4.聖女様の公開治癒日
十日後。
聖女様の公開治癒日がやってきた。
聖女様はなんとこの国の王女様でもあるそうだ。
国の名前に「聖」と付くくらいだ。
この国の王家は教会と関係が深く、
王家の皆様は教会での立場も持ち、積極的に奉仕活動も行っているらしい。
「よかったな。見てもらえそうで」
一緒に並んでくれているお父様の言葉に頷く。
治癒を希望する人は、前日までに申し込みをして、申し込み順に治癒が受けられる。
希望人数が多く当日中に聖女様には見てもらえなくても、
その順番は次回に持ち越されるという形になっていた。
もしかしたら、次回まで待たなければならないかと思っていたが、意外にも列はサクサク進み、
午後の遅い時間だったが私の番までやってくる。
「次の方どうぞ」
「よろしくお願いします」
聖女様のいる部屋には、銀髪の聖女様と、護衛の騎士様が三名いらっしゃった。
騎士様の一人に、先日男性に囲まれていたのを助けてくれた騎士様がいた。
(あれから町で見かけないと思っていたけど、偉い方だったのね……)
覚えてくれていたのか、私を見て少し驚いた顔をしている。
黙礼して、促された椅子に座った。
「体に癒しをかけるため、お手に触れますね」
聖女様に手を差しだすように言われるが、正面からお顔を見て驚いた。
聖女様の顔色が悪く、気力で体調不良を抑えているような、そんな気配が滲んでいる。
(もしかして、ご体調がお悪いのかしら……? でも、聖女様ならご自分で癒せるはずよね…?)
護衛が何も言わないということは、もしかしたら気のせいかもしれない。
でも、長くエリオット殿下の側についていた経験から見逃せなかった。
「聖女様は、ご体調が悪いのではないのですか? そんな中、お力を使っていただいていいのでしょうか……」
「なっ……!」
聖女様以上に騎士様が驚き、側に来る。
そして聖女様のおでこに手を当て声を上げた。
「なっ! 熱が出ているではないか! ヴィオラ! あれほど無理はするなと言っただろう!」
「お兄様、大丈夫です。それにこんなに多くの方が待っていらっしゃるのに、途中で終わることなどできません」
兄妹だったのかと、驚く私の前で二人は言い合いをしている。
確かに二人とも同じ銀色の髪で、よく見ると顔立ちが似ていた。
騎士様の方は碧眼で、聖女様は紫の色の瞳をしていて、印象が違うため気が付かなかった。
「……諦めろ。終了時刻まで後わずかとはいえ、この熱では今日はもう無理だ」
「いえ。後少しですから頑張れます」
「しかし、聖女の力は自分には使えないだろう。君、悪いが次回の公開日を待ってくれるだろうか」
「お兄様! 私なら大丈夫と言っています!」
「だが……!」
再び言い合いになりそうな二人に、私は思い切って尋ねた。
「あの、よろしければ私がスキルを使ってもよろしいでしょうか」
「なっ!」
「ミシェル!」
お父様が慌てたように声を上げる。
だが、聖女様が自分にはその力を使えないと聞き、黙っていることはできなかった。
後で叱られるかもしれないが、仕方がない。
かつては、エリオット殿下にだけ使っていた力だが
聖女様のご不調を引き受けることができたら
私だけではなく多くの人の助けにもなるだろう。
私も長い時間待って、ようやく聖女様に治療していただけると期待していた。
それが突然中止になったら、落胆も大きいはずだ。
私の後ろには小さい病気の子供を抱えた母親も並んでいたのだ。
聖女様の体調が戻れば、彼らの順番も今日中に回ってくるだろう。
「スキルというのは? 君も癒しのスキルを持っているのか?」
「いえ、私のスキルは身代わりというものです」
「詳しく話を聞いても?」
銀髪の騎士様に話を聞かれ、スキルについて話をする。
その途中、スキルで傷ついた体を癒やしてもらうためにこの国に来たということも伝えた。
騎士様は私の説明に納得してくれたようだ。
ただ、聖女様の不調を引き受けようという私に、二人は難色を示した。
「スキルを使ってもらえるとなればありがたい。だがもし、身代わりで引き受けた不調には聖女の癒しが効かなければどうするのだ」
「その時は宿で寝ます。ご確認ですが、ただのお風邪なのですよね?」
「あぁ、ヴィオラは生まれつきの疾病は持っていないし、この熱は疲労か、風邪のはずだ」
「でしたら、尚更問題ありません」
「……ご令嬢はこう言ってくれているが、ヴィオラ、どうする」
聖女様は少し考え込まれていたものの、頷いた。
「……病気の方にお願いするのは気が引けますが、お願いしてもよろしいですか?」
「私から言い出したことです。では、スキルを使いますね」
スキルを使うには、自分で「スキルを使う」と心で強く思うだけでいい。
ふっと重力が増したかのような倦怠感と、強烈な頭痛に襲われる。
ただ、聖女様のご様子から、ある程度の不調を覚悟していたこともあり倒れることはなかった。
(こんなに具合がお悪いのに、皆様に聖女様のお力を使われていたのね……)
聖女様は、驚いたように目を瞬かせている。
「うまくいったと思うのですが、どうでしょうか……?」
「本当に、今までの不調が嘘のようです……! ……大変! 顔色が……! 私も力を使います!」
聖女様に手を取られ、暖かな光に包まれるようなぬくもりに満たされる。
まずは頭痛が消え、倦怠感が消える。
そして、長年の毒に侵された体も癒えているのか、まずは息がしやすくなっていく。
(こんなに体の痛みを感じないことなんて、今までなかった……)
薄れていく体の痛みに、私は静かに瞳を閉じた。





