第二話~アンデッド~
どうも、作者です。お久しぶりです!
最近色々と忙しく、なかなか投稿できませんでした……。
読んでくださっている方がいらっしゃるかどうかは分かりませんが、今後とも頑張っていきますので、宜しくお願いします!
「周囲に人影……無しっと」
昨夜ドラゴン宣告を受けた俺は、近くの山にある森、そこの湖のほとりへとやってきていた。ここなら人も滅多に来ないし、"竜化"とやらを試すのに丁度いいと思ったのだ。それにしても本当、今日が休日でよかった。本来ならカウンセリング受けに行ってる日なんだよなぁ……。
……正直、外見とかあんまり期待してない。だってさ、アンデッドだよ? アンデッドといえばゾンビでしょう。
いや、スカルのいた世界にそういう概念があったかは分からないし、アンデッド=ゾンビって決めつけるつもりでもないけど、ドラゴンゾンビなるものもRPGゲームとかでたまに見るし、俺もその類なのではないかという懸念がですね……。
「……で、どうやるんだろ」
しまった、具体的な竜化の仕方を聞くのを忘れていた。全く、どうして俺はこういう大事な時に……おっちょこちょいもいいとこである。
普通こういう類の小説とかだと、説明役的な妖精や小動物、はたまた第一ヒロイン様がいらっしゃるものなのだが……生憎ここは俺の生まれ育った世界、そんなものは居やしないのだ。強いて言うならスカルがそのポジションなのかもしれないけど、可愛くないと俺は認めない。
これは……面倒だな、どうやら基本手探りでやるしかないみたいだ。
……まぁ、折角ここまで来たんだ、やるだけやって、無理だったら今夜改めて聞けばいいのである。
さて、確かスカルは任意で出来ると言っていたが……イメージすればいいとか、そういう事か?
というわけで、試しに自分がドラゴンになるところをイメージしてみた……その時だった。包帯で覆っている左腕から、黒煙のようなものがあふれだしてきたのである。そうそれは、夢の中でスカルの周りを覆っている、あの黒いもやそっくりだった。
黒煙はたちまちのうちに、俺の全身を覆ってしまった。そしてその中、自分の体がだんだんと変化していくのがぼんやりと分かった……のだが、如何せん全身黒煙で覆われているために直接見ることはできない。
俺はただ、体が変わっていくという不思議な感覚に身をまかせたまま、この煙が晴れた後の己の姿を想像して身震いしたのだった。
◆
美しい自然の広がるこの森。鳥はさえずり、リスがかけまわりと、都会の近くではなかなかお目にかかれなくなってしまった自然が、ここにはあった。
清流の注ぐ湖も、底まで透き通るほど綺麗な水で満たされ……あ、コイが跳ねた。
その波紋は、鏡のように綺麗に空を写す水面に広がっていき……そこに写り込む白い陰を揺らした。
うわぁ…………。
現実逃避を終了した俺は、改めて水に映る己の姿を見た。まぁ、想像していたような腐った肉体ではなかったけれど……これも結構キツいものがある。
今の俺の体は……全身白骨だった。勿論人間のものではない、巨大な恐竜のような。
二足歩行のその巨体はティラノサウルスを思わせるが、その大きさの割に華奢に見える骨格は小型肉食恐竜のようだ。前肢もそんなに小さいというわけではない。
背中に生えたこれまた巨大な翼にも勿論皮膜は無いが、これでも飛べるのだろうか……?
頭には夢の中のスカルと同じ立派な二本角が生えており、本来眼球の収まっているべき大きくて真っ暗な眼孔の中には、これまたスカルと同じ赤い光の点が怪しく揺らめいている。
所謂、スケルトンか……。冷静に考えれば、スカルという名前や腕の白骨化から容易に想像できただろうが……ドラゴンという圧倒的現実に塗りつぶされて気がつかなかった。でもまぁ、腐ってないだけマシか……。見方によっては格好いいし。
というか、まさか本当にイメージするだけで出来るとかいう簡単仕様だったとはね。最も、呪文詠唱とかだったらお手上げだったから良かったけど。
早速体を動かしてみる。どうやらちゃんと頭はこの体に対応しているようで、前肢後肢、さらには人間には無い器官である尻尾や翼までも、思い通りに動かす事ができた。ご都合主義なようで何よりである。
となれば早速……飛んでみようと思う。
実は俺、昔っから空飛ぶのが夢だったんだ。子供っぽい上にありきたりな夢かもしれないけど。で、それを前に友達に言ったところ……。
『飛行機に乗れば良いじゃん』
違う、そうじゃない。俺は“自分の身一つ”で飛びたいんだ。
翼を大きく広げる。どうやらこんな見た目でもしっかり空気を動かしているらしく、周囲の木がざわめいた。
さて、念願の飛行をこれから行うわけですし、一発咆えますか。理由? そんなの気分だよ、気分。
大きく空気をを吸い込む。一瞬、どうやって空気を吸ったり溜めたりしているのか疑問に思ったが、すぐに考えるのをやめた。そんなことをいちいち悩んでいてはキリがない。これはファンタジーなのだ、ファンタジー。
そしてありったけ口を開いて……。
「グオオオオオォォォォォ!!」
大声量の咆哮が、山に木霊する。鳥は一斉に慌てて飛び立ち、小動物達は狂ったように逃げ出し、湖には失神した魚達が浮き上がった。
……いや、まさか、ねぇ? こんなでっかい声だとは思わないじゃん。なんか……ゴメンナサイ。今後はむやみに咆えないようにしよう……。
……ゴホン。さて、気を取り直してっと。
ビックリして縮こまってしまった翼を再び広げ、大きく振りあげる。そしてぐっと力を入れ、思い切り振りおろした……のだが。
「グォアァッ!?」
強い風の音がしたかと思えば、直後に襲う浮遊感。そしてそれに驚いた俺が、すぐに対応出来るわけもなく……。
ズドォン!
