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神様と元勇者のお菓子屋さん  作者: 魔法使い
第一章 神様と元勇者、異世界へ連れて行かれるの巻
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同じ存在、違う存在

 ——先代の神様が仰っていたのです。魔族とは世界に終わりを告げる者ではあるが、終わりへと誘導する者ではないと。


 ——世界が滅ぶことが確定したその時に、魔族が破壊の力で全てを滅ぼし終わらせるのです。


 ——駄目ならば壊せばよい。壊してまた新しく創り直すまで!


 ——私は世界を滅ぼしたくない。自分の日常を、私を支えてくれる者達を……全てを滅ぼし、最後に自分一人残って全て見届けてから自らを滅ぼすなどしたくない。


 ——神様は自分もルシファーも引かれた線の上をそこから逃れられず走っているに過ぎない、と。


 ——どうか神よ。私の願いを叶えて欲しい。


 ——神よ、どうか……。




 寒いし、身体が痛い。

 フィアは目を開けた。気を失っていたらしい。自分はどこか分からないが地面に横たわっていた。

 慌てて身を起こし、周囲を見渡す。もう既に陽が落ちたらしく暗かった。周りには樹々がならんでいる。

 自分以外、誰の姿もない。

 フィアは自分達が魔界へと通じる穴へと飛び込んだ事を思い出す。シェイドと一緒に飛び込んだのに彼の姿もなかった。みんなバラバラの所へ出たのだろうか。


「シェイドー!」


 叫んでも返事は聞こえない。近くにはいないのだろうか。

 フィアは転移魔法でシェイド達の元へ行こうと決め、転移しようとした。だが、何故か転移が発動しない。

 もしかしたら転移魔法の制限があるのかもしれない。自分達の世界の魔界もそうだ。複数層からなる魔界の層を跨いでの転移はルシファーの許可を持つ者しか出来ないのだ。

 フィアは諦めて歩き始める。ここでじっとしていても仕方ないのだ。

 こんな異世界で早速迷子になるなどついてない。しかも肌寒いし、少しお腹も空いた。仕方なくチョコレートを取り出して齧りながら歩く。時々、シェイド達の名を呼びながら。

 自分の優れた聴覚にも彼らの声らしきものは聞こえない。

 歩いて行ける距離にいてくれればいいと、少し心細くなりながら進んだ。


 その後、散々歩いた。だが全く彼らの気配すら掴めない。

 フィアは吹く風の冷たさと素足で歩くことに疲れてしまった。何より眠たい。もうそろそろ子どもである自分の眠る時間だろう。

 このままでは野宿するしかないのだろうか。それを考えると憂鬱だ。野営の道具などない。創造の力で家でも創れば良いかもしれないが……今どこでどうしているか分からないはぐれた彼らの事を思うと一人でぬくぬくと家を創って寝られるとはおもえなかった。

 その時フィアは少し開けた場所に出た。どうやらこの先は崖っぷちのようだ。崖っぷちの手前にある物を見て少し驚く。

 巨大な鳥の巣があった。そこにはすでに夜だからであろう、巣の主たる鳥とその多くの雛たちがいる。巣も大きいがそこにおさまる鳥も大きい。雛がフィアと同じ大きさ位ではないだろうか。親鳥など見上げるほどの大きさである。

