裏戦
「おばちゃーん、いるー?」
日曜の昼下がり、雨が降り始めた頃、三人の子供達が私の店にやってきた。
見かけたことのない子たちだったからよく覚えている。
「はいはい、あら珍しい。あの子達以外のお客なんて。」
そう言うと、三人はお互いに顔を見合わせ、うなずき合った。
「ねえ、おばちゃん、あの子達って『ゴールデンビートルズ』とかいう5人組のこと?」
「そうだよ。あんたたち、友達かい?」
「うん、まあ、そんなとこかな。
それでさ、その5人組、最近ここに入り浸ってるでしょ。」
「そうそう、なんだか他の子がどんどん来なくなっちゃって、
午後になると、もう毎日毎日あの子達がぐうたらしてるんだよ。」
三人がまた顔を見合わせ、うなずき合う。
「あのさ、おばちゃん、頼みがあるんだ。これを、あいつらに渡してくれないかな。」
そう言って、ポケットから出てきたのは一枚の紙切れだった。
「なんだい、これは。だれかの歌か何かかい。」
「想像におまかせ。何か適当にそれっぽい理由つけて、
あいつらにこれを信じ込ませて欲しいんだ。
できればこれを探しに行かせられるといいんだけど。」
「こりゃまた難しい注文だねぇ。でも、まあやってみるよ。
いつまでも店の前でダラダラされてもこまるしね。」
「本当? じゃあ、よろしく。
あ、そうそう俺たちに頼まれたっていうのは内緒にしといてね。」
「はいはい、まかせときな。」
不思議な三人のお客は手を振りながら帰って行った。
「あ、そういえばあの子達、なんにも買っていかなかったねぇ。」
私はぽつりとつぶやいた。
小さな廃屋に、三人の少年達が集まっていた。
「リーダー、やっと終わりましたね。」
「おいすすき、もうリーダーってのはやめろ。
それにそのしゃべり方も元に戻せ。やりにくくてしょうがないから。」
「えーっ、結構おもしろかったのに。」
「ははっ、今度からはお前が委員長になるか?いぶき。早く本題に・・・・・・」
「ふざけんな。今回の活動だって、俺はリーダー役なんかやりたくなかったんだ。
なあ、すすき。やりたくないって言ったよな。」
「なーに言ってんの。なりきってたくせに。」
「は? 俺は、引き受けたことはきっちりやるタイプなんだよ。
大体な、委員長としてかなたがリーダーやればよかったんだ。何で俺だったんだよ。」
「まあまあ、たまには気分転換ってことで。はい、じゃあ本題に移ろう。」
「おい、まだ終わってねぇ!」
「うるさい!」
「はい。委員長。」
「よし、本題に入る。今回の活動の目的は、拡大しすぎた張り場争いの沈静化、
および、隣町の1チームが保持する権力の無効化だった。
いぶき、リーダー会議の結果はどうなった。まだ聞いてないぞ。」
「ああ、忘れてた。『ゴールデンビートルズ』は、
俺たちが自分たちの勝利を認めたから、戦利品はいらないって言ってたぜ。
拡大した張り場も全部元のチームに返すってさ。」
「そうか、ということは成功だな。いや、成功以上の成果になった。」
「成功以上? どういうこと?」
「実は、この活動には目的がもう一つあったんだ。
それは優秀な人材のスカウト。つまり新委員さがし。」
「えっ、なにそれっ。」
「俺は前から『ゴールデンビートルズ』の噂は聞いていた。
チームの全員がそれぞれ優れた特性を持っていることも。
みんなバトルをしてみて気づいただろう?
リーダーである竹本勇大には、最近稀に見るリーダー気質と怪力。
西村智樹には、島一番の俊足と勇気。
鶴見渚には、端正な容姿と第六感。
柚木聡留には、神に愛されたような運の良さ。
そして、俺が一番興味を持ったのが安川涼。
チーム内では司令塔と呼ばれているそうだが、その頭の働きといい、
絶妙に言葉を操り人を動かす力といい、期待を全く裏切らなかった。
そこで、みんなに提案がある。
安川涼を新委員としてここに迎えてみてはどうだろう。」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・かなた、俺は一人の友達としてお前に訊く。
本当にそんなこと、考えてんのか?」
「そうだ。俺はいつだって大まじめだ。
いぶきだって思っていただろう? これじゃ人手不足だって。」
「そりゃあ、思った。思うに決まってる。でも、お前はそれでいいのか?
安川涼には安川涼の仲間がいる。
俺たちだって、この三人で一つの仲間なんじゃねぇのかよ。」
「そうだよ。私だってこのメンバーで今まで活動してきて楽しかった。
いまさら新しい委員ってそんなの、そんなのないんじゃないの?」
「でも、じゃあこれからどうするんだ。外からの依頼まで来るようになったんだ。
昔みたいに簡単には行かないんだから、誰かを呼ぶしかないだろう。
それ以外に方法なんか・・・・・・・・・」
「ふざけんなっ!!!」
自転車をとばしてたどり着いた先にあったのは、小さな廃屋のようだった。
「ここだ。場所にくるいはない。」
ツルが自信を持って言った。
「ヤス、本当に一人で大丈夫か?」
「なにされるかわかんないよ。」
「なんなら俺も一緒に・・・・・・」
「大丈夫。あんまり心配するなって。あいつらがねらってるのは俺なんだろ、ツル。」
「そうだ。」
「だからこれは俺の問題なんだ。ちょちょいっと話つけてくるさ。
あっちの頭に話したいこともあるしな。」
俺はみんなに背を向けて、向こうに見える廃屋へと足を進めた。