轟音をあげ、土埃を舞い上げ、地面に頭から落下したのだった。
◆
さて、どうしたものか……。
赤い光の目を細め、思案する俺。
どうやらこの翼は、俺が思っていたよりも揚力が大きかったようだ。所詮骨と見くびっていたみたいだな……。
おかげさまで予想外の高さまで飛び上がった俺は、思考速度が追いつく前に頭っから地面に激突、肉体ならぬ骨体がバラバラになってしまったのだ。
……いやマジで、どーするよ、これ。
高さ30メートルくらいだったか? このあたりの木を軽く越える高さまで飛んだみたいだし、そんなものだろう。確かにそんな高さから落ちれば、骨がバラバラになるのも無理は無い。慎重に行動しなかった点は、今後の課題だろう。
それよりも今は、どうやって元に戻るか、である。
さっきからいろんな所に力を入れてみたりしてるんだが、散らばった骨達は元に戻るどころかピクリとも動かない。
これは……かなりマズイ状況なんじゃないか? いやいやいや、転成小説とかでもこんな序盤で積むとか見たことないし、何か解決策はあるはず……。
よし、まずは落ち着いて状況を確認しよう。
ええっと、どうやら基本的に外れてしまった骨は動かせないらしい。ただ、俺の頭蓋骨に触れている骨だけは動くみたいだ。本体(?)がこの頭蓋骨なんだろう。
しかしまぁ、ほぼ全ての骨がバラバラに散ってしまっているわけだし、自力で動く事による復帰は難しい事に変わりはない、か……。
……ん? 待てよ? 自力で動くのが駄目なのならば……。
ここで、俺の頭は一つの可能性を導き出した。早速、実行してみる。
頼むぞ! そう念じ、俺は頭の中で自分の体が元どおり組みあがる所をイメージしてみた。
すると、周囲に転がっていた骨の関節部分から例の黒いモヤが触手のように伸び、元の場所につながり始めたではないか。
……フフフ、やはりそうだったか。竜化をする時もイメージだったし、今回も行けるかもと思ったが、当たっていたようだ。御都合主義、万歳。
それにしても……この光景、なかなか怖いな。合体シーンはロボットアニメでは定番のシチュエーションだが、骨からのびた黒いモヤが入り乱れて合体していく光景は軽くホラーだ。最速、子供アニメに採用できるような光景では無い。
そんな下らない事を考えているうちに、頭蓋骨も首に乗り、無事に復元が完了したようだ。
ふぅ……全く、今回は俺のナイスな機転で何とかなったものの、もしあのまま何もできずにいたらと思うとゾッとする。ここは人は滅多に来ないとはいえ、数日に一人や二人はやって来るのだ。山の絶景を見に来たつもりが巨大な竜の骨発見しちゃった、なんて洒落にならないだろう。
さて、思わぬトラブルに本来の目的を忘れる所だった。飛行実験、再会である。ま、お陰でこういった場合の対処方を知る事ができたし、結果オーライというやつだろう。
今度はゆっくりと、翼を動かす。先程の実験で、どのくらい動かせばちょうどいいのかは大体分かった。
フワリ。
体がゆっくりと地面から離れ、そしてそのまま上昇していく。俺は、まるで歩くかのように自然に飛べていた。
全く、なんでこんな簡単な事をさっきはできなかったんだ? まぁ、粗方力みすぎていたせいであんな事になったんだろうが……。恥ずかしい限りだ。
等と脳内でボヤきながら、先程俺が跳躍したと思われる所を通り越し、さらに20メートルほど上昇した。すると目に飛び込んできたのは……美しい山の風景だった。
おぉー! 絶景かな絶景かな。普段見慣れたこの山も、空撮だとまたひと味違って見えるな。
最近話題の4Kテレビというのをこの間電気屋で見たんだが、あれよりもずっと綺麗に見える。リアルで見ているというのもあるが、ドラゴンになったためか視力が大分上がっているようだし、そのお陰もあるだろう。これは他の場所も是非見てみたいものだな……。って、ん?
