愛とは、本能とは
勢いに任せるって大事だよね
人の本能とは。
そう問われると、やはり模範的な答えは生殖になるだろうと思う。
危機的状況に陥ったとき、子どもを残そうとする、みたいな話もあるくらいだ。
危機的状況の中での性交というのは、それはそれはもう焦りと本能の絶妙なバランスによって生まれる野獣のごとき激しさなのではないかと考えることもできるのだけれど、今はとりあえず置いておこう。
「ねえ礼奈、そのお話に則って考えるならさ、私たちって人間の範疇を超えてるんじゃないかな」
「……いきなりどうした?」
「いやね、思ったの。私たち子どもつくれないじゃん」
「まあ、ね。精子持ってないし」
うむ、礼奈には伝わったようだ。
「いやいや瑠美さんや、なんか満足げだけどあたし今の話のどこも掴めてないからね。詳しく解説頼みたいくらいなんだけど」
おっと失敬。私の話は伝わってなかったらしい。
ならば、かいつまんで話すとしよう。私が今日という一日の暇の三十分くらいを費やして考えたことを。
「レズビアンはし」
「でもさぁ、危機的状況でセックスしたくなるのかね」
うっ、遮られた。
まあ私の話なんて他愛のないものだ。それに、いつだって話せることだもんね。
「たしかにね。危機なら生き残るが先決だろうし」
「危機に直面したら節度ある行動を取って堅実に生き残るが吉ってものでしょ、B級映画じゃあるまいし」
一理ある。
ここから逃げなきゃ、みたいなとこで、連れの女が男かにムラムラしてる暇があるなら脱出する努力をしろよ、と。
「えっちなんてそれこそ大胆よねー。高確率の死が待ってるとしても、流石にえっちしながら死ぬってのは気がひける」
「まっ、そんな状況にあったことないから知らないけどね!」
そう言い終えた後、礼奈が私の目をじっと見つめてきた。
なんだろうか。目を丸くしてなんだかかわいらしい。
「あたしたちならセックスキメると思う?」
「かわいい顔していきなりセックスですか」
「んおっ、あたしかわいい?褒めても体液くらいしか出ないよぉ!」
じゅるりとよだれを吸う礼奈。体液という生々しい言い方は避けてはどうだろうかと提案したいところ。
「んー、わかんないかなぁ。人間の本能は性交ってより子育て寄りだし。好きと本能がどこまで直結してるかもわかんないわけだし」
なんだか不満そうな顔の礼奈。もしかして私の話について来れてない?
「……つまり、愛ね」
どうしてそうなった。
「愛よ!愛が深ければたとえ火の中水の中でも愛の直結三昧ってわけね!」
「だいたい合ってるようで合ってないよー!」
と、私がツッコミを入れた瞬間。
ぷつん、と家の電気が切れた。
「うわ、なに⁉︎瑠美どこに居るの!」
どうやら停電らしい。まっくらでなにがどこにあるのかわからない。
「私はここに居るよー。とりあえず携帯。携帯どこ置いたかなぁ……」
手を這いずりまわらせたり空中を撫で回したりして携帯を探し回る。
するとーーなにかに触れた。
「やんっ、瑠美ったら暗闇で大胆!危機的状況に興奮してきちゃった?」
「いやしてないから」
「どれどれ、あたしもこの辺にある携帯電話を探してー……それっ!」
どすんばたん。うわーっ。
なにか重くて柔らかくて愛おしいものが私の上に覆いかぶさってきた。
「はぁ……このぬくもりを感じられるなら、あたしの心は暗闇でも輝きに満ち満ちてるよ」
「あっ、携帯見つけたー」
やっとこさ拾い上げた携帯のライトで照らした礼奈の顔は、中々欲望に忠実に仕上がっている。




