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第六話~水~

二日連続投稿です! さてさて、今回も物語が大きく動きますよぉー!

『臨時ニュースです。今月の14日から行方不明となっていた中学三年生、竹原舞さんが先程、都内の神木山で発見されました。衰弱していますが、命に別状はないとの事です。また、竹原さんを誘拐したと見られていた40歳無職、佐山渡容疑者が、近くの交番近くに縄で縛られて放置されている所が発見され、警察はこれらの関連を調べています……』


「あ、あの山、神木山っていうんだ」


 そう呟くと、出汁巻き卵を頬張る。うん、美味い。


 昼。帰宅した俺が昼食がてらお昼のニュースを見ていると、さっき助けた竹原さんのニュースが流れてきた。尻尾で掴んだままだった誘拐犯は麻縄で縛って交番近くにポイッと捨ててきたんだが、ちゃんと捕まったみたいだな。というか、容疑者の絞り込みできてたんかい。


 味噌汁を啜りつつ、午前中の出来事について色々と思案する。誘拐事件に関しては後は警察がやってくれるだろう。俺という摩訶不思議存在がやったことで生じる矛盾とかはそっちで適当に解釈してもらえるだろうし、大した問題じゃない。竹原さんが誰かに俺の事を言うかもしれないが、聞いた人は衰弱状態の幻覚か何かだと思うだろうし、誰かが信じたとしても俺としては何の問題もない。


 というのも、人を助けたりする上で人に見られないようにするというのはほぼほぼ不可能だという事がよく分かった。前回の間宮さんの件、今回の竹原さんの件と、俺の関わったものは今のところ人目の無い山や森で起きた事だったからまだ良かったものの、人命のかかるような事件、事故というのは大抵町中で起きるものだ。そんな環境で俺のあの目立つ格好を隠しつつ助けるというのは無理がありすぎるのだ。


 最も、だからといってテレビにでも出演しようという訳ではない。基本的には出来る限り人目を避けるが、見られるのを警戒しすぎるあまり人を助けられなかったりしたら本末転倒もいいところ。だからどうしても仕方のない時には、ドラゴンの姿であっても人前へ躊躇わず出ていこうという事だ。だから、わざわざ必死になって自分という竜の存在を隠す気はないのだ。


 話が逸れてしまった。納豆を混ぜながら、思考を元に戻す。


 俺が今悩んでいるのは、竹原さんの精神世界をこじ開けて気絶中の彼女と会話をした、聖樹という存在の事だ。竹原さんの話を聞く限り悪い人(?)では無いと思うので、もしかしたら俺の活動の協力者になってくれるかもしれない。あれだけの力を持つ存在が仲間になってくれれば、これほど心強い事はない。


 という訳で俺は、後日再びあの神木山へ向かう事にしたのだ。さて、贈り物は何にしようか。一回「粗品ですが」って言葉使ってみたかったんだよね。良い機会だ。


 食べ終わった食器類を片づけて明日の準備を始めようとした……その時。


「……!?」


 突如、数千、数万という数の命が発する凄まじく強い死の臭いが、俺の嗅覚を刺激した。



「父ちゃん、ポイント着いたよー」


「おう。水揚げ準備だ」


 太平洋側の洋上。一隻の小さな漁船が、仕掛けた網を回収しに来ていた。その中には、ベテラン漁師の父と、最近漁師になったばかりの息子。


 キュルキュルキュル……


 海に浮かんだブイを回収し、それについている網を機械が巻き上げていく。そうしてあがってくる魚達を、次々にとっていった。いつも通りの、平凡な日常。……“あれ”が来なければ。


「ん?」


 息子が、ひれが絡まっていた魚をどうにか網から外し終わって息抜きにすっと顔を上げると、海の遙か遠く、水平線のあたりに、白い線が一本、延びているのが見て取れた。最初は見間違いかと思ったが、自慢の視力がそうではないと訴えてくる。また、見れば見るほど、それは近づいてきているように見えた。


「どうしたぁ、健二」


 遙か大洋を凝視する息子に気づいた父も、同じ方向を見る。と同時に、だんだんとその顔は青ざめていった。


「健二ぃ! 魚は取らなくていい! さっさと網引き上げろ!」


「父ちゃん……? あれは一体?」


「いーからさっさとしろ!」


 普段優しい父親が突如として声を荒げたのに驚いた息子だったが、その父親の顔に恐怖の色が浮かんでいるのを確認するや否や、急いで作業にとりかかった。理由など聞かずとも、あの顔を見れば何かヤバい物が迫っているのくらいは分かる。


