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底辺の底力  作者: zakey
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第1話 始まりは平凡に

―――4月9日 深夜零時



 分からない



 夜遅く、春休み最後の日だから、たまたまやってみようかなーと思ったジョギングで、ほんのちょっとの冒険心がたまたま向かわせた人通りの少ない郊外、そこで起こってる目の前の状況が。




 理解できない



 

 そんな場所で一匹と一人が夜景を背景に踊るようにして各々《おのおの》の牙を交じ合わせていること。

 そして、そんな一匹と一人……悪魔と少年が自分に気づかない。まるで路傍の石とでも思われているのか、私を一瞥もせず二人きりの世界となっていることが。



 分かりたくない



 悪魔なんてものが存在する事が、ではない。そんなものが存在することはこの世界では常識であり、なによりも知っておかなければならない敵であることもまた常識だ。

 だからこそ、重要だったのはその存在ではなくて”強さ”。一応学校では”学年最強”の私でさえ、戦えば良くて相討ちで済むような、そもそもまだ学生である私には無縁のように思える強さ。



  理解したくない



 頂点と呼ばれ畏怖されてきた私でも足が竦むような相手に平然と、つまらなそうに戦っているのは良く知った人だった。いや、知っているのではなく知ってたの方が当てはまる。

 しかし、到底同一人物とは思えない。なぜなら私が知っている限り彼は私とは正反対……つまり”学年最弱”というより”歴代最弱”とまで言われる底辺だからだ。 


 そんな彼が片手間で強力な悪魔と戦っている。これは私にとって衝撃を与えるには十分すぎる情報だっ

た。今までプライドなんて物はほとんど持ち合わせていないと思っていたのに、それをこんな事で自覚さ

せられたのも私としてはかなりショックである。


 私が自分の感情の整理をしている最中に、一匹と一人の舞台はフィナーレへと近づいていく。飛び散る

火花が辺りを彩り、ぶつかり合う音がアクセントとなる。最後には締めとばかりに爆発音を轟かせる。

 

 耳を塞ぎ、爆発を耐えた私の目に映ったのは力尽き灰とかした悪魔と、今にも飛び立とうとする少年の

背中だった。


 一瞬、声を掛け引きとめようとしたが自重した。なぜかその行為が無粋に思えてしかたがなかった。

 少年は夜空に消えてゆき、私は闇夜に取り残される。


 「うやま……たつか。」




   △ △ △ △



 皆々が新たな門出に胸を膨らます季節。俺は目の前に悠然と立ち構える門の中に次々と吸い込まれていく人々を客観的に観察していた。

 門内に入って行く人々は皆同じデザインの服装を着ている所から同じ団体に所属、そして外見の若さから見るに学生……それも高校生だろう。

 

 ただ同じ制服に袖を通している者たちでも、その着こなしにより二つのグループに分かれている。

 一つ目のグループはキッチリとボタンを止めどちらかと言えば着ているよりも着られてえいる感じがある初々しい人達。

 二つ目はボタンは止めずカターシャツを見えるようにする者。袖を折ったり服の中にブランド物のTシャツを着たりする者等、いかにも場馴れした人達。

 高校という環境から考えるに前者は新しい生活に期待と緊張が混じる新入生。後者は一年以上生活した故に”独自の校風”に染まった2・3年生だ。

 

 少々風紀の乱れを懸念してしまうこの学校では学生達、主に2・3年生は当たり前のようにピアスやネックレス、指輪等の装飾品をつけている。しかし、この装飾品に至っては何一つ教師からはお小言や説教なるものは言われない。


 なぜなら、当たり前ではなく最低限必要な物だからだ。

 装飾品……一般的に“召喚機レリック”と呼ばれる代物はこの第三退魔士学校の学生にとって筆箱の中の鉛筆やシャーペンとなんら変わりのない程当たり前だが重要な品なのである。

