はろうぃーん
忘れてません
秋と冬のボーダーラインは、定まりづらいものだ。正直寒いなと思ったら冬みたいなもんだし、いきなりあったかくなる日もしばしば。
個人的に結構好きな季節なのだが、曖昧すぎるのが玉に瑕。世界よ秋に染まれと思うばかり。
朝のニュースに流れる渋谷は、派手な仮装に身を包んだ人々で溢れかえっていた。ハロウィンというやつである。かつては渋谷に引っ越したいなんてことも話していたけれど、今となってはあまり乗り気でない。
というわけで。
「寒くなってきたしこたつ出さない?」
朝ごはんを食べ終えて、ちょっとばかしのブレイクタイム。今日は礼奈の仕事がお休みなので、このままダラダラしていても問題ない。
わたしの問いに対して、礼奈は一拍置いてから悩みだした。すっぴんだが、最近どんどん艶っぽくなってきた気がする。
しかし、そんなに悩むことだろうか。礼奈の思考は止まらない。
「そんなに考えること?」
「そりゃあ考えるよ! 瑠美こそ、自分のことちゃんと考えてる?」
こたつのことを話題にしていた筈が、矛先は急遽わたしに向く。とはいっても、心当たりが皆無ゆえ、首を傾げることしかできずにいた。
「んもー無っ責任なんだから。こちとら毎日のように抱いてんだから、全部知ってんのよ」
毎日のように抱いてる。パワーワードだが、これにも心当たりがない。
「ここ数日えっちした覚えないけど……」
「そっちじゃなくてハグの話ね……。瑠美、思考が昔のあたしみたいになってない?」
「かもしんない。で、礼奈はわたしのなにをご存知なの?」
刹那、礼奈のしなやかな手先が槍のごとく突き出され、わたしの腹部を捉えた。そのスピード、もはや目で追えぬ領域のそれ。なんの抵抗もできず――
「ひゃん」
「隙あり」
揉まれている。いやらしい手つきで、揉まれている。お腹を。わたしのだらしないお腹を!
わたくしこと瑠美は、礼奈と違ってバリバリのノンキャリアウーマン。いや、キャリアウーマンという言葉の意味を鑑みれば、わたしもそれに該当するかもしれない。自宅を警備するという項目については抜きんでた能力を発揮することができるので。
「なんかロクでもないこと考えてる顔してるー」
お腹を揉んでない方の手が、おでこをつんつんしてくる。最近爪を切り忘れているのだろうか。つんつんがちょっと痛い。
「自宅警備のキャリアウーマン」
「……ちょっと面白いのがなんか悔しい」
「うはは。勝った」
そーじゃなくてさー、と礼奈が嘆く。彼女の言いたいことはおおむね理解しているというか、個人的にも憂慮すべき事態なので、対策を考えあぐねている。
「デブ」
「デブじゃない!」
「昔と比べたらずーっとデブ! あの骨ばった瑠美の体はどこいっちゃったの!」
「なに、そういうのが趣味だったの?」
「いやーそういうわけじゃないんだけどさあ。やっぱわかるんだよね、変化が。何年か前のこの頃とかヤりまくりだったじゃん? ほら、ハロウィンの夜とか」
「あー、まあ、確かに」
言われて、過去を思い出す。礼奈との日々はずーっと続いているけれど、日々のありようは少しづつ変わっていってる気がする。幸い、二人が離れれいくような変化が皆無なのがせめてもの救い。しかし、体を重ねる回数は確実に減った。
「トリックオアトリートとか言って、お菓子食ってセックス! みたいな感じだったもん」
「礼奈さ、最近性欲薄いの?」
「んー、そんなことないよ。瑠美のことはちゃんと好きだし、するときはテンションも上がるし」
「でも、昔みたいに一晩中ってのは厳しい」
「いやーまだあたしは頑張れるよ! でも昔から瑠美が先にへばるじゃん」
「思ったんだけどさ、これ朝っぱらからする話じゃないよね」
「そだねー」
礼奈がおもむろに立ち上がり、食器を片づけ始める。わたしも立ち上がろうとして、よっこらせと声が出た。
「いやよっこらせはマズいでしょ」
「マズいかぁ。どうすればいい?」
「夜の営みダイエット?」
「ジムとか通わなきゃダメかなぁ。礼奈、一緒に通おうよ」
「あたしはもうナイスバディだからなぁ。一人で行きなよ」
「あぁ、動きたくないなぁ」
長いことニートなので、生活に変革を起こす気になれないのだ。あ、ニートって言っちゃった。
〈おわりん〉