「父ちゃん! 終わったぞ!」


 息子が網を引き上げ終わったのを告げると、操舵室で待機していた父は慌ててスクリューを回し、港へ一直線に進んでいった。


 波を切り裂いて進む船首。しかし後ろからやってくるそれは、それよりも更に速く船へ、いや陸へと迫ってきていた。


「……え」


 海風に吹かれながら疾走する船の上、後ろより迫るそれを見た息子は、その正体を知り、顔を恐怖の色に染めていった。もはや彼の目でもはっきり見える距離まで来ていたそれは、全てを飲み込まんとする破壊の化身、これまで見たこともないような大きさの高潮だった。


 もしあの時、父親があれの正体に早く気づいていなければ、突然の父親の怒声に従っていなければ、今頃とっくにあの暴力の塊に飲まれていた事だろう。しかし二人には、早急に対応できた事を喜ぶ余裕すらなかった。どの道、港へ着く前にあの波に追いつかれてしまうのは明白だったからだ。


「畜生っ……」


 息子が嘆きの声を上げる。本来ならば、二人の命はここで潰えていただろう。事実、この時点で世界は彼ら二人が死ぬ事を決定づけていた。故に、彼らがどれだけ足掻こうと、誰かが救助へ向かおうと、助かる見込みはゼロのはずだったのだ。……世界も予測できない、“問題児”がやってくるまでは。


「グオオォウッ!」


 船首が波を切る音、エンジンの唸る音、強い風の音しか無かったこの場に、場違いな鳴き声が響いた。



「グオオォウッ!(最後の一隻みーっけ!)」


 ひー、危ない危ない。あと数分も遅けりゃ間に合わない所だった。


 俺は今、太平洋側の海の上を滑空中だ。先程俺がキャッチした強烈な死の臭いの臭源は、洋上に少数、そして沿岸沿いに大量に分布していた。まぁ、この分布を見れば何が起こるかは一目瞭然、恐らくは巨大な波でも発生するのだろうと思って海の上を探し回っていたんだが、見事にその予想は的中した様子。巨大な、まさに壁のような高潮が、陸へ向けて絶賛爆進中だ。


 さて、船は沖に出てた方が波に強い、なんて事をどっかで聞いたことがあったが、正直この小さな船であの波を乗り切るのはあまりにも無理があると思う。といいますか、ここいらの船で死の臭い発してるのあの船だけなんですよね……。世界よ、お前は一体どんな予想をしているんだ、ちょいと他の船強すぎやしないか?


 ……さて、これから俺はあの船を救助するつもりなんだけれども、いくら俺が巨大なドラゴンであの船が小型だとしても、一応何トンもある船を持ち上げて飛ぶのはちょいと無理がある。いや、重量的には大して問題ないんだろうけど、あの流線型の船のどこを持って飛べと言うのですか。


 という訳で、船そのものを持ち上げるというのはあまり現実的じゃない。となれば、最低限の物だけを持って飛ぶ事になる。最低限の物、即ち……。


 船の上には、爽やかな青年とナイスガイなおっさんが見える。師弟、いや親子か。どちらとも、唖然とした顔で上空を旋回している俺を見上げている。最近漁業やら農業やらの担い手が減っているって良く聞くが、という事は彼は数少ない今後の漁業を支えていく一人な訳だ。これは今後も頑張っていただきたいものですな。


「グオワアアッグオオゥ(という訳で空の旅へご案内ー)」


「おぉ!?」


「うわぁぁ!?」


 船の後方から掻っ攫うようにして二人を回収する。操舵していたおっさんがいなくなった事で推進力を失った船はスピードを落とし、やがて高潮に飲まれて消えていった。ひー、恐ろしい。


 現在持っている二人の様子を確認する。二人ともびっくりしすぎて微動だにしない。というか、お父さんの方は気絶してしまっているようだ。……間宮さん然り竹原さん然り、俺が関わると大抵誰かしらが気絶するのってどうなんだろう。まぁ、こんな姿だから仕方ないとは思うんだけど……。


 さて、人体に影響が無い程度のスピードに抑えているとはいえ、やはり船なんかよりも遙かに早い俺の飛行速度、あっという間に港へ着いた。


 適当にその辺の丈夫そうな民家の屋根の上に二人を降ろすと、ターンして急いで引き返す。後ろを振り返れば、息子さんが気絶しているお父さんの所へ駆け寄るのが見えた。実に感動的な場面だが、まだ二人や沿岸部の人々の死の臭いは消えていない。あの巨大な高潮をどうにかしなければ、彼らは助からないという事だ。


