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神様と元勇者のお菓子屋さん  作者: 魔法使い
第六章 神様と元勇者、旅に出るの巻
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ハーフエルフ

「へぇ、これがテレビってやつ?」

「そうだよ!」


 今フィアはグレンと二人でマレンジャーをみている。彼を家にあげ、お茶を出したところでシェイドが帰ってきた。何故か盾を持って。

 そんなシェイドは今、夕食の支度をしている。グレンは出された菓子を食べながら言った。


「そうしてるとフィアも普通の子どもだねぇ」

「んにゃ?」


 フィアはテレビの画面からグレンへと視線を移した。


「いや、いや。いい事だよ。幸せそうで良かった」

「うん」


 その時、茶の間の襖が開いた。シェイドが盆に皿をのせ、入ってくる。そろそろ夕食らしい。


「今日のメニューは?」


 グレンの問いにシェイドは卓を拭きながら答えた。


「天ぷら。酒飲むか?」

「うん、さっき渡したやつにして欲しいな」


 そう言えばグレンはシェイドに酒の瓶を渡していた。彼は多分自分で飲むつもりで酒屋で買って来たに違いない。シェイドはどちらかというと酒に弱いのだ。

 フィアはマレンジャーが終盤に差し掛かった為、テレビに集中した。悪者が倒され、終わりの歌が流れ始めた頃、フィアはシェイドに声をかけられた。


「ほら。フィア。夜ご飯だぞ」

「うん!」


 フィアは卓に向き直った。目の前にはすでに食事が並んでいた。早速箸を手に取る。


「ねえ、これって何かソースつけて食べるの?」


 グレンはフォークで天ぷらを刺しながらシェイドに尋ねた。どうやら彼が選んだのはハスネの天ぷらのようだ。グレンの問いにシェイドは首を横に振った。


「上に塩コブとシソノハの千切りのってるだろ。それと一緒に食べてくれ」

「え、ああ。これね」


 ハスネの天ぷらの上に細い緑色と黒色の何かがたっぷりのっている。あれが塩コブとシソノハなのだろう。フィアは鳥肉らしい天ぷらを取った。それを見たシェイドが言った。


「それは肉に味つけてるし、衣も麺つゆで味つけてるからそのまま食べて大丈夫だ」


 その言葉に頷くとフィアは天ぷらを口にいれた。確かに肉だけでなく衣にまで味がついているから、このままで十分美味しい。


「へえ。これ美味しいね。サクっとして歯ごたえもいいし。この上にのってる塩コブとシソノハだっけ……? これがいいね」


 酒によくあうよ、とグレンは言って酒を飲んだ。


「このお肉も美味しいよ!」

「フィア、ちゃんと野菜も食べろよ」

「う……ちゃんと食べるもん……」


 じっとシェイドに見つめられ、フィアは自分の好きな芋の天ぷらが取った。これも野菜だ。だがシェイドの手でフィアの取り皿に野菜の天ぷららしき物がいくつか入れられる。衣からのぞく中身は緑色だ。

 これは自分の嫌いな野菜に違いない。どうしよう、食べたくない。

 シェイドはフィアの皿にいくつか天ぷらをのせると、ふと思い出したようにグレンへと言った。


「急にどうしたんだ? なんか闇の大陸に用事でもあったのか?」

「んー。まあ、ちょっとした気まぐれと言うか、気分転換と言うか……」

「それこそ珍しいな」


 フィアが野菜の天ぷらから顔を上げると、シェイドが解せないといった表情でグレンを見つめている。それも仕方ない。グレンはお金が大好きなのだ。金儲けの話などロクにないこの闇の大陸を訪れるのはウロボロスの掃討がある時くらいだと聞く。

