俺の日常は間違っている。
1
けたたましいアラーム音に顔をしかめつつ、乱暴に音源を切る。
俺ことイルキ・カナタは、カーテンの隙間からそそぐ朝日に抗うようにして、布団を被り直した。
と、その時、轟音とともに自室のドアが蹴破られる。
そして、
「カナター!!」
王道でテッパンな展開よろしく、我が幼なじみが自室に突入してくる。
どうせ胸も鉄板なんだから、展開ぐらいはテッパンネタは止めて欲しいところだ。
俺は、ベッドの上に飛び乗って布団を剥がそうとしてくる幼なじみから必死で布団を守る。
「今日は、集会だって言ったじゃん!急がないと!」
「あははは!それは良かったな。お前はマジメだよ!でも俺は違う!」
そう言って、俺はぐるりと体を回して、幼なじみをベッドから落とす。
「ふぇっ!」
朝からあざとい声出すなよ。
俺は、ちらりと布団の隙間から顔を出す。
俺の幼なじみことルルネ・メイルは、真新しい高校の制服に身を包み、俺のベッドの横でペタンと座っている。座り方もさることながら、頬を膨らませて「ム~」とか言ってるあたりがかなりあざとい。
「学校行こうよぉ」
ちょっと寂しそうな上目を向けてくるのが、若干腹立たしいが、仕方ない。俺達はこの春、高校生になったばかりだ。入学1ヶ月で早速遅刻するというのは、少しばかりか意識に欠けると思う。
やれやれというように俺は、頭をガシガシとかきながら起き上がる。
視界の隅でメイルが顔を輝かせるのをあえて無視して、俺は支度を始めたのだった。
×××
「ふぅ。何とか間に合ったね~」
「いや、何とかっていうか、かなり余裕あるじゃん?もうちょい寝てても良かったんじゃないか?」
結局、俺達が学校に着いたのは集会の40分も前。
こんな余裕あるならメイルがん無視で寝れば良かった。
教室の戸を開けると、いつも通りの喧騒が耳に飛び込んでくる。
何人かの友人と挨拶を交わし、席に着く。
「ねぇカナタ。課題やった?」
机にうつ伏せようとした俺の邪魔をするが如く、メイルが声をかけてくる――隣の席から。
どんだけテッパン幼なじみ演じたいの?いや、これは素なのか……。
やってない。と適当に返事をし、机にうつ伏せる。やってねぇのかよ。
「見せてあげるから、今のうちにしときなよ。ほら早く。先生に叱られるよ?」
「あー。わかったよ」
俺は、メイルが差し出してきたノートを受け取り、答えを丸写ししていく。
「まったくぅ。いつまでもこんなだから成績良くないんだよ~」
プンスカしつつも、どことなしか嬉しそうに俺を見ている。
やめてくれ。まるでできの悪い息子を見守る母親みたいな顔じゃないか!
「メイル、おっはよー」
俺が母親な目をしたメイルの視線に苦しんでいるところをメイルズフレンドが声をかけてきた。ありがとう。そしてゴメン。名前まだ覚えてない。
「ねぇねぇメイル」
「何?」
メイルズフレンドはちらちらと俺を見ながらこそこそと耳打ちする。
な、何だよ……。
「は、はぁ?つ、付き合ってるワケないじゃん!こんな奴とっ」
メイルは途端に赤面し、叫んだ。
あー。そういう勘違いか。あるよな。そういうの。
俺とメイルは幼稚園から今に至るまでずっと一緒だったから、こういうことは今までにも何度かあった。まっ、こんだけ世話焼いてたら付き合ってると思われるだろうな。あ、あと最後にディスられたのがちょっと悲しい。ゴメンなこんな奴で。
メイルズフレンドはニヤニヤしながら、えー本当にー?とか言ってメイルをからかっている。
「じゃあさ。好きか嫌いかっていったら、どっち?」
「え、えっと……」
メイルは急にもじもじしながら俯く。いや、あんだけディスっといて何で詰まるんだ。
しばらくそうしていたメイルがそっと顔を上げる。
そして何やら意を決した様子で俺を見る。
え、何?