 港の前にある堤防の上に着地し、目の前に迫ってくる巨大な水の壁を睨みつける。正直、あの巨大な波を止めるなり何なりする手段なんて思いついてない。俺の全力の咆哮でもビクともしないだろうし……。要するに、またご都合主義が発動するのを待っているのだ。……うん、罵倒されてもおかしくない選択肢を選んでいるのは自分でも分かってる。でも、これまで幾度となく俺自身の予想の斜め上を行ってくれたこのホネホネボディだ、どうにかなってしまうのではないだろうか? 精々数十人を安全圏へ運ぶのよりも、全員が助かるかもしれないこちらに俺は賭けたい。


 やがて、高潮は俺の目の前へとやってきた。ここまで近づいて、その大きさに圧倒される。この巨体となった俺を難なく飲み込めそうなその破壊の化身は、全てを破壊せんと迫ってくる。俺はアンデッド、例えこの高潮に飲み込まれたとしても死ぬ事はない。しかし俺の後ろには、何の前兆も無くやってきたこの高潮に気づく事すらなく、平和に暮らしている人たちがいる。俺がどうにかしなきゃならない。俺が……。


 ついに高潮は、あと十秒ほどで俺のいる所へ到達する場所まで迫っていた。その圧倒的なパワーを目の前に、俺は思考がストップしかける。それは、恐怖。ドラゴンに生まれ変わる以前、ただの中学生だった頃からの、いや、生物としての本来の生存本能が、ガンガンと警鐘を鳴らしていた。俺では、この強大な力を止める事はできない。そう、俺では……。


 恐怖と同時に、無力感に襲われる俺。折角こんな強大な力を手に入れて、人の役に立てると思って……。その結末はこれだ。さっきまで軽くおちゃらけていた自分を怒鳴りつけてやりたい。凄まじい力を手に入れたとはいえ、それは飽くまで竜としての力。大自然の力には、いくら竜とはいえ敵わないのだ。


「それはどうだろうな」


 頭の中が真っ白になった俺の耳に突然声が響く。何かと思って周囲を見渡そうとするが、体が自由に動かない。……この感覚には覚えがある。そう、昨夜の夢の中、あの荒野の夢の時と同じ感覚だ。しかし、五感はちゃんと機能しているらしい。


「世界間召喚、属性“水”」


 体が勝手に動き、バサリと翼が広げられる。体を後ろへ反らし、咆哮の準備姿勢へ入ると、口の中に何かが収束していくのが分かった。そして俺は気づいた。この声は、スカルの声だ。そしてこの声は、俺の口から発せられている。


「我が召喚に応じ、我が主の力となれ。水竜ウォータードラゴン、アクア!」


 俺の体が、前方の水の壁へ向けて大咆哮を放った。それと同時に、俺の口から白い極太のレーザー光線のようなものが射出される。それが高潮に到達すると、その表面に光り輝く円……アニメなどでよく見る魔法陣のような物が現れた。


 俺の口から発せられた光の束はすぐに消え去ってしまう。そして魔法陣も、一際強く輝いたかと思うとその中央にに収束して消えてしまった。後に残るのは、さっきよりも更に近づいた水の壁のみ。一体、今のは……?


「クオォォォン……」


 何が起こったのか分からず混乱した俺の頭蓋骨内に、高く澄んだ、綺麗な鳴き声らしきものが響いた。それと同時に、俺の数メートル先までの所へ迫っていた高潮がピタリと動きを止める。そしてますます混乱していく俺の目の前で、ゆっくりと静かに崩れ落ちていった。そうそれはまるで、垂れ幕が切り離されて落ちていく様にそっくりだった。


 かと思えば、今度は世界が九十度回転する。いつの間にか体の主導権が戻っていた俺は、音をたてて倒れこんでいた。体がドラゴンの姿から人間のものに戻っていく。急激な睡魔に襲われた俺の遠のいていく意識の中、崩れ落ちた高潮の後ろから、一匹の猫のようなものが見えた気がした。


《リーダー……》


 優しく可愛らしい声が頭に響くのと同時に、俺は深い眠りへと落ちていった。

さぁーて、また新たなキャラが登場です! 現在かなりテンポよく書けているので、更新ペース上げられたらなーって思ってます。まぁ、現在読んでくれている人がいらっしゃるか怪しい所ですが……。

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