チョコレートに込めるのは……
簡単キャラ紹介
瑠美-主人公っぽい。専業主婦に近いなにか。若干恥ずかしがりだったりもする。黒髪ストレート。
礼奈-活発人間。時々変態。ちゃんと働いてる。金髪ストレート。
二人はラブラブなので同棲してます。
あと新キャラが出るみたいです。
本日は2月14日。これがなんの日であるか、知ってる人も忘れたい人も居るだろう。
そう、バレンタインという儀式が執り行われる日だ。
そんな日の朝、私こと瑠美はバレンタインにチョコをあげたい相手ナンバー1の女、礼奈を放ってお出かけしている。
どこにお出かけしているか。それはーー私と礼奈の住むアパートの一階、それも真下の部屋。
果たしてこれをお出かけと言うのか、とも思わなくもないけれど、礼奈には出かけてくると言って出てきたのでこれはお出かけだ。
歪に鈴木と書かれたインターホンを押す。すると、返事と共にドタドタと部屋の主が寄って来る音がした。
「瑠美さん、おはよーっす!」
「しっ! 礼奈には秘密で来てるんだから、外で私を呼ばないで!」
「あぁすんません。とりあえず入ってください」
朝から元気な彼女は、鈴木由香。
ぼさぼさの黒髪はそのまま、メガネもズレてて、見た目だけならいかにもズボラな女の子。
「そのパジャマ可愛いね」
「えへへ、ありがとーございます。普段着みたいなもんなんで、これぐらい気合入れるっすよ」
ざっくばらんに言うと由香はオタクガール。大学生だがサボってアニメやゲームに勤しむ私の同類で、彼女曰く留年確定なんで行く意味無いっす、とのこと。
熱中出来る趣味があるのはいいことだが、それで他がおろそかになってはいけないだろう。
ここまで良いことを語られてない彼女だが、彼女の本領発揮はここからだ。
「今日はバレンタインっすね。材料はざーっと揃えてありますよー」
「ありがとー由香ちゃん。お金出すよー」
「いやぁいいっすよ。その代わり、また一緒にアニメ見ましょ!」
「それじゃ悪いよー。……うわ、相変わらず綺麗なお部屋ですこと」
由香の部屋はこれ以上ない程に綺麗だ。家具の配置が上手いのと、掃除が行き届いてるのもあって、部屋が輝いて見える。
そして、極め付けはテーブルの上。既に私をおもてなしするためであろう紅茶とお茶菓子が用意されている。
この子、見た目とは打って変わって女子力の塊なのだ。お菓子作りが私より上手いのも強み。
もちろん、出されているお菓子も美味い。
「それで、どんなの作るんです?」
「うーん……漠然としてるんだけど、わかりやすいもの、かなぁ」
今の議題は、バレンタインチョコの概要決め。
一口にバレンタインチョコといっても、様々な形があるわけで。
「ふむ、わかりやすく愛を伝えるってわけっすね」
「なっ……まあ、そうなるんだけど、うん」
「やーんかわいいっ! 瑠美さんのそういうとこ萌えポイントっすよ! チョコに取り入れましょう」
なおどうやっても取り入れられないのでボツになった模様。
「く〜礼奈さんが羨ましいっすね。私だったら瑠美さんと結婚してます」
ちなみに言うと由香はクールなイケメンが好みだ。どこをとってもクールじゃないし男でもない私が、由香に好かれるわけもない。
「冗談はやめなよ、イケメン大好きなくせに」
「え? 私バイだから女の子も大好きですよ?」
「それをサラっと言える由香ちゃんは凄いや」
思わず拍手してしまう。調子に乗り出す由香だが、別に褒めてるわけではない。
「そだ、共有ってのはどうすか? せっかく二人なんだから、二人で一緒に愛の結晶を食べるっての」
「共有、かぁ……ちなみになに作るの?」
「ガトーショコラとか。てか私がガトーショコラ食べたくなったとこから思いついたんでガトーショコラにしましょう!」
強行理論に従うような結果になったけれど、私もガトーショコラが食べたくなってきたので結論が出た。
早速作業に取り掛かるのだがーー
「そだ、瑠美さん今生理来てます?」
「…………ごめん、私今の一瞬で由香ちゃんがわかんなくなっちゃった」
「わー! 待ってください! かくかくしかじかでー……って聞いたことあります?」