「その…………す、好―」
メイルが何か言いかけたその瞬間、凄まじい音と衝撃が立て続けに襲ってきた。
「何だ今の……」「爆発?」「すごい音だったぞ」
クラスメイト達が不安そうな顔で呟く。
と、不意にスピーカーからサイレンの音が鳴り響いた。
『緊急放送。生徒の皆さんは速やかに運動場に避難して下さい。繰り返します―』
放送の途中でまたしても爆発。
「と、取り敢えず、みんな廊下に!」
クラス委員の一言で、皆が次々に廊下に駆け出して行く。幸い、全員動揺してはいるものの、パニックを起こしている者はいない。
「カナタ……」
メイトが緊迫した面持ちで俺を見る。
「とりあえず、俺達も行こう」
俺は、言い知れぬ不安を抱きながら皆の後を追った。
その先にある運命など、その時の俺は知る由も無かった。
2
クラスメイト達と足早に廊下を歩く。
この角を曲がれば、体育館へ続く渡り廊下から外へ出られる。
火災にせよ何にせよ、外に出れば危険は少ない。
と、その時、前方の天井が崩れ衝撃音と共に何かが降ってきた。
女子達が悲鳴を上げる。男子達も慌ててあとずさる。
すると、砂煙の中から何かが投げ出された。
それは、ドサリと音を立てて廊下を転がった。
「っ!先生!!」「大変だ!」
転がってきたのは体育教師で、顔面蒼白となって失神している。
生徒達はパニックになり、先生に駆け寄る者、逃げ出す者、腰を抜かす者で廊下は大混乱になる。
その時、突然に金属を引っ掻くようなキリキリとした声が廊下に響いた。
「アッハハハハハ!!イイネ!いいね!IINE!good!すごくいい心芯力だ!この世界の人間は実にいいね!」
声がしたのは、天井が落下したことで砂煙が舞うエリア。
俺が砂煙の中をじっと見つめると、その中に赤い2つの光が現れる。そして、地響きと共に砂煙の中に巨大なシルエットが浮かぶ。
デカい。4mはあるだろうか。それよりも、このシルエット的にこれは人間なのだろうかという疑問が脳裏によぎる。
「イイネ!IINE!ものすごい数の心芯力と恐怖を感じるよぉ!……そんじゃ!その恐怖、もっと大きくしちゃいましょうかねっ!!!」
再び聞こえる金属質な声が終わると同時に砂煙が一気に払われた。
「なっ!?」「えっ!?」
そこに現れたものを見て、俺とメイルは息を呑む。
クラスメイトの中には、驚きのあまり気絶する者までいる。
現れたのは、一言で言うなら化け物。もう少し詳しく言うなれば、金属装甲と肉体が一体となった未知の生物。ずんぐりとした熊のような巨躯に巨大で包丁のような爪。着ぐるみやロボットというには、リアル過ぎる。
何というか、あの金属質な皮膚から見て取れる生物感。これは本物の化け物だ。
俺達の反応を面白がるように化け物は目を細める。
「イイネ!いいね!イイヨ!その反応!驚いてるネ!……あっ、そうだ自己紹介まだだった!」
そう言うと、化け物は首もとの装甲をスーツのネクタイを引き締めるような動作で正すと、声高にしゃべり出した。
「オレっちは、メテルフィアのレザールレッグ隊が一人、リーガルシックテリーでーす!人類の皆さぁーんコーンニーチワー!!!!!」
あまりの大声に学内の窓ガラスが次々に割れていく。
悲鳴と混乱が頂点に達したその時、
「コーンニーチワー!!!!!!」
よく通る澄んだ声が響き、割れた窓から何かが飛び込んで来た。
飛び込んで来た何かは、リーガルシックテリーと名乗る化け物を蹴り飛ばす。
「うそぉーん!!」
リーガルシックテリーは、変な声を上げながら無抵抗に吹き飛んだ。リーガルシックテリーは、そのまま壁に激突し、物凄い音をたてる。
俺は、いったい何が飛び込んで来たのかを確かめるべく、視線を戻した。
あれだけの巨体をいとも簡単に吹き飛ばすなど人間の所行ではない。
そして、視線の先にいる存在を見て俺は再び息を呑んだ。
そこにいたのは、青い機械質なアーマースーツを装備した一人の少女だった。
少女は、白銀の髪を可憐に払い、こちらを見る。スカイブルーの瞳がとても美しい。
少女は、言った。
「さぁ。今のうちに逃げて!」
頑張って、書きましたが短かったですね。
次回はもっと頑張ります!
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