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第一章末
「はあ……」
空調の整えられた本庁から外に出ると、いまにも肩の力が緩みそうなほどやさしい風が吹いている。
「少し、疲れた、かな」
そう声に出してつぶやいた。排気ガスの少し混ざったような、濁った春の空気が、彼女の記憶を過去へといざなう。
過去を思い出す……この行為は、彼女は好きでも嫌いでもない。
地雷を踏まなければ、パンドラの箱を開けなければ、別段疎ましいことでもない。その程度の認識。
行き場を失った足は、自然と家へ向いた。
それにしても、と今日の自分の無様な緊張ぶりを思い出して、歩きながら美咲は自嘲気味なため息をついた。
あの無機質な廊下、病院のような雰囲気、冷たくも温かくもない空気。
自分は、あの環境でうまくやっていけるのか……?
霞が関の地下鉄ホームへ向かう細い階段を下りながら、美咲は言いようのない焦燥感に似た感情に襲われた。