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もう二度と、殿下の身代わりにはなりません 【連載版】  作者: 乙原 ゆん


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8.それから

お待たせして、申し訳ありません。

 私の両親にも反対されることなく、正式に婚約は整った。


 元の婚約者の件もあり、最初は私の能力目当てではと警戒していた両親も、この婚約は私を守ることにもなるという言葉に態度が和らぎ婚約を認めてもらった。

 ジェラルド殿下が何者からも私を守ると宣言してくださったことも大きいと思う。


 婚約に伴い、婚約者教育を受けることになった。エリオット殿下の婚約者だった時の教育が役に立っているようだ。

 家庭教師の先生達からは基礎的なことはできているという評価をいただいている。


 家庭教師達からはこの国独自のしきたりを学ぶことになり、毎日のヴィオラ様の治癒の時間の前に教育を受ける時間が設けられた。

 ヴィオラ様との時間の後は自主的に復習の時間も取っており、毎日勉強漬けの私に殿下は心配を隠さない。

 今日も、毎日設けられている殿下とのお茶の時間に勉強の進捗の話をしたところ、心配そうな表情をさせてしまった。


「本日は、キャメロン夫人に褒めていただきました。どうやら予定より早く進めているようです」

「それはよかった。だが、少し顔色が悪い。無理をしているのではないか?」


 自然な様子で額に手を当てられ、動揺する。

 殿下はヴィオラ様のご体調にも普段から気を配っておられるようで、私にもその延長で動いてしまわれるのだろう。

 固まっている私に気がついたのか、殿下がはっとしたように手を離す。


「す、すまない」

「い、いえ、……その、こ、婚約しておりますし」

「そ、そうだな」


 目元が赤くなっている殿下のご様子に、私も似たような状況なのだろう。

 かつての婚約者からはこんな風に気遣われたり、心配されたりということもなかったので、動揺してしまう。

 コホンと咳払いして、殿下が言う。


「……せめてヴィオラの治癒が終わるまでは休んでいる方が良いのではないか?」

「ご心配はありがたいですが、時間もありますから、少しでも勉強を進めたいのです」


 難しい表情を崩さない殿下に言い添える。


「少しでも早く殿下の婚約者として相応しいと認めてもらいたいのです。わがままをお許しください」

「……そんな風に言われたら許さないわけにはいかないではないか。ミシェルの希望を優先するが、不調の際は体調を優先するのだぞ」


 頷いた私に、殿下は表情を和らげる。


「私の願いは、ミシェルがこの国で健やかに過ごすことだ。どうかそのことは心に留めておいてほしい」


 優しげな眼差しで見つめられ、私はどぎまぎと頷くのだった。



 ジェラルド様とそんなやりとりをしてしばらく経った日のこと。

 神殿が新たな取り組みを始めるとヴィオラ様から聞かされた。

「詳細はお兄様に聞いたほうがいい」と言われて、早速お茶の時間にジェラルド様に尋ねる。


「神殿が薬の取り扱いも始めると伺ったのですが……。ジェラルド様が主導されているのですか?」

「ヴィオラに聞いたのか。もう少し形になってからミシェルには話そうと思っていたのだが……」

「もう、かなりのところまで計画が進んでいると聞きました」

「ミシェルの両親のおかげだな。実は昔から、聖女に頼りすぎない仕組みを考えたいと思っていたんだ。ただ、実現させる方法が見つからなくて悩んでいた。そんな時に、ミシェルのご両親の伝手で一気に実現が近づいたんだ。ご両親は素晴らしい人脈と知識をお持ちなのだな」


 話を聞くと、どうやら両親がブライト王国で私のために薬の手配をしてくれていたことが今に繋がったらしい。

 ジェラルド様は、国民が聖女だけに頼らず、体の不調を治せないかとずっと考えておられたそうだ。

 そこで、私が神殿に両親が寄進してくれた解毒薬に助けられたという話を聞き、「それだ」と思われたらしい。


 今は、神殿に傷薬や、胃痛、頭痛、腹痛などの薬を神殿で常備しておき、具合が悪い人は寄進をすることでそれらの薬を受け取り、家で療養してもらうという試みを計画しているそうだ。

 まずは王都から始め、順次王国中に広める計画らしい。


 もちろん、聖女の公開治癒日はそのまま設けられている。

 しかし、具合が悪い人は、月に一度しかない治癒日を待たなくていいし、薬で体調不良が治る人がいれば、その分、ヴィオラ様の治療を待つ人も減るだろうという考えのようだ。


 ジェラルド様は、ゆくゆくは国内で医師も増やし、この国のどこにいても、医師と薬師の助けを民が得られるようにしたいとのお考えも話してくれた。


 体調が悪いと、心も沈む。

 月に一度、聖女様の治療を受けることができるとはいえ、王都の外に暮らす人は、その日にあわせて遠出する必要がある。

 なかには、移動することができない人もいるだろう。

 そういった人が、気兼ねなく医師の診察を受けられ、薬をもらえるのであれば、どれほど安心して暮らせるだろうか。


「そこまでのお考えがあるのですね……」


 尊敬の眼差しで見つめると、ジェラルド様はどこか気まずそうだ。


「全てが民のためというわけではない。自分のためでもある」

「……?」


 どういうことだろうかと首を傾ける私に、ジェラルド様が照れたような笑みを浮かべる。


「皆が健康であればあるほど、私がミシェルと過ごす時間も増えるだろう?」


 私の予定は、ヴィオラ様のご体調に左右される。

 ヴィオラ様への依存度を下げることで、結果的に私の負担を下げてくれようとしていたようだ。

 真っ赤になった私を、ジェラルド様は嬉しげに見つめていた。



 数年後。

 神殿での薬の処方は成功し、一時期、薬が品薄になるなどの問題は出たものの、今では国内にあるどの神殿でも、わずかな寄進で望む薬をわけてもらうことができるようになった。

 新たに国内に薬草栽培の事業が増え、ジェラルド様は医師を増やすための準備を進めている。

 両親は神殿の新たな役割の設立に携わり、その人脈と薬草への知識で王国の発展に貢献したとして伯爵位を授けられ、王宮内に新設された、王国の医療を司る部門の長にも任命されている。

 ジェラルド様は王国の未来に新たな可能性を広げたとして王太子に命じられ、結果的に私は王太子妃となったが、夫となった彼は、出会った頃よりも深い愛を注いでくれている。

後一話、殿下視点で終わる予定です。

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