かくかくしかじかの内容は凄まじいもので、正直引いた。由香ちゃんは必死に身の潔白を訴えて来るけれど、私的には事実が重くてそれどころではない。
なんと、イマドキ女子はバレンタインチョコに唾液やーー経血をまぜまぜしてしまうだとかそうでもないとか。
「へー、由香ちゃんは人様に食べさせるお菓子に唾を垂らすんだー。へー……」
「ち、違うんすよ! 唾液がえっちな液体なのは瑠美さんだって百も承知の筈! まあ経血は行き過ぎだと思うんすけど……わかるでしょう!」
「わかんないかな」
「すんませんしたーっ!」
深々と土下座する由香に哀れみを感じたので、とりあえずガトーショコラ作りを始めることにした。
「由香ちゃんはさ、形にする恋とか愛っていうのがどんなものかわかる?」
てきぱき作業を進めながら、由香ちゃんは猛烈に首を横に振った。
「まあ私もわかんないんだけどね。でもさ、その……体液を入れるってのは自分を込めるってことで、気持ちを込めてるのとは違うと思わない?」
なんだか恥ずかしいことを言ってしまった気がする。頬が熱くなるのを感じた。
「……や、やっぱ今の無ーー」
「感動したっす! 勉強になります……やっぱ瑠美さんはスゲー……女の味を知ると、やっぱ人は変わるんすね」
とりあえず黙らせるために由香ちゃんにはチョップを叩き込んだ。
そんなこんなで、唾液も経血も入ってない美味しいガトーショコラは完成した。
◇
「よーし、瑠美は行った。ここからはあたしの独壇場よ!」
今日はバレンタイン。私こと城ヶ崎礼奈の本気を見せるために用意された日と言っても過言でない。
冷蔵庫の奥に隠しておいた材料とかをどばーっと取り出し、とりあえずダイニングに。
とは言っても、今回は市販のチョコに一工夫加えるだけだ。私には料理スキルが無いので、仕方が無い。
まず板チョコを湯せん。それに生クリームを入れてまぜまぜ。
美味しくなーれと愛の魔法をブチ込みながら、このチョコを更なる高みへ飛躍させる儀式が近づいて来る緊張感に心が高まる。
そして、そのときが来た。
「瑠美……今日はあたしを食べてもらうからね。んーっ……」
込める。唾液を。
舌を伝って流れ落ちた唾液が、艶めくチョコレートの泉に吸い込まれて行く。これで、このチョコレートは私色だ。
「きゃーっ! やっちゃった♡やっちゃった♡」
勿論このことは秘密だ。
あとはハートの形の型に入れて冷やして、ホワイトチョコのペンで『I want you eat me』と書いたら完成。
「よっしゃ出来たァ!」
愛の混ざったチョコレート、完成。
◇
その日の夕方ぐらい。
「ただいまー」
「おかえり瑠美ー! こいつをくれてやるぜ!」
飛んできたそれは私の胸でバウンドし、私の手に落ちた。
「これは……」
「ハッピーバレンタイン!」
どうやら、先を越されてしまったようだ。しかし、礼奈が料理をするなんて意外。
「ふふっ……私も、ハッピーバレンタイン」
「おおっ、ガトーショコラ! 早く食べようぜい!」
「うん、礼奈のチョコも、ちゃーんと頂きます」
おまけ「時事ネタ」
2015年の冬辺り。
私と礼奈はとろけそうなくらいダラダラしながらテレビを見ていた。
「最近は物騒ねー。あたしたちは寄り添って生きてるから安心だけど」
「そうねー、寄り添ってるから死ぬときも一緒よ」
「なーにを言ってんだかこのニートお嬢様めが」
礼奈のデコピンが飛んできた。
「いでっ。むー、家の中でもデコピンが飛んでくるなんて、世の中物騒になったわ」
そんな話をしている中、そのニュースは突然私たちの耳に入ってきた
『次のニュースです、渋谷で同性での結婚みたいなものがかくかくしかじかでアレコレです』
とろけそうな私たちも瞬時に形を取り戻す程に、そのニュースは私たちにとっての晴天の霹靂。
「今の、聞いた?」
「勿論……ついにあたしたちも大都会渋谷に一歩踏み出す時が来ちゃったみたい」
「待って礼奈! そんな大都会に私たちみたいなのが出て行ったら……」
「出て行ったら……?」
「生きては帰れない……」
「そりゃないでしょ」
「そりゃそうか」
なお金欠で渋谷進出は叶わなかった模様。
<おわりんこ>