 身を寄せ合う親子たちを見てフィアは意を決する。そして巣へと近づいた。

 間近で見ると益々大きいそれを見上げる。親鳥もじっとフィアを見下ろしてきた。


「あの……今夜一晩泊めてください。フィア迷子になっちゃって」


 ぺこりと一礼する。

 知らない人——この場合鳥だが——にはいつも以上に礼儀正しく。お願いごとは丁寧に、だ。

 自分は良い子なのだ。シェイドの言いつけは守らねばならない。

 すると親鳥がひと声鳴いた。フィアはそれを聞き頭を上げる。親鳥は雛たちの方へ向けて少し頭を捻り、再び今度は雛たちに向かってひと声鳴いた。

 すると雛たちは少しずつつめていく。身を寄せ合っていたそこにフィア一人分くらいの隙間が出来た。

 どうやら泊めてもらえるらしい。

 ほっと一安心し、巣によじ登る。何とか中へと入った。足元には綺麗な干し草が敷き詰められている。

 フィアは手巾を取り出すと下に敷き、その上に座った。その途端フィアが入れる様つめていた雛たちがまたもぞもぞ動いて身を寄せ合う。

 思わず笑みをこぼした。これは暖かい。これが本当の羽毛蒲団だ。

 フィアはぬくもりにほっとし、目を閉じた。


 どれくらいたった頃だろう。フィアがうとうとしている時、遠くから声が聞こえた。


「フィアー! フィア、どこだー!」


 これはシェイドの声だろう。


「神様ー!」

「お子様ー!」

「神様ー!」


 ミカエルやルシファー、アザゼルの声まで聞こえる。どんどん声が近づいてきているようだ。

 フィアはくっつきそうな瞼をなんとか開いた。だが彼らの姿は見えない。

 フィアが呼びかけに答えようとしたその時、親鳥が大きな声で鳴く。思わず驚いてその姿を見上げてしまった。

 するとこちらへと駆けてくる足音がいくつも聞こえた。どんどん近づいてくる。

 だが、不思議なことに足音は彼ら四人のものだけではない。


「フィア、そこか?」


 シェイドの声がした方向へ視線を向ける。いくつかの魔法で創り出した明かりが浮かぶ中、彼がこちらに駆けてくるのが見えた。

 シェイドは巣の手前で立ち止まると、困惑した様子でフィアを見て聞いた。


「なあ……フィア、そこでなにしてるんだ?」

「……お泊まり」


 やはり眠たいフィアは目が半分くらいしか開いてない。もうそろそろ限界だ。


「こっちの魔界の奴が迎えに来たんだ。一緒に行くぞ」

「うん……」


 ヨタヨタ歩き、巣のふちまで近寄るとシェイドがフィアを抱え下ろした。そして彼は親鳥に深々と頭を下げる。


「大変お世話になりました。ありがとうございます……ほら、フィアお前も」

「ありがとうございます」


 親鳥がひと声鳴いたのを確認して二人は巣に背中を向ける。


「神様、ご無事で何よりです」

「相変わらず分からん奴だな……何で鳥の巣の中にいたんだ?」

「まあルシファー様、いつものことですし」


 彼ら三人はフィアの知らない男と共に立っていた。眠い目をこすり、その男を見る。すると彼は恭しく一礼した。


「異世界の神様、私の言葉はお分かりになりますか?」

「うん、へいき」

「さっきこっちの神にかけられた魔法のお陰だな」


 ルシファーの言葉に謎の男は頷くと、再びフィアへと向き直る。


「私はベルゼブブと申します」

「ベルゼブブ……?違うもん」


 フィアは自分の知ってるベルゼブブを思い出す。茶色の長い髪に、赤い瞳、いつも真っ黒なぴしっとした服を着て礼儀正しく真面目な魔王。魔界でルシファーに次に強いのに苦労性な彼とこの謎の男は別人だ。

