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もう二度と、殿下の身代わりにはなりません 【連載版】  作者: 乙原 ゆん


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5.何故か王宮に滞在しています。

 聖女様に体を癒やしていただいてから三日。

 驚くことに、私は聖プラチナム王国の王宮に滞在していた。


 というのも、あの日、聖女様にお力を使っていただいている途中で気を失ってしまったらしい。


 体の治癒が完全に終わっていないことと、スキルを使ったお礼を兼ねて王宮で保護されている。


 お二人のお申し出を、お父様も一度は断ったらしい。

 でも、王宮であれば聖女様のご都合の良い時に、聖堂の公開治癒日ではなくてもお力を使っていただけると言われ、保護に同意したのだと聞いた。

 私はといえば、見知らぬ部屋で気が付いたかと思えば、側についてくれていたお父様に王宮にいると言われてとても驚いた。


 お父様は私が目覚めた後は宿に戻られたが

 家族に会いたい時には、いつでも会えるように取り計らってもらっている。


「ミシェル、お待たせしてごめんなさい。今日の分をやっていきましょう」

「聖女様、本日もよろしくお願いします」


 与えられている客室にやってきた聖女様を出迎えて礼をする。


「楽にしてね。もう、私のことはヴィオラと呼んでってお願いしたのに。ついでにいうと、殿下もなしよ? ミシェルは私のお客様だもの」

「申し訳ありません、ヴィオラ様」

「それでいいわ」


 ヴィオラ様は、にっこりと微笑んだ。

 お名前呼びするのは慣れないが、そう言われてしまえば従わないわけにはいかない。


 あの日、私が倒れた後も、ヴィオラ様は並んでいた人達の治癒をかなりの人数行われたそうだ。

 倒れた私を優先しなかったことを謝られたが

 もともと後ろに並んでいた母子のことを気にしてスキルを使うことを申し出たのだと告げると

 なぜか、より気に入られてしまった。

 それから、名前を呼ぶようにと言われたのだ。


「早くミシェルの体を全部癒やしてあげたいわ」

「まだ時間がかかりそうですか?」

「そうね。次の公開治癒日までには終わると思うけれど、深く傷ついている場所も多いから慎重に進めているの」


 十年という長い年月、継続的に毒を肩代わりしてきたのだ。

 解毒薬は飲んでいたとはいえ、体に蓄積した毒を排除し、

 健康な状態に戻す作業は、聖女様のお力でも大変なことのようだ。


「今日の分はこれで終わりよ」

「私のために貴重なお力を使っていただき、感謝いたします」

「もう、ミシェル、固いわ? そうだ。あの件、考えてくれた?」


 あの件、というのは体が健康になったらヴィオラ様の侍女として働かないかというお誘いだ。


「私にはもったいないお言葉です」

「あら、私がいいと言っているのだもの。皆も反対しないわ。ねぇ?」


 ヴィオラ様に尋ねられお付きの侍女達も、微笑みを浮かべたまま頷いている。


(本当にお言葉の通りに受け取ってしまっていいのかしら……?)


 王女様であり、聖女様でもあるヴィオラ様の侍女だなんて、望んでも就ける地位ではない。

 それを、珍しいスキルを持っているとはいえ、外国から来た、ただの平民の私が務めていいのだろうかと躊躇ってしまう。


「今はいいわ。まだ時間はあるのだし、ミシェルの気を変えればいいのだもの。……それに、お兄様は、もっと別の道を用意したいと考えているみたいだし」

「……? 申し訳ありません。最後のお言葉はなんとおっしゃったのですか?」

「なんでもないわ」


 最後の言葉がうまく聞こえず、聞き返してしまったものの、

 ヴィオラ様は意味深に微笑みを浮かべて答えてはいただけなかった。


 詳しく聞き返そうとした時だった。


「失礼する。ミシェル嬢。ヴィオラがこちらに来ていると聞いたのだが」

「お兄様!」


 以前助けていただいた銀髪の騎士――ジェラルド殿下がいらっしゃる。

 ヴィオラ様のお兄様、ということはこの国の王子殿下でもあるのだ。

 立ち上がり礼をするミシェルに、殿下が言う。


「ミシェル嬢、楽にしてくれ」

「お兄様、一体、どうされたのですか?」

「シュダル大臣が、今度の大聖堂での式典についてお前と打ち合わせをしたいそうだ。できるだけ早く時間を取りたいと伝言を預かっている」


 ヴィオラ様は私と変わらない十七歳であるというのに

 既に公務にも携わっておられるそうだ。


「そのような伝言をお兄様が持ってこられるなんて意外ですわ」

「丁度手が空いていたからな。ミシェル嬢の治癒は進んだのか?」

「今日の分は終わりました。大臣のところに今から行って大丈夫かしら?」


 頷いたジェラルド殿下に、ヴィオラ様は息を吐く。


「ミシェル、あなたともっとお話をしていたかったけれど、お仕事があるみたいだから行ってくるわ。お兄様、ミシェルのお相手をお願いできるかしら」

「もちろんだ。安心してほしい」


 ヴィオラ様は私に断ると、部屋を出て行かれる。


(どうしてそうなるの……!?)


 なぜか、ヴィオラ様がジェラルド殿下に私の相手をするよう言うので、内心パニックである。

 ジェラルド殿下は嫌がる様子がないのは救いではあるのだが……。


(付き合わせてしまって申し訳ないわ……)


 そんなことを思っていると、ジェラルド殿下が言う。 


「ミシェル嬢、せっかくの機会だ。体調がよいようなら、庭園を案内しよう」


 断る選択肢はなく、私は大人しく差しだされた手を取るのだった。

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