まさかの宣告
「ええっ……!」
次の日、昨日と同じ時間に出庁した美咲に、あり得ない報告が待っていた。
「うん……だからさ、成田君の代わりに教育係は及川君がやることになったんだ」
間々田の発言に、思わずため息が漏れた。
(あの及川が、よりによって……)
間々田の話はこうだ。
昨日、美咲を帰宅させた後、成田、及川、笹塚は容疑者検挙へ向かった。
容疑者は40代の男。容疑は女性二人の殺害。
彼の自宅は国立だったらしい。国立署と共同で、成田たちは男の自宅に踏み込んだ。
「それで……撃たれたんですか?」
美咲の言葉に、間々田は深いため息をついた。
「命に別条はないんだけどね……」
こうこうと蛍光灯が光る第一係の部屋にいるのは、間々田と美咲だけだ。
(及川が教育役、か......)
会話が途切れれば思考回路は全てそちらに飛ぶ。しかし、撃たれた成田を思えばいつまでもだだをこねるわけにもいかない事くらい、美咲も大人だ。十分わかっている。
「係長」
「なに?」
間々田と目が合う。よくみると、刻まれた皺の奥の目は象の瞳のように穏やかだった。
「コーヒー、のみます?もしよければ買ってきますけど?」
「どうして?」
彼女にむかって間々田が微笑んだ。今の彼の目は、及川のそれの様な匂いがした。
「なぜって......」
ブラインドから入ってきた光が床に反射して、部屋の天井まで明るく染め上げた。
一日の中で1番好きな時間。この光の中でなら、自分の気持ちを整理できる。そんな気がした。
「いってらっしゃい」
そういって笑う彼は、やはりいつもの間々田だった。