永遠の命など
永遠の命など誰が喜ぶのだろう。
少なくとも彼はそう思っていた。
「これは大変名誉なことです」
遣いの者がそう言ったので彼は表面上は喜ぶ顔を見せた。
少なくとも両親にはそのように見せることが必要であると理解していたから。
「お父さん。お母さん。私は世界で一番幸せな存在です」
彼はそう言ったのを良く覚えている。
自分に与えられた贈り物を両親へ譲るたび、二人の顔から自分の存在が失せるのを感じたのもよく――。
「守り神よ。あなたはこれより先、永遠に人を護ることを誓いますか?」
この奇妙な宣誓を彼はよく覚えている。
自分は神となるのだ。
それなのに何故人に誓わねばならないのだろうか。
自分は神となるはずなのだ。
それなのに何故人に縛られねばならぬのだ。
それでも彼は力強く宣言した。
「誓います」
以来、彼は永遠の命を持つ守り神となった。
もう千年も前のことである。
*
永遠の命など誰が喜ぶのだろう。
彼は今でもそう思う。
「あなたは神ではない」
自分が永遠のものとなったあの時代より千年が経った。
故に彼はもう神ではない。
「誰よりも人間の罪に汚された、あまりにも残酷な運命を背負わされた被害者だ」
彼は否定はしなかった。
けれど肯定もしなかった。
「永遠の命を得た手段は覚えているか?」
実のところ彼は手段も方法も覚えていた。
しかし、彼は知らないと言った。
永遠の命に価値などないと強く思っていたから。
「なにもおぼえていません。おぼえているのはただひとつ。まいにちのように、わたしのにくをけずられたきおくばかり」
彼は白痴を演じた。
千年も『食料』として生きて、精神が崩壊した存在を演じ続けた。
永遠の命を持つが故に、何をしても死なない。
故に食料となれる。
「わたしはしっています」
彼は日がな一日言い続ける。
「めぐみをあたえるものこそがかみであると」
永遠に繰り返されるのを知りながら。
「ゆえに。にくをひとにあたえつづける、わたしこそがかみであると」
かつての神。
現在の白痴。
どちらも演じ続けるという意味では特に変わらない。
変わらないが故に彼は考え続ける。
永遠の命など誰が喜ぶのであろう、と。




