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2話

「あのー、勢いでゴブリン討伐の依頼を受けちゃったけど大丈夫ですか?」


「ひゃい!?あ…と、大丈夫ですよ!任せてくだひゃい!」


 ここで、バシッとかっこよく決めるつもりだったのに、思いきり声が裏返ってしまった…。

 俺のこの返しっぷりからセリーヌさんは少し苦笑いしている。

 あーもう!緊張しすぎだろ俺!もう少し!もう少しだけでいいからリラックスしてくれぇ〜…

 因みに今、セリーヌさんと一緒に城からでたところだが、現在セリーヌさんは俺が本当に伝説の剣士だとは思ってない様子である。まあ、この体の大きさだし、最初から信じてない感じだったし、仕方ないだろうけど。


「あっ、あの!本当に大丈夫ですので!心配しないでください!!」


 よし!今回は上手く言えた!

 だが、その言葉を発した途端、俺は後ろにあった石レンガに足を引っ掛けて後ろにひっくり返った。

 あまりに無様な転び方だったので、俺は顔を真っ赤に染め、セリーヌさんの顔色を伺う。

 さすがに、今の転び方を見てしまうと、絶対俺のこと信じてくれないだろうな…。

 いいところ見せたかったけど、依頼は破棄するしか…。


「…か、可愛い…」


 セリーヌさんの目は、どこか俺と違うところを見ている気がした。いや、そういうことにしておこう。

 …とりあえず、今のはノーカウントになったってことだから、大丈夫?だよね?


「とっととりあえず、ゴブリン討伐だし、森の方へ移動しましょうか」


 俺は転けたことをなかったことにするように、目線をセリーヌさんから背けながらそう言うと、街の門がある方へ指差した。

 顔はまだ真っ赤のままだけど、セリーヌさんなら気づかないでしょう!いや、そっとしておいてください!


 俺が指差している街の門の入り口は、俺の家のある草原の真逆の位置にあり、草原の場所と比べるとモンスターの数は多く、さらに奥に行くほど強力なモンスターがわんさかといる。


 因みに、今回受けた依頼はゴブリン討伐というそこまで大したことのない依頼なので、そこまで奥まで移動する必要はない。

 正直、ゴブリン100匹に囲まれても1人で対処できる自信がある。


 いや、1人でじゃなくて、1人限定でなんだけどね。

 他に人がいたら緊張していつものポテンシャルが引き出せないと思う。例えば、今回のようなセリーヌさんが一緒にいる時…とかね。


「ゴブリン程度ならザックさんをかばいながらでもなんとかなりそうですし…大丈夫…かな。じゃあ行きましょうか!」


 …ちょっとまってぇ!!確かに頼りなさそうだろうけど、最初からここまで期待されてないと俺もかなり精神的にショックだよ!!


「あ!えっと…その…」


「どうしました?」


「いや!?なんでもないですっ!!」


 うぅ〜…。ここで何も言いきれない自分がすごく悔しい…。

 俺は、不満な表情をしたまま、金色の長髪をした、1人の長身の女性の後ろ側を歩いて行った。

 あった時思ったけど、セリーヌさんって女性の中では長身な方だよな。

 少なくとも俺と10センチ近くは差がありそうだ。いや、俺男だからかなりショックだからね!身長低いから子供扱いされてるんだと思うけどさ!


 石レンガを円状に並べてつくってある噴水広場を通り抜けると、だんだんと森側の門の入り口が俺たちの目でも見えるようになってきた。

 ここまで約30分、真ん中に建つお城からここまで歩く、草原の入り口からここまで横断するだけでこんなに時間がかかることからこの街はかなりの広さだということがわかる。


 いや、全力で走ればこれくらいの距離、数十秒で走り抜けれる自信はあるよ?ただ、今はセリーヌさんもいるし、街の人が風圧で飛ばされても大変なので歩いて移動しております。


「そういや、ザックさんが手に持ってる剣ってかなりの業物ですよね?誰かから譲ってもらったのですか?」


「ひゃい!?こ…この剣ですか?」


 急に声をかけられたせいか、また全然頼りなさそうな声をあげてしまった。本当この癖早めにどうにかしないと…みんなから頼りない系男子って思われちゃうよ!!

 いや、もう思われてるか…。


「この剣は、俺のですよ…。俺…の妹から鍛冶屋にオーダーメイドしてもらって造ってもらいました」


 テンションがガタ落ちしたせいか上手く言えたのは言えたけど、妹にしてもらったって言うのはやっぱり兄としてかなり精神的に苦痛だ!!


「妹さんの剣なのですか。妹さんは相当な剣の達人なんですね」


 チガァァウ!!!


 とは、声に出せず、俺はあははと笑みをセリーヌさんに返すだけであった。

 もう少し自分の意見を主張しようよ。俺。

 でもそれができたら苦労しないんだよなぁ、それができたらコミュ症なんかとっくに卒業してる!!


 って、そんなやりとりしてる間に門過ぎてたし。

 俺は周りを見渡すと、思ったよりモンスターが少ないことに少しずつ驚いた。

 この、俺たちが先ほどまでいた街のすぐ目の前にそびえ立つ大森林は、その街の約3倍程の大きさだと言われており、この森を抜けるには約3日間ほどの時間がかかると言われている。

 最も、奥に行くほどモンスターの強さが強くなっていくので、他の村などに行く時は、普通はこの森を通らずに俺の家のある草原側から移動するのが常識である。

 まあ、たまに遠回りをするぐらいならこの森を通る方がいいという猛者もいるっぽいけど。


「なんか…今日はいつもと違う気がするな」


「?、そんなことがわかるんですか?確かにモンスターの数が少ないような気もしますけど…」


「うわぁっっとわっしょいしょい!!!」


 って、なんて奇声あげてんだ俺はぁぁぁぁ!!