 生真面目そうなのだけが一緒だけど。

 だがシェイドが苦笑しながらフィアに説明した。


「このベルゼブブはこっちの世界のベルゼブブだ」

「なぁに、それ?」

「つまりこの世界にはこの世界の『ルシファー』も『ミカエル』もいる。もちろん『アザゼル』もな」


 ルシファーの言葉にフィアはますます意味が分からない。


「別人だ。だがこの世界の彼らも与えられた役割は我々と同じ。これが引かれた線か……」

「ふぅーん。じゃあフィアもいる?」

「いや、お前は特殊だからそんな訳がないだろう」


 それを聞いてちょっとがっかりした。もう一人のフィアがいれば会ってみたかったのに。

 そこでふと思いつく。


「ねぇ、じゃあ……先代の神は『アイテール』だったの?」


 ルシファーやミカエルにそういう存在がいるならば、神もそうなのでないか。ルシファーに人為的に創り出された自分と先代の神は違うのだから。

 だがルシファーは首を横に振った。


「いや。違うな」

「そうなんだ」

「まあ、その様な事よりも……うちのお子様神様が見つかった事だ。行くとするか」


 ルシファーの言葉にこちらのベルゼブブが頷く。


「では参りましょう」


 彼がそう言うと、その場の全員の周りを魔力が駆け巡るのを感じた。徐々に視界が薄れ、瞬きをしたら別の場所に立っていた。

 目の前には立派なお城がある。


「ここが『ルシファー』の城か?」

「左様でございます」


 一行はそのまま城へと入った。ベルゼブブと一緒だからか誰にも止められない。ただ物珍しそうな視線が沢山飛んできた。

 物珍しさに周囲を見渡しながら歩いた。薄暗い深紅の絨毯が敷かれた廊下だ。そこを先導するベルゼブブの後ろに続く。

 フィアはシェイド達がどういう経緯でベルゼブブと会い、どんな話をしたのか自分は何も知らないののを思い出した。並んで歩くシェイドを見上げて聞いた。


「ねえシェイド。フィア達ルシファーに会いに来たの? やっぱりフィア達連れて来たのはルシファーだったの?」

「うーん。それがなぁ……とりあえず城に来てくれの一点張りで詳しいこと分かってないんだよ」

「そうなんだ」

「それにしても、こっちの世界もやたら堕天使多いな」


 アザゼルが行き交う魔族達を見て言った。そして彼は面白そうに笑いながら続けた。


「案外こっちの神も天使がほとんど堕天して、天界に天使はミカエルだけだったりしてな」

「当たらずとも遠からずと言ったところだな。いま天界には五人の天使が残っている」

「にゃっ! 五人!」


 ベルゼブブの言葉にフィアは愕然とした。自分にはミカエルしかいないのに、あのアイテールには五人の天使がいる。

 負けた……。


「あーあ、負けちまったなぁ。神様」

「アザゼル、神様に対して無礼だぞ!」

「ううっ。い、今、天界にミカエルしかいないのはフィアのせいじゃないもん!」


 そうだ。他の天使達が堕天してしまったのは自分が生まれるずっと前。先代の神の頃だ。

 だから自分のせいじゃない。

 フィアは自分のせいじゃない、自分のせいじゃないと自身に何度も言い聞かせる。

 それにしても自分はミカエル一人、アイテールは天使五人。いずれにしても少なすぎだ。

 先代の神もアイテールも新しく天使を創ろうと思わなかったのだろうか。

 フィアがそんな事を考えて歩いているとルシファーがベルゼブブの背中にうんざりした様な声を投げる。


「なあ。随分歩いてるが、まだか? こっちのルシファーに会わせる気ならば玉座の間だろう。なのに我々はどんどん城の奥深くに連れて行かれてる。牢屋にでも入れる気か?」


 最後の一言にベルゼブブが立ち止まり慌てて振り向いた。


「とんでもございません! ただ……玉座の間ではないのです。我々の主君は動くことが出来ない状態で。詳しくは見て頂いたほうが早いかと」

「だったら、それを早く言ってくださいよ」


 アザゼルが呆れたように呟いた。そして、自分とこのベルゼブブ様じゃないのについ敬語つかっちまうなどとボヤいている。


「仕方ないな」


 ルシファーは諦めたようにため息をつき、それからは黙ってベルゼブブの後に続いた。


 更に階段をおり、奥へと進んだ。

 しばらく進み、やっとベルゼブブがとある扉の前で立ち止まる。

 何の変哲もない城の奥まった一室だ。ルシファーの私室だろう。だがフィアはその場所に異様な雰囲気に戸惑った。

 他の者たちも困惑を露わに辺りを見渡している。

 異常なまでに空気中の魔力の濃度が高いのだ。ピリピリとわずかに皮膚が痛くなる。


「ルシファー様はこの部屋の中なのですが……」


 ベルゼブブがノックもせずに扉を開けた。その行動にフィアは疑問を持つ。仮にも主君の部屋をノックもせず、勝手に入って良いのだろうか。

 だが次の瞬間、目に飛び込んだ光景にフィアをはじめとした全員が言葉を失う。

 そこには黒髪の『ルシファー』らしき存在が強力な結界魔法の中に封じ込められていた。

今週末にシェイドの結婚話をUPします。

完結御礼なので前作、あるハーフエルフの生涯の最終話の後ろに入れようかと思っています。

UPする詳しい日時を決めたら活動報告にてお知らせ致しますので、宜しくお願いします。

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