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3話

「とりあえず、これで依頼は達成ですね」


 セリーヌさんはそう言うと、俺が座っていた椅子の正面にある椅子に腰掛けた。

 とりあえず依頼を終わらせた俺とセリーヌさんは、報酬をもらえるまで時間があったためにです、城の中にある喫茶店のようなところで時間を潰していた。


「あの…その…俺、まだ未成年…なのでその。」


「いや、お酒じゃないのに成年も未成年もないですよ」


 あ、そうなんだ。ここ、あの酒場っていう荒くれ者が集まるような場所ではないのか。

 ほとんどそんなところに行ったことないし、全くわかりまへん…。

 俺は、セリーヌさんが頼んでくれたアッサムティーに口をつけると、音をたてないようにそれを啜った。

 この喫茶店の、濃い紅色のその飲み物は、コクが他のアッサムティーよりも濃厚で、甘みもあり、かなり俺好みの味であった。因みに渋さが強いため、ミルクティーにして飲んでいる。


「…美味しい!」


 あまりの美味しさに勝手に口が開き、俺はふと、そう呟いていた。が、すぐに自分で発言した言葉に動揺し、紅茶をこぼしそうになる。


「でしょ?ここの紅茶は美味しいんですよ」


 ニコリと笑みを浮かべながらそう言ったセリーヌさんは、自分の紅茶を上品に口へ運んだ。

 これを見ると、俺がどれだけ上手く飲めていなかったのかがよくわかる。まあ、こぼしそうになったとこから上品も何もないんだけどさ。


 俺は、一気に紅茶を飲み干すと、その場から立ち上がった。

 …そろそろ依頼の報酬をもらう時間だしね。


「どうかしました?」


「いっ、いや…その…あの…」


 そろそろ報酬を貰う時間かなと思って、だとかそんなふうな言葉を言えばいいんだ俺!!

 頭の中ではわかってるはずなのに、言いたいことが喉元に突っかかり、俺はそのあと一歩を踏み出せなかった。

 さっきは普通に「美味しい!」って言えたんだけどな。言ったっていうより、叫んだの方が合ってる気もするけど。


 セリーヌさんは、俺の様子に俺の傍まで近づくと、頭をさすりながら「緊張しなくても大丈夫ですよ。焦らなくても私はちゃんとザックさんの話を聞きますから」と、優しい笑みを浮かべたまま、そう言ってくれた。

 セリーヌさんにここまで気を使わせるなんて、もう俺本当のダメ男だなぁ。でも、ここで諦めたら今までの俺と一緒だ。セリーヌさんのからもアドバイスもらったし、…もう大丈夫。

 この時のセリーヌさんは、どこか、懐かしい雰囲気を漂わせているように感じた。


 俺は、一度深呼吸して、再びセリーヌさんと目を合わせた。すぐに心臓の鼓動がはやくなり、頭の中が混乱してくる。…焦らなくていい、そうだ、フランと話すように話しかければいいんだ。


「セリーヌさん」


「はい、ザックさん」


「今度から敬語で話さなくてもいいですか!?」


 って、違ぁぁう!!

 フランと話すようにと思ったけど!それを言おうとしたんじゃないからぁ!!

 何言ってんだ俺ぇぇ!!


 俺は頭を抱え込みながら、地面に座り込むと、人生の終わりのような、そんな表情をしたまま地面に頭を打ち付けた。

 こんな、言いたいことと別のことが口から発言されることって普通あるんだろうか。やっぱり混乱したままだったんだろうか…。


「いや、その、違くて…!」


 俺が必死に弁解しようとしたが、それはセリーヌさんの声に瞬くまにかき消された。


「別に敬語じゃなくていいですよ。友達じゃないですか!私は癖で敬語を使っちゃいますけど…。

なんか、すみません」


「いっいや、セリーヌさんが謝らなくていいです…いいよ!!」


 なんで俺、セリーヌさんに謝らせてるの!?

 最低だよ!全部俺が悪いのに!!


 俺がアタフタアタフタと慌てながらセリーヌさんの前をくるくる回っていると、セリーヌさんは今までの笑顔とはどこか違うような笑顔で「可愛いなぁ」と俺の頭を撫でてきた。この時のセリーヌさんはどこか、獲物を捕らえるような雰囲気があって、俺はよくわからない恐怖に背筋がゾッとした。


「お…俺は、男だし、全然可愛くないよセリーヌさん…」


「え?私そんなこと言ってないですよ?」


 嘘だ!絶対嘘だ!

 流石に今のは鈍感な俺でも嘘だということぐらい分かるし、気づいてないとも思わない!