 少しの間セリーヌさんがいることを忘れていた俺は、その声を聞いた瞬間奇怪な踊りを見せながら近くの木に隠れるように移動して行った。

 そして、少し時間が空いてから「すっすみません」と言いながら木の幹の横から顔をだす。


「って!!ザックちゃん危ない!!」


「へ?ザックちゃん?」


 セリーヌさんからの謎の呼び方に疑問を持ちながらも後ろを振り向くと、もうすぐそこまで錆びた大剣を振り下ろしているゴブリンの姿があった。

 その大剣に大量の血が付いていたことから、このゴブリンはここで狩りを行っていたのだろう。ならモンスターが少ないのことにも納得できる。


「でも、俺に狙いをつけたのはとんだ間違いだったな」


 俺の目は、ゴブリンの姿を確認した瞬間、獲物を捕らえた狼のような目つきに変わり、そのまま何の造作もないように抜刀した片手剣でゴブリンの首を斬り落とした。


 斬り落とされたゴブリンの首はそのまま重力に逆らうことなくボトッと生々しい音をたてながら地面に転がった。

 返り血もついていない剣を空中で一振りすると俺は再び鞘の中へそれを戻し、一呼吸つく。


「えっと…あの…セリーヌさん?その…ザックちゃんって言うのはどういう…。いや!?特に理由がないなら言わなくてもいいんですけどその…」


「今の…ザックさんが斬ったんですか!?」


 確かに、俺が斬ったけども…今はそれよりザックちゃんって呼ばれたことの方が気になりますザック。


「あの!?ザックさん!?」


「ひゃい!!」


 俺が裏返った声で返事をすると、セリーヌさんは未だに信じられないのか、何度も俺の顔と切り離されたゴブリンの首を交互に見て、あたふたしていた。

 正直今はザックちゃんと呼ばれたことの方が頭に引っ掛かってる俺であるが、今は、伝説の剣士だとわかってもらえるチャンスだ。我慢しよう。


「えっと…はい。今の俺が斬りました!一応伝説の剣…」


 突如、先ほどのゴブリンの仲間なのか、1匹のゴブリンが俺の背後まで接近すると、そのまま手に持った錆び付いた剣を振り下ろし、俺の全力の説得を阻止してきた。

 ここのゴブリンはあまり利口な種ではなく、仲間意識なんてないはずなんだけど…。

 まあ、襲ってくるんならもう少し後か前にしてくれればいいのに!なんでこんな微妙なタイミングなんだよ!!


 俺は、頭上に振られた剣を右側に転がるようにして躱すと、鞘におさめていた剣を再び抜き出す。


「くそー!さっきから邪魔ばっかりしやがってぇ!」


「…ザックさん。いっいったい何者…?」


「伝説の剣士ですってばぁ!!一応!」


 その掛け声と共にゴブリンを一閃すると、血が剣についてないことを確認しながら鞘に戻す。

 血がついた汚い剣を鞘に戻したくないしね、確認は大事だ。超大事。


「…ザックさんが、本当に、伝説の剣士?」


 やっと、本気にしてくれてきたのか、疑問系ながらもセリーヌさんはそう言いながら俺をジッと見てきた。まだ少し疑ってるようだけど…、いや、疑うのはいいから…、そんなに顔を近づけて見つめないでくれぇ〜!

 俺がそんなふうに思っていることに関わらず、セリーヌさんはズイズイと俺のすぐ目の前まで近寄ってくる。


 俺が赤面しながら目をあちらこちらと泳がせていると、セリーヌさんもそれに気づいたようで「あ、すみません。ジッと見ていたら可愛らしくてつい…」と意味のわからない言葉を口にしながら俺の目の前から数歩引き下がった。


「コミュ障ショタが伝説の剣士…。うーん…」


 コミュショウショタガって何?

 かなり真剣そうな顔で独り言をつぶやくセリーヌさんを見て、俺はふと、そう思った。

 っていうか、今何時だろ。そろそろ帰らないとフランからの怒りの鉄槌が…。


「んー。まあ、伝説の剣士がどうとかはとりあえず置いておいても大丈夫かな。ザックさんが可愛いことには変わらな…」


 そこでふと、我に返ったのか、セリーヌさんは、俺がジーっと自分を見上げていることに気づいたようだった。


 「いっ!いや!?なんでもありませんよ!?」と俺は何も言ってないのに反論すると、話をはぐらかすように「じゃあ今日はここまでにして、帰りましょうかっ」と1人急ぐように街の方へ歩いて行った。

 ちょうど俺も帰りたいって思ってたし、そうしよっかな。いろいろ言いたいことはあったけど…。

まあ、言いたくても言えないけどね!コミュ障だから!

 俺は、1人歩いていくセリーヌさんに追いつくよう、小走りでその後を追うと、そのままセリーヌさんの横まで行ってそこから一緒に歩いた。


 そういや、セリーヌさん。コミュ障って言ってたような…。まあ、それは気づいて当然だろうけど、その後に何か言ってたような…、伝説の剣士だっけ?いや、違うような…まあいっか!


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