表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

壬生の狼たち(~ひと~)

京都。壬生みぶ村の廃棄された仏閣寺。

その中の廊下を歩きながら--二番目に大きな部屋の前に、俺といさみという少女が足を止めた。



いさみが、部屋の襖を開ける。

すると、中にいたのは、仏頂面の男だった。


「…………ふむ。遅かったですな。近藤さん」


切れ長の目。まず、俺が目を引いたのはそれだった。

冷たい、氷みたいな容貌の男。あんまり冗談が通じなさそうな、独特の雰囲気をもった男は--酒でも飲んでいたのか、漆塗りの盃を手にしたまま、


「そちらのひとは?」


ちらりと、俺に視線を向けてきた。


丁寧だけど。その視線に、俺はあんまり好きじゃないものを感じた。

なんだろう。この感じは……。本能的に、疑われているのを感じているのだろうか。


抜き身の刀身というか。そいつからは、俺が今まで会ったことのない、独特な暗いオーラを感じた。野生の犬に睨まれてるような、そんな微妙な怖さを。



「京の町で会ってね。拾ってきたのよ」

「拾ってきた、…………か。今どき流行はやりの、不逞ふてい浪人ではないか?」

「ううん。違うと思うわよ。何しろ、格好が格好だもの」


と。勇は、俺の学校指定のブレザー。そしてズボンといった服装を眺める。

ふむ。と、男は酒を口に含みながら、考える風情だった。


どうやら、少女のほうは、この男のことを信頼しているらしい。表情とか会話で、その気心の知れた雰囲気を感じることができた。


何となく置いてけぼりだった俺に、少女はコッソリ耳打ちして、


「――紹介が遅れたけど。この人、私の部下で。この屋敷で二番目に偉い侍さん。もちろん、一番は私なんだけど……名前は、土方ひじかた歳三としぞうって言うの」

「………………? ひじかた?」


と。

俺は、目の前の男にジロジロと不審そうな目を向けられながら、妙に引っかかるものを覚えた。


なんだろう。


なんだろう。


この、モヤモヤとする感じ。



ひじかた、ひじかた……。どこかで、その名前を聞いた気がする。歴史物には疎くて、大河ドラマとか時代劇とかはお年寄りが見るものだと、もっぱらアニメとかゲームばっかりやってる俺だけど…………どっかで、その名前を聞いた気がする。


そして--。その疑問は。


俺が、どうしてこの知らない町に来てしまったのか。そして、ここはどこなのか、という根本的な疑問を解決するための、重要なキーワードになりそうだった。




「…………? どうしたの? アンタ」


心配そうに首を傾げる少女の声は、俺の耳には届かなかった。





やがて、俺は。


宇宙の心理に気がついたような。とんでもない電流が走る発見を、この場ですることになる。



「――――あ、アアアアアアアアアアアア……!? としぞうって……土方歳三!? あんた、五稜郭の戦いで戦死した、土方歳三か!?」

「きゃっ!? ちょ、ちょっとアンタ!! 急に叫ばないでよ!!」



俺の驚愕の声に、勇は小さく跳ねてびっくりした表情をする。


「な、なぁ!? そうなんだろう!? ずっとオカシイと思ってたけど……! ここって、幕末の京都なのか!?」

「は、はぁ!? 何言ってんのアンタ!? 急に頭でもおかしくなったの!?」


ますます戸惑った顔で叫ばれるが、俺は関係なかった。

それよりも。この、降ってわいたような信じられない事実を確かめるために、驚く少女の肩をがくがくと揺すった。


すると、


「――落ち着け。馬鹿」


さっきまで座っていたはずの男が、いつの間にか刀の鞘を使って俺を突き飛ばした。


「戦場で己を見失えば、すぐに死ぬことになる。冷静さを失った人間が、俺は嫌いだ」

「……って、ててて」


廊下に突き飛ばされた俺は、打撲したと思われる尻をさすった。


「と、トシ! アンタ、なんて乱暴なことを……!」

「近藤さん。この人は、だいぶ混乱しているようだが……どうも事情があるようだ」


驚いて叱りつける表情の少女に、仁王立ちする男は振り返った。


「聞いてみる必要……あるんじゃないか?」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