 俺は、ジッと、セリーヌさんの目を大きな目で注意深く見つめた。

 すると、セリーヌさんはさんの目線は泳ぐようにどこか違うところに飛んでいく。これは、嘘をついてる証拠だ。毎回フランがそうだったからな、それくらい俺でもわかる!


「えーと…あ、そうだ。そろそろ報酬がもらえる時間ですよね?早く行かないと…」


 あ、話逸らした。

 セリーヌさんは視線を泳がしながら、逃げる場所を探すと、その場から立ち去ろうとした。

 結構慌てているその様子から、かなり動揺してるんだろう。

 歩き始めたすぐのところで頭からすっ転んでるし。

 …まあ、俺もそろそろここから出たいって思ってたし丁度いいかな。

 俺は、転んで地面に座り込んでいるセリーヌさんに手を貸すと、そのまま報酬をもらいにレッツゴー!と、セリーヌさんと一緒に歩き出した。


 そして、10分ほど俺たちは城の中を歩き回ったが、特に城の中の景色は廊下ばかりで変わることはない。


「この喫茶店、思ったより報酬をもらうところと距離あるなぁ」


 俺はそう独り言を呟くと、何となく周りを見渡す。城の中の廊下は、ところどころ外が見えるように窓がついており、そこから見える外はやはり沢山の住宅街が広がっていた。まあ、この城は街の中心に建つ建物だし、それが当たり前なんだけど。

 あと、独り言なら俺でも冷静に喋れる。話す相手が自分だしな。まあ、他の人だったらどうしたってテンパってしまうけど。

 それを克服するために友達づくりをしてるんだけど、セリーヌさんと友達になれた今でもテンパる癖は治っていない…。全然進歩なしである。

 いや、最初と比べたら少しは進歩…したのかな?


「って、あれ?フラン?」


 ふと、俺が顔を上げた先には、パフェを片手に満足そうな表情をしているフランが、次々とそれを口の中に詰め込んでいく姿が映った。

 一瞬、何故フランがここに!?と考えたが、そういえば今日は、この城で限定パフェが売り出される日だった。だからフランも片手にパフェを握っているんだろう。

 まあ、とりあえず、俺にも一応友達ができたんだ!依頼を受けるのは…セリーヌさんに任せちゃったけど。とっとりあえず早くフランにこれを伝えて、もうなめられないようにしないと!


「おーい、フラーン」


 しかし、フランには聞こえてないらしく、フランは黙々とパフェを食べ進める。


「お、おーい、フ…ラーン」


 が、フランは片手を頬にあて、とても美味しげな表情でパフェを眺める。


「あ…うぅ…」


 どうしよう…全然気づいてくれない。

もしかしたら人違いだったのかも…。いや、でも、あの白銀の髪にあんな大きな水色のリボンをつけてるような人は自分の妹しかいない…。

 髪の色が銀だなんて、この街でも多分俺とフランぐらいしかいないだろうし…。


「ザックさん?どうしました?」


「っ!?」


 突如耳元で囁かれた声に、俺は声にならない声を発しながら勢いよく後ろに跳ね退いた。

 今のはホンットにビックリした…心臓が飛び回ってそのまま一回転するとこだった…。


「い、いや…フランが。そこにフラン…。えっと、あれが…」


 どうしよう、ぜんっぜん説明できない!

 これじゃあ絶対伝わらないよね…


「え?もしかしてあれが先ほど言っていたた妹さんですか?」


 お…おぉ…すごい。伝わった。

 俺は、コクコクと首を頷かせると、未だに美味しそうにパフェを口に運んでいるフランに顔を向けた。

 でも、なんど名前を呼んでも気づいてくれないんだよなぁ…。

 そう思うと、だんだん悲しくなってきて、俺の視界は少しずつ謎の潤いでぼやけていった。


「わっ!わっ!?なっ泣かないでザックちゃん!!」


 いや、泣いてないよ!それにまたザックちゃんって…

そう思った瞬間、俺の頬を水滴が流れていることに気づいた。

 いっ、いや!これくらいで泣いてなんか…ないよ!


「ん、あ。お兄ちゃーん!」


 椅子に座ってパフェを食べていたフランは、やっと俺のことに気づき、手を振りながら近寄ってきた。

 よりによって目から水が出てる時に来るなんて…、あ、涙じゃないよ?


「お兄ちゃん。どうせ、いつものように誰とも話せなかったんでしょ。

ってなんで泣いてんの…」


「なっ泣いてなんかないし!」


 俺は水滴をゴシゴシと袖で拭うと、泣いてないと主張するために目を大きく開いた。

 そしたらすぐに目から滝が流れてきた。 

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