴水のレンガに腰を下ろす。
すると、その瞬間。その言葉をはっきりと耳で聞き取った体格のいい男子は顔を青ざめて後ろへ数歩引き下がった。
急な態度の変わりように、周りの男子たちも何事かと近寄ってくる。
「ふ…フランちゃんの…兄貴?」
一言。その男子から発せられた言葉に周りの男子たちの表情は驚きを隠せていないようだった。
…まあ、仕方ないよね。俺こんなに身長低いし、みんなフランに兄ちゃんがいるとか知ってるわけないし。
俺が「ははは…」と笑っていると、男子たちが俺の周りを取り囲んでくる。…あれ、俺また最初の状況に…。
「すっ、すみませんでしたぁぁぁ!!」
突如耳に響いてきた爆音に俺は耳を塞ぐ。一緒に閉じた目をゆっくりと開くと、そこには土下座した男子たちが俺を囲み、なんだか自分がすごい悪役なような感じになってしまっていた。
「い、いや……俺は別に…」
と、俺が勇気を振り絞って男集団に話しかけようとしたところ。なぜか襟が首に接近し、俺の首が締め付けられた。
誰かが俺の後ろ襟を引っ張ってる…!!
「お兄ちゃん。もういいから、行こ」
そう言った妹フランは、俺の襟をさらに上へと引き上げると、男子たちにベーっと舌をだして睨んだあと、さっさとその場を去っていった。俺を引き付きながら。
そのとき俺の目には、なぜかそのフランをみてニヤついている男子たちの姿が目に映った。あの調子じゃ…多分もう女子の友達なんかいないんだろうな…。まあ、俺が言えることじゃないけど。
「もう、怪我するようなこと…しないでよ…」
ふと、フランから漏れた言葉に俺は首をかしげる。
「ん?何か言った?」
「…バカお兄ちゃん」
「え、えぇ!?なんで!?」
前から女の子の考えてることってわからなかったけど…まさか妹の考えてることもわからなくなるとは…。
まあ、俺は男の人が考えてることもわかんないけど。
…さっきみたいに。
フランに引きづられて、男子たちから少し離れた俺は、フランに掴まれてる襟をなんとか離すと、立ち上がってお尻についた汚れを両手でパンパンと落とした。
周りを見ると、空はかなり暗くなってきている。
「急いで帰らないとなぁ…」
「ほんとだよ…誰のせいだか…」
え…俺のせいなんだあれ。
フランの応答にそんな疑問が少しでたが、まあ、そういうことなんだろう…。俺がぐずぐずしてなかったらあんなに長引くこともなかったし…。
まあ、それはどうあれ、ここからあと数分で家まで帰るのは…歩いてじゃまず無理だろう。
でも、数分以内に家にたどり着かないとあたりは真っ暗になってとても怖いことになってしまうし…。
…暗いのあんまり好きじゃないんだよなぁ。
「じゃあさ、お兄ちゃん。久しぶりに私をおぶって全力ダッシュしてよ」
「はぁぁ?1人だったら余裕だけど、俺ひ弱なんだぞ!フラン背負ってたら重くて走れないよっ!!」
「なっ!!おっ重くないし!お兄ちゃんのバカ!!」
…そういう意味で言ったんじゃなくて、昔より重いだろ…て意味で言ったんだけど……、でももう遅いし、一回頑張ってみるか。
俺は、くいくいと指で背中を指しながらフランに目線を向けた。昔からこれがフランをおぶるときの俺の動作だ。これをしたの…何年ぶりだろうか。
「懐かしいね。それ」
フランは一言そう言うと、何の遠慮もなく勢いよくピョンとジャンプし俺の背中に飛び乗った。あまりの衝撃に頭から倒れそうだったが、なんとか両手両足をつかってそれを防ぐ。
本当に重くなったんだからな…と心の中で叫びながらも、俺はフランを背負ったまま立ち上がり、そのまま一歩前進した。
…重い。このまま全力疾走したら本当に足が砕け散ってしまいそうだ。
3秒程、そこで立ち止まった俺は、大きくため息を吐くと、もう一歩を軽く…いや、素早く踏み出した。
突如、自分の足元から砂煙がまい、数秒も経たない内に俺とフランは街を飛び出す。
まあ、人気は全然なかったし、誰かに迷惑かけたってのはなかったと思う…たぶん。
そして、そのまま数十秒。足から聞こえてくるメシメシという音すら気にせず、そのスピードを維持しておれは走り続けた。