ごろごろするだけ
あったかい愛がほしい季節になった。
ごろんごろん。
ごろーん。ごろんごろん。
寝転がるというのは良いことだ。気分としては最高なのだけれど、健康を考えると七割型最高としか言えないのが玉に瑕。
春夏秋冬、寝転がっていたいという欲求は人間を襲う。それ以外の動物だってそうだ。
それに、現在の季節は冬。動物たちが冬眠をするように、人間もまた寝たい。とにもかくにもしゃにむに寝たい。
それを後押しするグッズが冬に存在するのもまた事実。
こたつだ。
冬眠する動物が土の中に眠るがごとく、人間は冬にこたつにもぐる。
こたつのあたたかみは愛だ。愛とは常に情熱を感じさせるものであり、つまるところあたたかい。
土の中では愛を感じられないであろう動物たち。そこが、生物としての進化による違いなのだろう。ああ、哺乳類バンザイ。
「はぁ……好き、こたつ。あいらぶゆー」
愛おしさを噛み締めながら、ふんわりとした触りごこちのこたつ布団にキスをした。
この子は私を愛していないかもしれないけれど、私は片思いでも構わない。平等にあたたかみを与えるあなたの心意気にも、私は惚れている。
こんな具合に愛を高めあっていた、そんな折。
ひゅう、と冷たい風が私の顔を襲った。思わず声を上げてしまうほどの冷気だ。
「うひーっ! 寒いんじゃ〜!」
紅茶のティーバックを携えた礼奈が現れた。冷気と共にだ。今しがたトイレに行ってきた帰りである。
テーブルに手荷物を放ると、ドアも閉めないままこたつに寄ってきた。
「ちょっと! ドア閉めろ!」
「うわあ怖い。ごめんごめんって」
事を済ませて、礼奈はこたつに飛び込んだ。私たちの愛の巣へようこそ。
「あーっ天国。やばい。しかも天国だし天使いるじゃ〜ん!」
言うが早いか、冷気まといし極寒の手が私めがけて伸びた。
防ぐため、私はあたたかい自分の手を前に出すーーが、その刹那、私の足に衝撃が走る。
礼奈の冷たい足が、私の無防備な足を襲ったのだ。
動き回る足は、私の足を舐め回すように冷やしていく。患部を伝って、私の体全体に悪寒が駆け抜けた。
そして、それは私の行動全てに遅延をもたらす。
礼奈の手は防がれることなく、私の顔へ。
「くっ……つめたいっ。つめたいーっ!」
「うおーっ、あったけえ。あったけぇ!」
礼奈の手は私の頬を伝い、顔のラインをなぞってから首筋を撫で回していく。ここを冷やされると人は寒くなってしまう構造なので、どうにかやめていただきたいところ。
私も手を突き出して、首に手をかけた。
「ひゃっ、あったかーい!」
「私は冷たいんだけどなー」
あたたかい私の指が首筋を攻める。果たしてこれは効果あるのだろうか。
「じゃーさ、あったかいの前借りね!」
「いつ返してくれるのさ」
「エブリデイエブリタイム! あなたの求めるぬくもりを、いつでもいつまでも!」
ほほう。それはそれは、こたつよりも心底あたたかいのだろう。そう考えるだけで、心が踊るね。
「じゃあ今返してもらおうかなぁ」
「ええっと……今だとあたための質が下がってしまいますが」
なんで敬語だ。
「ううん……じゃあクレームつけちゃお。それで、次の時の対応もっと良くしてもらうの」
「それはクレームじゃなくて、おねだりって言うんだよ?」
足を絡ませ、手を絡ませ。
そして私たちは、ごろごろする。
ごろんごろん。