 この召喚機の存在理由とこの学校の存在理由は共に『悪魔と対抗する力を身につける』事だ。

 そんな端からみれば突飛で唐突も無い事が普通であり常識なのが世の中で、その筆頭がこの学校だ。


「まぁ、文句垂れている俺もここの一員なんだよね」


  と、俺は慣れないヒューマンウォッチングに終止符を打ち、心の中を少々口笛という形で漏らしながら眼前の人の流れの一部となった。


 流れの行き着いた先は校門内に建つ校内掲示板。ヘタをしなくても受験の合格発表より賑わうそこでは、自分たちの新たなる住処の場所……つまりクラス発表が行われていた。

 俺は人垣の後ろから背伸びをしてこれから向かうべき巣━━帰るべきではない━━の場所を確認しようと躍起やっきになっていると、突然肩に手を置かれた。


 「おっす、おはよう龍也!」(ニコッ)


 「………フンッ!」(ブスリ!)


 「ぬわぁ……目が、目がぁぁあ!」


 「ふふっ、おはよう龍也くん」


 「あぁ、おはよう」


 俺の肩に手をおいた挙句その笑顔で気分を害さした不届き者の名前は条氏じょううじ 孝介こうすけ。 薄い茶髪のくせ毛。日本人にしては高い鼻。185cmのそこそこ筋肉がついた体躯。キリっとした奥二重等、どっからどうみても外国人……よくてハーフなイケメン。Butしかし、コイツはれっきとした日本人×日本人(※ボーイズなラブ的掛け算じゃないよ)の純国産だ。本人も見た目と中身のギャップが悩みらしいのだが俺の知ったこっちゃない。あだ名は『ジョージ』で不本意ながら去年の一年間を共に過ごした友達でもある。


 「ヘイヘイ!友達じゃなくて親友だろ?」


 「…………」


 「え、無視ですか!?」


 その隣に佇んでいる少女━━いや美少女の方が適切だ━━は旭日あさひ 美波みなみ。艶やかな黒髪のロングヘア。パッチリとした眼。少し幼げな顔立ちに映える微笑みが印象的な清純派美少女だ。もう近くにいるだけでジョージのムカつく笑顔で穢された俺の心が癒される。なにか癒しの成分でもだしているのではないだろうか。こちらも去年のクラスメートで何かと一緒に居た友達だ。あの頃の俺によくぞ親しくなったと褒めてやりたい。


 「ジョージくんをいじるのは程々にね?」


 「美波が言うならしょうがねぇな」


 「龍也てめぇ、朝から俺のHPがレッドゾーンじゃねえか」


 「だから?」


 「え……いや、なんでもないです」


 相も変わらずジョージは押しに弱い。


 「さっさと俺たちのクラスを確認してこい」


 「え……なんで俺だけ?」


 「お前が一番背が高いからだよ!」


 「うおぉ!?」


 頭に疑問符を浮かべるジョージ(185cm)の背中に俺(177cm)が蹴りを入れてあげ、人垣と一体化させる。ジョージは少し背伸びするくらいで辺りをキョロキョロと見渡している。


 「うん?…あ~あぁ? ぬぅ……おう!」


 変な声を漏らしつつも何かを見つけだしたジョージは足早にコチラへ戻ってきた。


 「見てきたぜ」


 「それでどうなったんだ?」


 「聞いて驚くなよ?」


 「大丈夫です。驚きなんてしませんよ」


 「あ、嘘です。出来れば驚いてください」


 美波の天然(?)につい戸惑ってしまうジョージ。こいつはいつでもどこでもいじられてしまう星の下に生まれて来たに違いない。


 「なんと!俺たち全員同じなんだよ!」


 「まじか!?」


 「紗香さやかちゃんもですか?」


 「イエス!」

 

 「唯月姐いつきねぇもなのか?」


 「イエスイエ~ス!」


 これは……驚くなと言う方が無理な話だ。今ここにはいない2人の顔を思い浮かべながら目を見開き素直に驚いてしまう。まさか俺たち5人組が同じクラスになるとはね、危険物はまとめて管理なのだろうか?杏子きょうこちゃんも思い切ったな。


