5話「勇者、獣王と戦う。」
まだ、スランプ継続中ッス。
「さて、陽介たちはここで降りろ。」
「どうしてさ、勇兄ちゃん。」
「そろそろ、目的地だからだ。」
陽介たちも乗せて羽馬で駆けていると、敵の大群っぽい影が見えてきたからな。
「俺は空から攻める。お前たちは本当に怖くないなら地上で戦ってくれ。」
「勇兄ちゃんは心配性だなぁ。陽子はともかく俺は大丈夫だって。」
「・・・その覚悟が本物だといいけどな。さて、羽馬行くぞ。」
空から見ると敵が7分で地面が3分ってとこか。
「勇!!前から鳥型の魔物が来ますよ。」
「了解。羽虫は敵の大将を探してくれ。近づく敵の感知は羽馬に任せた。」
集中しろ・・・よく狙って。よし、眉間にあたったのか落ちて行ったな。
「さらに飛行する魔物が2体、さっきので火がついたのか下からも攻撃が来るよ。」
「悠長にドックファイトとかはできないか。とりあえず、高度を上げてくれ。」
位置エネルギーを取って、少しでも火力を上げないと。いつまでも一発必中なんてできないからな。
「っ!!」
「大丈夫!?」
「頬にかすっただけだ。それよりも、付きまとってる二匹を落とさないとな。」
少々無茶な体勢を取らないといけないからきついが・・・落ちろ!!
「なんとかなったみたいだけど、矢の数とかは持ちそうなの?」
「だから、敵の大将を早く落として勝負をつけないといけない。」
「勇!!見つけましたよ。向こうの方向です。」
大体、6時と7時の間くらいか。
「羽虫、視力強化。それと、なんとかして矢の飛距離と威力を伸ばしてくれ。」
「無茶言ってくれますね。やりますけどうまくいかなくても文句言わないでくださいね。」
遠くから一気に狙い撃つ!!当たれば御の字だけどな。
・・・あのコースは的中したか!!
「ふむ、あの距離で当てるとはなかなかの腕をしているな。天馬に乗った勇者よ。」
っ!!矢をつかみやがった。
「ある程度近づいて手数で攻めるしかないか?他の手が無いわけじゃないが、あれが効くとは限らない上、少量しかない。」
「とりあえず、突っ込むって事でOK?」
「ああ、そうしてくれ。」
羽虫の無茶は多用できないだろうし、切り札は確実に当てたい。
「ふむ、距離を詰めようとしてきたか。では、少し手を出そうか。」
「!?羽を弾丸のように打ち出してきやがった。」
「この範囲、避けきれないよ。」
「羽虫、風で防御みたいなことは出来るか?」
「やってみます。」
「羽馬は、羽虫の防御が展開出来次第もう一度突撃だ。」
「わかった。」
さて、この後どれぐらいダメージを与えられるかだな。周りの有象無象共も攻撃してくるだろうしな。
「まだ、突っ込んで来るか。蛮勇かそれとも別の何かか。だが!!」
「!!?」
光の槍を作り出した!?ともかくあれはやばい。
「羽馬、今すぐ回避体制に移れ。やばいのが来る。」
「攻撃の中突っ込んでるから行動に融通が利かない。」
「最悪俺に攻撃が当たってもいい。軽装とはいえ鎧があるから多分死にやしない。怪我は羽虫に何とかさせる。」
「また私頼りですか?」
「そういうことで一番器用なのが、お前なんだよ。っ、来るぞ。」
「勇兄ちゃん!!」
山本兄妹は敵の軍団より少し離れた場所で足を止めていた。
「兄ちゃんはなんであんなふうになるまで戦えるんだ?俺は怖くて怖くて仕方ないのに。」
「・・・陽兄。」
「勇兄ちゃんを助けないといけないはずなのに、俺はビビりで何も出来なくて・・・」
その時、『ポッペン』と気の抜けるようなビードロの音が辺りに静かに響いた。
「陽兄はいつも私を引っ張って行ってくれたよ。だから、だから・・・」
「陽子・・・そうだよな、兄貴の俺がくじけてちゃいけないよな。」
さらに、ビードロの音を鳴らし陽介たちは軍団に向かっていった。
「っ!!俺は何秒位気を失っていた?」
「ほんの数秒ですよ。勇。」
「なんとか、生き延びたか。状況は?」
「あの二人が攻撃を始めたみたい。それに伴って獣王軍の一部があの二人についてるみたい。」
どういうことなんだ?
敵の大将も無視できないような顔をしているし。
「何か、原因として考えられそうなのは?」
「ポッペン、ポッペンと何か鳴ってるぐらいかな。」
「そういうことか。」
ビードロの音色は魔よけとして使われてたと言うけど実際に効果があるって事なのか?
「とりあえずどうするですか?勇。」
「・・・やることは変わらない、大将を狙うだけだ!!」
「まぁ、そうだよね。」
混乱が収まっても困るだけだからな。
「陽子!!俺達も、兄ちゃんに加勢するぞ!!」
「分かった。狼さんもお願い。」
子供二人を乗せても大丈夫そうな、白銀の毛並みをした元獣王配下の狼は了解したように唸り声を上げた。
「もう一組の勇者が来たか!!」
「よそ見してるなんて余裕があるじゃねぇか。」
急所めがけて三連射をする。が獣王の腕で防がれる。
「ぐっ、これを狙っていたのか。」
「偶然だ!!」
「「それ、威張って言うようなことじゃないよ(です)。」」
「それはともかく、もう一方に注意しなくていいのか?」
そういった時には、陽介の剣と狼の牙が獣王に刺さっていた。
「くっ、この程度!!」
陽介たちを振り払うが、
「チェックメイトだ。」
切り札の火薬付きの矢を頭に向かって放っていた。
「なっ・・・」
頭で爆発が起き、獣王はそのまま倒れる。
「あんなのいつの間に?」
「ここに来る前に行商人からな。」
「それよりも兄ちゃん。」
「ああ。」
大きく息を吸い込み。獣王を打ち取ったことを宣言した。
「何体かは向かってきたが、ほとんどは逃げて行ったな。」
まぁ、指揮官がやられて逃げない理由が無いか。
「クックック。獣王を倒してくれてありがとう。おかげでいい素材が手に入ったよ。」
獣王がいた方向から、いつの間に!?
「お前は何者だ。」
「素材を提供してくれた、勇者君たちには名乗っておこうかな。魔王軍幹部の死霊王さ。」
「糞道化師が、このまま俺達も"素材"にするつもりか。」
「いやいやいや、良質な素材を手に入れたし。今日は手下を連れてないからね。帰るとするよ。じゃあね。」
・・・見逃されたか。正直こっちは疲れているから助かったんだが。
「仲間をなんだと思ってるんだ。そう思うよね勇兄ちゃん。」
「ああ。しぶとそうなやつが顔を出したな。」