雄大な大自然の中、どう考えても場違いなホネホネドラゴンが勝手に感動していると、突如妙な臭いが鼻をついた。
まるで腐肉のような、鼻が曲がるような臭いが、ある方向から漂ってきたのだ。ドラゴンになって鼻が良くなったのか?
普通の人間ならば、嗅いだだけで吐き気を催すほどの激臭。だが俺は、どういうわけかその臭いに懐かしさを感じた。
行こう。そう思った。
特に理由は無い。だがなんとなく、俺はその場所――臭いの発生源へ向かわなければならないような気がしたのだ。
自分の心に沸き起こった、使命感にも似た不思議な感情に若干戸惑いつつも、俺は静かに飛翔を開始したのだった。
◆
(どうして……あんなことになってしまったの……?)
ある山の森の中、一人歩く女性がいた。
その女性の名は間宮涼子。新宗教“竜神教”に所属する、生物学者だ。
竜神教。竜を絶対神とし、その竜を畏怖し崇める宗教である。まだ生まれて間もない宗教ではあるが、最近になって急激に信者を増やしている宗教でもある。
その異常な成長速度から、一時期カルト集団として危険視されていた時期もあったこの竜神教だが、竜は美しい場所を好むという理由から町の清掃活動を行ったり、竜は全ての生物を平等に扱うという理由から動物愛護や自然保護に対しても積極的だったりなど、社会的、人道的に貢献している面が非常に多いため、最近では受け入れられつつある。世の中、特に日本では危険な思想の人よりも平和的な思想の人の方が多いのだから、その成長速度も頷けるものなのである。
そして間宮は、そんな竜神教初期からの信者であった。当時獣医をしていた彼女は、動物、人間全てを平等に扱い、慈悲を与えるという竜神教に興味を持った。
事実、竜神教は素晴らしい宗教であった。竜を頂点としているとはいえ、その運営方法は民主的なもの。教祖も『竜様より代理を仰せつかった』とは言っているものの、信者達に何かを強制するといった事は一切なかった。たまに信者達に“お告げ”を言い渡す事はあったが、それはとても平和的、かつ慈悲に溢れたものであり、平和を望む人間の一人である彼女にとって、この宗教は理想に見えたのである。……あの事件が起こるまでは。
ある日突然、信者の中から竜の声を聞いたと言う者が現れた。その者は『竜様は俺に代理を任命なさった。そして俺は、再びこの世界へ降臨できるよう、依代となる相応の肉体を用意せよと仰せつかったのだ』と言い、極一部の賛同者をまとめて、“竜”を作りだそうとし始めたのである。
当然、教祖を始めとした、ほとんどの信者はこれに対立した。しかしその者は信者以外の過激な思想を持つ者達からも仲間を募り、竜神教の一つの“宗派”へと成長したのである。
(私が彼を止められていたなら、こんな事には……)
そう、実は、この一件の原因であり、新宗派の統率者である金子亮は、間宮の幼馴染だったのだ。間宮がこの宗教の事を知り、信者となったのも、金子に誘われたからであった。
『涼子、俺はこれから竜様をこの世界に再びお喚びする。そのために、お前の生物学知識が必要なんだよ』とは、金子が事を始める直前に間宮へかけた勧誘の言葉である。
当時涼子は、彼の話を冗談だと思い、笑って済ませていた。金子は子供の頃から冗談をよく言う性格だったため、今回もそうだと思ってしまったのである。しかし結果はこの事態、自責の念にかられてしまうのも仕方のない事であった。
しかし当然悩んだところで答えが出るわけもなく、同じ考えが頭の中で堂々巡りを繰り返す。どれだけ悩んでも答えが出ない事は本人が一番よくわかっている事であったが、そう簡単に割り切れるものでもなかった。
(私は……どうすれば……)
いよいよ彼女の思考がストップし、下げていた頭を上げた時……目の前に、光が広がった。
彼女の目の前には、人間の手がほぼつけられていない大自然が広がっていた。気づかぬうちに、間宮はかなり山を登っていたのだった。
(綺麗……。竜様は、きっとこの山みたいに美しい世界を望んでいるはず……なのに亮は……)
側にあった大きな岩に座り込み、景色を眺めながら再び考え始める間宮。この美しい景色も、今の彼女の目には微かに霧が立ちこめているように見えていた。
(竜様……)
己の信仰する神、竜への救いの声を胸に、間宮が天を仰いだ……その時だった。
「グオオオォォォ!」
突如、爆音の如き轟音が、山を揺るがした。
本作のキーパーソンの一人、間宮涼子さん登場です。竜神教は今後も結構からんでくるのでお楽しみに。
それではまたいずれ。