プロローグ
世の中は矛盾に満ちている。
何が正しいかなんて分かったものじゃない。
だから、僕たちは自分で空を見つける
いや、見つけなきゃいけないんだと思う。
自分が羽ばたくための空を――。
「うわぁ〜!落ちる〜!!」
「バカ!ハンドル切れっ!上昇しろ!っていうか貸せ!」
ゴーグルをかけた少年は、そう叫ばれ、強引に同じくゴーグルをかけた女性にハンドルを奪われた。
二人の乗った機体は、みるみる上昇し、無事軌道に乗ったようだ。
「ここは、上昇気流が少ないから落ちやすいって言っただろ?」
「ご、ごめんなさい…」
女性の厳しい一言に少年は肩をすくめてしまった。
しばらくして、二人は海の上にある“ホープ飛行学校”に着いた。
「センセー、やっぱりハルトは駄目だぜ?俺が言うんだから間違いないよ!」
「あら、サツキは女の子なんだから自分のことは私って言いなさいって言ってるでしょう。それとハルト=スターチェ。あなたは成長しませんねぇ…。お兄さんはあんな立派だというのにね、ねぇ、サツキ?」
センセーと呼ばれた女性はハルトとサツキを交互に見比べた。
「ば、バカ!何言ってるんだよ!てか俺に振るな!」
サツキは真っ赤になって叫んだ。
「あら…、サツキはまだ、タクトと付き合っていたの?」
突如、後ろからくすくす笑いと共に声が聞こえた。
「うっ…マイ!お前には関係ないだろ!」
「はいはい…、それにしてもタクトはなんでこんな男、いや女を好きになったんだか…」
マイが、サツキをからかっている中、ハルトはおずおずとセンセーと呼ばれた人に話しかけた。
「ハティル先生…、僕やっぱり航空科を続ける自信がないです…。お兄ちゃんみたいにはなれないよ…」
「ハルト=スターチェ、確かにあなたは航空科を選択してから半年が経つけど、成長していないわ。ミスも多い」
ハティルのきつい一言にハルトは、気落ちしてしまった。
「でもね…、私はあなたにもお兄さんと同じような才能が眠っていると思うのよ。私の勘だけど、間違いないわよ」
ハティルは、ハルトの優しく微笑みかけた。
「ハティル先生…」
「ふふっ、さぁ実践練習も終わったしお昼ごはんよ。マイ、サツキ!ほら、あなた達も一緒に食堂に行きましょう?」
二人はいがみ合っていたが、名前を呼ばれお互いに、「ふん!」といって別かれていった。
「女は恐いな…」
ハルトは、ぼそりと呟いた。
「ふふ、ふん〜♪」
僕は昼食を終え、野外の丘でゴーグルを磨いていた。
このゴーグルは、お母さんからもらった形見。飛行機に乗るとき風で視界が邪魔されないようにって…。
「へへっ!」
きれいに磨けたゴーグルを見て、僕は笑った。
お父さんからもらった工具箱と、ピカピカのゴーグルを横において僕は寝転がった。
風が気持ちいい。日差しが眩しい。
空は僕に色々な顔を見せてくれる。だから、いつ見ても飽きないんだ。
僕の名前は、ハルト=スターチェ。ホープ飛行学校の航空科に通う2年生。この国では10歳になると、それぞれ将来就きたい仕事に関する学校に入り、勉強して卒業後はそのまま国から仕事が与えられる。そんな中で、僕が通ってる飛行学校って言うのは、主に空に関する勉強をすること。科目は主に、航空科、航空科学科、航空観光科、航空電子科など、とにかく空に関することばかり。
その中でも僕が専攻したのが、飛行機で空を飛ぶ航空科。色々ある科目の中では、難易度も高く危ないので選考する人は少ない。でも僕は、お兄ちゃんに惹かれて航空科を選んだ。僕のお兄ちゃんは飛行学校航空科をトップで卒業して今は、ティーア飛行会社で働いてる。ティーア飛行会社は、政府とのつながりもあってとっても大きな会社だ。そこでも、新人ではトップの成績らしい。
まだ、空は飛ばせてもらえないみたいだけどね。
「おーい、ハルトー!休み時間終わるぞー」
遠くから声が聞こえたので、僕は体を起こして声の出所を見た。
サツキだった。
「わかった!すぐ行くよ!」
僕は丘を、走って駆けていった―。