 グレンは黙って酒瓶から杯に酒を注いでいる。そしてそれを手に少し俯いて何か考え、しばらくの沈黙の後やっと口を開いた。


「実はさ、この前親父が死んでね」


 想像もしなかった言葉に思わずフィアとシェイドは顔を見合わせた。


「突然うちの爺さんエルフが転移で僕の目の前にやって来て、無理やり拉致されたんだ。ま、おかげで死に目に会えたけど」

「ちなみに亡くなられた原因は?」

「寿命だよ。そろそろ五百歳くらいだったからさ、あの人」


 だから仕方ないとグレンは呟くと酒を飲み、いつのまにか自分の皿に現れた野菜の天ぷらを凝視している。グレンはうっすらと緑色が見えている天ぷらからフィアへと視線を移してきた。フィアはさっと目を逸らす。グレンは深々とため息をついた。


「五百歳か……」


 シェイドの呟きにグレンは頷いた。


「寿命はまあ仕方ない。でも……。シェイドは知ってるっけ?」

「何を?」

「僕たちハーフエルフは大人になったら人間みたいにそこから徐々に老いていくような事はない。でも死ぬ間際に急激に老いて、最後は骨ものこさずに死ぬ。僕も初めて見たんだけど、恐ろしい光景だよ」

「だろうな」

「爺さんエルフも息子が自分よりも先にそんな風に死ぬのを見てショックだったろうけど。姉さんはもっとショック受けてさ」


 フィアはグレンの姉のことを思い出した。グレンの姉ビオラとは二十五年前アルフヘイムへ乗り込む前と復活した直後に会っている。


「それで、まあ……僕も気分転換の旅をしようと思ってね」

「そうか……。しばらくこの大陸にいるのか?」

「そうだね。久々にこの大陸をぐるっとまわろうかな、と」

「実は、俺もフィアを連れて旅行に行く予定なんだ」


 シェイドの言葉にフィアは箸をとめた。旅行。初耳である。


「ねえねえ、シェイド。旅行って?」

「ん、ああ。まあ今日決めたんだけどな」

「毎年恒例のやつ?」


 どうやら何か知っているらしいグレンの問いかけにシェイドは頷いた。


「そっか。入れ違いにならなくて良かったよ。いつ出発するの?」

「明日か明後日。まだ行き先決めてないんだが……」


 シェイドの言葉にグレンが飽きれた表情になった。


「こんなギリギリまでどこ行くか決めてないなんて……」

「決めたのが今日なんだ。色々と急でな」


 そう、とグレンは俯いた。何か考えているようにも見える。


「グレン、どうした?」


 シェイドの問いかけにグレンはやっと顔を上げた。


「あのさ、もし良かったらだけど。うちの実家に顔出してもらえたら助かる」

「お前の?」

「そう。姉さんも落ち込んじゃってるし。フィアに会えればきっと喜ぶと思うしさ。姉さんは子ども好きだから」


 シェイドは思わずフィアを見た。フィアはシェイドに頷き返し言った。


「行こうよ、シェイド。それにフィア、アルフヘイムにも行きたいんだ」


 アルフヘイムへは復活直後に顔を出したきりだ。それもアダムに会いに行っただけである。噂によるとアルフヘイムは昔と違い人間を迎え入れるようになっているという。アダムに会いたいのは勿論だが、そこで暮らしているエルフたちの様子も見たいのだ。

 グレンの実家があるハーフエルフの村はアルフヘイムの近くにある。アルフヘイムに行く途中寄ればいい。


「そうか。フィアが構わないなら俺はそれでいい」


 シェイドの言葉にグレンがほっとした表情になった。


「お前がこの大陸ぐるっとし終わった頃には俺たちも戻ってると思うから、また寄ってくれ」

「うん、そうするよ」

「そうだ……フィア、風と地の大陸までは転移で連れていってくれ!」


 フィアは鳥肉の天ぷらを頬張りながら頷いた。

 そうだ。シェイドは船酔いが酷いのだった。急ぐ旅ではないようだが、きっと船に乗りたくないのだろう。

 シェイドの船酔いの酷さを思い出したフィアとグレンはちょっと笑った。



 ***



 翌朝は天気もよく、この季節には珍しく暖かい朝だった。


「じゃあ……。シェイド、フィア。気をつけて」

「お前もな」


 グレンは手をあげ二人に背を向けて去って行く。シェイドとフィアは家の玄関の前でそれを見送った。グレンは闇の大陸をこれからまわるらしい。シェイドとフィアはまずハーフエルフの村を訪れる予定だ。

