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神様と元勇者のお菓子屋さん  作者: 魔法使い
第六章 神様と元勇者、旅に出るの巻
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第六章 おまけ

 シェイドとフィアは温泉につかっていた。

 見事な露天風呂である。広々とした露天風呂つかっているのは二人だけだ。お湯は若干熱いが外が寒いのでちょうど良い。

 フィアはぱちゃぱちゃと泳いでいる。温水プールか何かと勘違いしてそうだ。


 二人はフィアの生家があった場所を訪れた後、ウァティカヌスに行った。ここ何年もルクスと会っていないシェイドが彼と久々に会えるよう気づかってくれたらしい。

 久々に会ったシェイドとルクスは盛り上がり、遅くまで語り明かした。翌日フィアが光の教団で行われていたエマの祭りの見学を希望した為、ルクスに案内役となってもらった。

 エマの祭りとは六つの教団のうち、光の教団だけが行っている祭りだ。教団が準備した手のひら大の『聖なる』木の板をエマという。それを購入し、願い事を書いて、ウァティカヌスの神殿前にぶら下げるのだ。そうすれば神が願いを叶えてくれるお祭りである。

 フィアはそれを聞いて瞳を輝かせると、お小遣いを取り出してエマを購入していた。そしてエマに熱心に何やら書き込み、神殿前にぶら下げていた。

 それを見たルクスが『フィア本人が神ではないか?』と呟いていたが、きっとフィアはそんな事は忘れている。

 シェイドはこっそりとフィアの書いたエマを見た。そこには『シェイドが寝たきりになりませんように、長生きしますように』『リリスが結婚出来ますように』『アダムにお嫁さんを創ってあげたい』と、書かれていた。

 それを見てシェイドは複雑な気分になったのだ。まずは一つ目、自分はそんな心配をされる程の歳ではない……と思いたい。そして二つ目、そこまでリリス心配されているのか、と。シェイドまで彼女のことが心配になった。最後の三つ目は願い事ではない。目標だ。

 それにしてもフィアは自分自身の願い事はないのだろうか。まあルクスが言うように彼女自身が神であるのだから、エマを書く意味もそもそもないのだが。

 それでも、小さな子どもなのに自分自身に関する願い事がないのはちょっと心配だ。

 ちなみに『聖なる』木の板の材料は何の樹だ、と尋ねるフィアにルクスは笑った。そしてこっそりフィアに耳打ちし、教えていた。後でフィアに聞けば、そこらへんに生えてる樹だと言われたらしい。彼女はふくれっ面でシェイドに教えてくれた。

 それにしても光の教団は金儲けがうまい。だから金持ちなのだろう。


 そして祭りの後フィアの希望もあり魔法車に乗って、ここに来たのだ。ここはルクスの実家の領地だ。今、家の当主は彼の甥だと言う。

 何故フィアがここに来たいと言ったか。それはルクスからここに『長寿の湯』と呼ばれる温泉があると聞いたせいだ。きっと自分に湯に入れと言いたかったのだろう。

 昔から『長生き健康法』なるエルヴァンから借りた本をシェイドに押し付けてきたりしていたが、最近のフィアは特に変だ。とりあえず胡散臭い行商人に『不老長寿の薬』など売りつけられないよう見張っておかねばならない。今のフィアならほいほい買ってしまいそうだと思う。


 泳いでいたフィアがシェイドの方に近づいてきた。泳ぎ疲れたのかも知れない。

 シェイドの隣に身を落ち着け、彼女は用意してもらった冷たい水を飲んだ。そしてフィアは周囲を見回して笑顔でシェイドに言う。


「いいところだね!」


 その言葉にシェイドは頷いた。露天風呂の周りは樹々に囲まれている。


「豪邸だしなぁ」

「うん。夜ご飯が楽しみだね。シェイド長生き出来そう?」


 フィアの問いかけにシェイドは思わず笑みを浮かべた。


「そうだな。フィアがちゃんとエマに書いてくれたし」

「うん。リリスも結婚できるといいなぁ」

「な、なあ……リリスそんなに切羽詰まってるのか」

「うん」


 あっさりと頷いたフィアに何ともいえない気分になった。

 頑張れよ、リリスと心の中で声援を送っておく。他にしてやれることはない。


「お見合いパーティーに行こうかなって言ってた」

「そうなのか……」

「うん。魔界ではショウシカ対策にお見合いパーティーをやってるんだって。……そうだ。フィアね。アダムにもお嫁さんを創ってあげたいんだけど、どんなのがいいのかなぁ」

「どんなの、って……」


 伴侶とするならば似たような生命体だ。アダムはチョコレートだから伴侶もチョコレートではないのか。まさか飴やキャラメルという訳にはいかないだろう。

 シェイドがそう考えていると、フィアが一人でぶつぶつ言っている。何だろうと思ってシェイドは耳を傾けた。


「うーん……。フィア、イチゴチョコも好きだし、ホワイトチョコも好きだし……。抹茶チョコも苦くなければ美味しいし……。生チョコもナッツの入ったチョコも……。うーん、うーん」

「どんなのってチョコレートの味の種類か」

「うん」


 他に何があるのか、といった表情で肯定されてしまった。


「アダムのお嫁さん、ね……」


 果たしてそれは繁殖が可能なのか。可能だとしたら、どうやって。不思議な事この上ない。

 そもそもフィア本人が生き物がどうやって繁殖するかわかってないのである。

 思わずアダムとアダムの色違いの二人が小さな人型に互いのチョコレートを流し込んでいる姿を想像した。冷保存庫で冷やし固めて型から出せば、二人の子ども誕生である。あり得そうで怖い。


「フィアね、いつか別の世界を創るのが夢なんだ!」

「別の……世界?」

「うん。ケイオスが言ってたよ。一人の神が創れる世界は一つだけではないって。だからフィアは創造主になれるんだって言ってた」


 シェイドはいつかフィアが創るであろう世界を想像しようとした。だがどうにも想像できない。お菓子の国しか思い浮かばなかった。

 思わず苦笑する。フィアとていつまでも子どもではないのだ。自分が生きている間は確実に子どものまま、でも二百年もすれば大人になる。


「フィアが大人になった姿が想像できないなぁ」

「むー、何それ!」


 でもそんなものかも知れない。ヴァイスが子どもの時もそうだった。


「なあ、フィア。ここの次はヴァイスに会いに行かないか」

「行く!」


 自分たちの時の流れが違うのは仕方ない。だがシェイドは大人になったフィアを見られないことを残念に思った。

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