14話「勇者、泉にて」
長ったらしい説明回になったッス。
『妖精の泉』、かつては『滅びの荒野』と言われた場所であったが地形が変わるほどの魔法の爆発の発生により生まれた巨大な魔力溜まりのことである。
世界で生まれている妖精の大半はここで生まれたと言っても過言ではない、そんな場所である。
「と言っても実際に水は無いから困るんだがな。」
泉と言っても、魔力溜まりのことを比喩しているだけなのである。
「意外とこういうことは知ってるんですね。勇。」
「これでもヤバそうなところはある程度頭に叩き込んだからな。」
こっちだって生きて戻りたいからな。
それに高濃度すぎる魔力は人体に悪影響だとも言う。まぁ、水だって飲みすぎると中毒を起こし死に至るんだがそれと似たようなものだろう。
それに、妖精以外はこの濃い魔力の中では魔法の制御が面倒になるらしい。
今現在空を飛ばずにこの地帯を進んでいるのはそういうことなのである。
「少し考え事してたら中心部に近づいてきたな。少し迂回するか。」
「ちょっと待ってください、勇。誰かが呼んでいるような感じがします。」
「誰かって、羽馬わかるか?」
テレパシーが使いにくい羽馬は首を振って答えてくれた。
「羽虫、その誰かのところに行きたいのか?俺も羽馬も感知できない所に。」
「はい、こんなところで呼んでいるなんて何かあると思いますし。」
「『何かある』か、それでこっちの命がやばくなったらどうするんだ。」
こうなった羽虫は引かないのはわかってるが、一応言っておかないとこっちの気が済まない。
「それは大丈夫だと思いますよ。何かとても心優しくて、そして何かを後悔してその懺悔をしたい様な感じがするんですよ。」
『懺悔がしたい』か。
「ここでどうこう言ってもお前は引き下がらないだろうし、その場所まで行くぞ。」
「勇、ありがとうございます。」
「何かあったら全部羽虫に押し付けるからな。」
そうして俺たちは中心部の方に進んでいった。
「勇、此処です。」
「此処か・・・!?」
そこにいた奴を見た瞬間に背筋が凍ったよな感覚がした。
そう、それは蛇に睨まれた蛙のような・・・いや、もっと強大な何かに出会ってすべてを諦めなければいけないようなそんな感覚だ。
巨大な光る球体の奴はまだいい、ただの羽虫のデカいような奴だろう。
それ以上に問題なのは長い金髪で紅と金のオッドアイをして蝙蝠と鳥の様な羽を出している女だ。
何かの気まぐれで俺達など簡単に塵に変えてしまえる、そんな存在だと直感してしまった。
「呼んでいたのはあなたたちですか?」
「おい、羽虫!!」
少しは警戒心ってものを持てよ。それが無駄だったとしても。
「こちらも気が付いてたからそっちの警戒は無駄だったよ。むしろそこの妖精さんの方が賢いかな。」
金髪の女がしゃべり始めた。
「あからさまに警戒しているってのはいらない敵を作ることもあるからね。」
そして、にやりと笑ってから言葉を続けた。
「そういえば名乗ってなかったね。私はルキ。そしてあなた達を呼んでいたのは、大妖精って呼ばれているこの子だよ。」
そうして後ろの光る球体の姿が亜麻色の長髪の女性の姿に変わった。
「ルキさんから紹介されたように、私は大妖精と呼ばれる存在です。」
「それはいい、どうして俺達を呼ぼうと思ったんだ?」
「それは、今回の魔王を作ってしまったのは私にも一端があるからなんです。ですから勇者と呼ばれる人が来たら力を貸そうと・・・」
「ちょっと待て、『魔王を作ってしまった』って言うのはどういうことだ?今までの歴史のように力に舞い上がった魔族が勝手に宣戦布告したとかじゃないのか?」
「いえ、今回の魔王はそうではないのです。むしろ今回の魔王は私たち妖精と同じような存在なのです。」
さて、ここらで魔族と言う種族のことと今までの魔王と言うものを説明しておいた方がいいみたいだ。
種族:魔族と言うのは妖精が生れ落ちようとするときに生まれる前の子供の中で発現しようとしてその赤ん坊と同一化した種族らしい。
そして、膨大な魔力と天性的な魔法の力を扱えるようになるから魔族と言うらしいのだが、濃すぎる魔力は毒にもなる。
大概は生まれる際に母体が命を落とすらしい。そのおかげで忌み子として扱われやすく、周りを怨み、一部の奴は魔力に物を言わせ舞い上がり世界をぶっ壊そうと暴れまわったりするのだとか。
その中でさらに力に自信がある奴が魔を操る王、すなわち『魔王』として名乗りを上げて討伐されることがあるのだとかなんとか。
それを討伐するために俺達勇者を召喚して、国の発言権強化に使ってるとかなんとか。
つまるところ井の中の蛙がいいように国の点取り競争に使われてるってことだ。
「今回は魔族が魔王をやってるのじゃないのか?それに一端を作ったってのはどういうことだ?」
「今からそれを説明させてもらいます。」
「過去数千年前、とある国の勇者が自国を滅ぼしたという話は知っていますか?」
「確か、その事件がきっかけで勇者を召喚する方式にしていざとなったら強制送還で安全を少しでも保とうって話になったあれですよね。」
羽虫、よくそんな話憶えていたな。
「はい、そうです。そしてその話の国の王女は私なのです。」
「えっ?でもその話は1000年近く前の話だと聞きましたよ!!」
「ええ、正確に言えば何の因果かその王女の魂を核に妖精として生まれ変わったのが私なのです。」
「もしかして、その魔王ってのは・・・かつて自国を滅ぼしたっていう勇者なのか?」
「はい、私の場合は自我がほとんど前のまま残って妖精化しましたが、勇者の方は強い恨みと憎しみだけが残って妖精化してしまったのです。彼自身が滅ぼしたあの地で。」
「じゃあ今の魔王軍ってのは、なんなんだ?」
「それは、魔王の強大な邪気に満ちた魔力に当てられ魔物化したものか、もしくはその力を利用しようとした者たちでしょう。彼自身に自我はほとんど残っていません。」
「で、魔王軍を生んでしまったのは自分の国だから、それをなしてくれる奴に手を貸してくれるってわけか。」
正直ありがたいけどさ。
「はい、そこの妖精には私の魔力の一部を譲り渡します。そして矢を数本貸してください。」
「その矢で俺を貫くなよ。」
「いえ、矢にも私の力を付与します。魔王への有効打が増えるように。」
ならいいけどさ。
「じゃあ私もついでに何かあげようかな?」
「ルキだったか。まだいたのか。」
さっきの話の間にどっかに行ってると思ったぞ。
「私もこの子の話を知らなかった訳じゃないからね。人の手で起きてしまったことは人の手で何とかした方がいいとは思っていたけど、手を貸すぐらいはいいかなって。」
「まぁ、ありがたく貰っておくが、どうしてくれるんだ?」
「家の物置にあった馬用の鎧あげる。物置でほこりかぶってたし。」
そう言って、近くに鎧を呼び出していた。この濃い魔力の中制御が難しくなっているはずなのに涼しい顔をして。
「それって在庫処分って言わないか?」
「気にしない気にしない。この角飾りなんか回転して相手を貫けるんだよ。」
「セールスポイントになってない気がするが、つけても飛ぶのの邪魔にはならなさそうだし貰っておく。」
そうこうして、俺たちはこの地を抜け魔王がいる場所へと向かっていくのであった。