 グレンの後ろ姿が見えなくなるまで見送り、シェイドは隣のフィアを見下ろした。


「よし、じゃあ俺たちも行くか」

「うん」

「ハーフエルフの村まで頼む」


 フィアは早速転移を開始する。視界が薄れ、次の瞬間には二人は別の場所にいた。

 闇の大陸とは違う様式の家屋が並んでいる。目に入るどの建物もウロボロスの旗を掲げていた。

 二十五年前、一部のエルフが起こした世界崩壊の事件は人間のエルフを見る目を厳しくし、それはハーフエルフ達にまで及んでいた。場所によっては、エルフ特有の耳を見ただけで街へ入ることを拒むことすらあった。

 シェイドはグレンがマルクト王国王都へ入ることを拒まれ、怒り狂ってウァティカヌスのルクスの元に駆け込んだ事件を思い出す。グレンはウロボロスの発行した身分証明書も持っていたのに門番からすげなく断られたらしい。光の教団から王家に直接言ってもらったおかげで今はそこまで露骨な事はされないらしいが、それでも人間とエルフの間の溝は存在し続けている。

 半分は人間の血を持ち、世界を救うために戦った者たちですらそんな扱いを受けるほどに。

 シェイドがそんなことを考えていると、フィアはぐいぐいと彼の袖を引っ張った。


「シェイドー、早くー」


 どうやら待ちくたびれたらしい。村を指差し早く行こうと促してくる。

 シェイドは苦笑し、フィアに引っ張られるようにして歩き出した。

 ここに来たのは久しぶりだったがグレンの実家の場所は覚えていた。フィアは興味津々といった表情で周囲を見回しながら歩いている。

 人間の旅行客らしい姿も見かける。アルフヘイムでエルフが創った魔道具や魔法薬など人間につくれない特別な物を買いに行く者がここで宿を求めるらしい。

 二十五年前の事件は人間とエルフの間に溝をつくった。だがその反面、エルフの力で創りだされた物で金儲けする人間も現れている。自分の妻の父親もそうだ、とシェイドは思った。

 エルフ達は二十五年前の一件について賠償金を支払わなければならない。それがウロボロスの活動資金となるのだ。だからエルフ達は人間と取引をし、金銭を得る必要がある。それにシェイドは彼らの創り出したもので人間の生活が良くなるならば悪いことではないと思っている。

 かつて魔道具が一般市民にまで普及していたのは闇の大陸だけだった。それがこの二十五年間で変わった。他の大陸でも魔道具は広まっている。


「えーっと。ここだよね?」


 しばらく歩いた後、フィアが小さな看板が出ている一つの建物を指差した。グレンの実家は宿屋である。


「そうだ」


 フィアは早速とばかりに扉を開いた。入ってすぐのところにいたグレンの姉ビオラがシェイドとフィアに気づき、声をあげた。


「フィアちゃん……勇者くん!」

「お久しぶりです」


 シェイドがビオラと最後に会ったのは自分の結婚式の時だ。あれからもう二十年近い時が流れている。彼女が自分を呼ぶのに間があったのは一瞬誰か分からなかったのかも知れない。

 シェイドは思わず苦笑した。ハーフエルフの彼女はグレンと同じで出会った時から全く姿が変わらない。だが人間である自分は違うのだ。勇者くん、という呼びかけも少し面映い。


「どうしたの?」

「旅行です。せっかくだから久々にこちらに寄らせてもらいました。今夜泊めて頂けますか?」

「もちろん!」


 ビオラは満面の笑顔で頷き、早速とばかりにフィアを抱き上げている。彼女は子どもが好きなのだ。


「それにしても今日は懐かしいお客さんが来る日ね」

「え?」


 ビオラの独り言にシェイドは問い返す。


「勇者くんも良く知ってる方よ。さっきいらして、今夜泊まって下さるの」


 誰かが階段をおりてくる足音に気付いたビオラがそちらを振り向いた。シェイドもつられて同じ方向を見る。そして階段をおりてくる一人のエルフの顔を見て驚いた。


「ゼムリヤさん!」


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