 この杏子ちゃんとは愛すべき我らが理事長であり、この呼び方は裏でこっそり使われているわけではなく誰しもが堂々と好んで使っている。その理由は……もうじきわかるので今は割愛させていただこう。


 「俺たちのクラスはどこなんだ?」


 「2ー3!」


 「よっしゃ行くか」


 軽くなった足取りで3人一緒に靴箱へと向かう。


 

 ………



 「うっす」


 「おはよ~」


 「おはようございす」


 ガラガラッと2-3━━つまり今日から自分の教室となる部屋のスライド式の扉を開き、ジョージ・俺・美波の順に挨拶をしていく。

 初めに目に入ったのは困惑を顔に出した女子と、その向かいに座る相談相手になってるであろう見知った顔の女性だ。


 「おはよう唯月姐。また相談?」


 「あら龍也じゃない。おはよう」


 見たことの無い女子の相談を受けている女性の名前は瀬戸せと 唯月いつき

 B=90 W=56 H=86(本人談)の我儘な肢体に亜麻色のセミロングが似合う綺麗な女性。軽いtレ目に浮かぶ泣きぼくろがセクシーで魅力満載である。よく年上に間違えられる━━もちろん良い意味で━━が俺たちと同級生。なにより姉御肌な性格で男女問わず人気があり、相談事に乗っては気づけば解決してくるというクール&ビューティな女性。そんな彼女に敬意を込め、人々は姐さんと呼ぶ。こちらも紆余曲折あって俺たち五人組の一人だ。


 「あったばかりだけれど少し待って頂戴ね。先客がいるの」


 「全然大丈夫ですよ、唯月さん」


 「そんじゃ姐御、またあとで」


 「はいは~い。で、それで?」


 「それでですね……」


 唯月姐は女子の相談に戻る。その真摯な姿がいつもとは違う雰囲気を出していて新鮮味がある。いわゆるギャップ萌えだろうか。


 「後は紗香だけだな」


 「でももう5分もないぜ?」


 「どうせ遅れてくるんだろう。アイツだからな」


 「……だな」


 俺とジョージは共通の少女を思い、変なところで納得する。


 「もぅ、紗香ちゃんをそんな風に言ってはダメですよ。たしかに遅刻の常習犯で入学式にすら先生方の話を聞きたくなかったと言って見事にすっ飛ばした人ですけど……」


 「な?」


 「そう…ですね」


 どうやら美波にも納得していただけたようだ。


 「チャイムまであと5、4、3、2、1、0」


 キーンコーンカーンコーン。


 ジョージのカウントダウンと共に朝の執行猶予は幕を降ろした。最後の一人の遅刻が決定した瞬間である。これで今までの始業式、終業式などすべての式に出席していない記録をまた一つ更新した。


 「は~い席につけ。場所は適当でいいぞぉ」


 チャイムに先生までおまけで付いてきた。 くわえ煙草に無精ひげ。整えられてないボサボサの黒髪。筋肉はありそうなんだが長身のせいでひょろっとして見えるのは生徒からの人気が高いにしき 忠則ただのり教諭(26歳)だ。人気の高い理由はその頭の柔軟さ。とりあえず話の分かる先生として生徒の心をぬるっと掴んでいる。身なりを整えたらワイルドなイケメンと噂されている。


 「ひのふのみぃ~っと。一人だけきてねぇな、光広みつひろの野郎だな。」


 「忠則センセー、紗香は野郎じゃありません」


 ジョージの変な抗議が飛ぶ。案外友達思いなのが微笑ましい。


 「あぁ?どうでもいいんだよそんなのは。はいそんじゃ~始業式するんで体育館へれっつごー」


 なんともやる気の無い号令で朝のSHR(ショートホームル-ム)が終わってしまった。てかいつの間にはじまってたの!?


 「……行くか」


 「そうだな」


 元気のない声で男二人は歩き出す。






 

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