2.【殿下視点】彼女の働きを信じなかった私こそが愚かだったのだ
ただでさえ気に入らない容姿の婚約者が
実は子爵家の生まれだと言われた時の気持ちを
どう言い表せばいいだろうか。
いくら珍しいスキルを持ち
伯爵家に養子に入ったとはいえ
相手は子爵家の令嬢だ。
母が生きていたのなら
縁づくことなど絶対に考えられない身分の婚約者に
私ら後ろ盾を失った第一王子という自らの境遇を実感した。
(珍しいスキルが、一体なんだというのだ)
身代わりと言われても、ピンとこない。
自分は生まれつき健康に生まれ、たまに寝込むことがあるがすぐに治る。
命を狙われていると聞いたが
信じられなかった。
しかもその筆頭は継母の王妃様の実家の侯爵家だという。
偶然耳にした侍女の噂話に、ありえないと鼻で笑った。
(王妃様は、先妻の子である私にも優しかったんだぞ……)
確かに父の再婚後、異母弟が生まれたことをきっかけに
私は離宮で暮らすこととなったが
それは病気がちな私の身を案じてのこと。
派閥を争いたい貴族が、王家の関係にヒビを入れようと
そう言っているだけだと思っていた。
◇
幼い頃。
体調を崩し寝込んでいたある日。
婚約者に決まったという少女が見舞いにやってきた。
私に意識はなかったため
誰か大人が許可したのだろう。
「殿下、婚約者のネイラー伯爵令嬢が来てくださいましたよ」
侍女の言葉に薄く目を開くと
愕然とした。
茶色の髪の顔色が悪い少女が
侍女の傍らに立っている。
(こんなありきたりで、美しくもない少女が私の婚約者なのか――!?)
体調が悪く寝込んでいたことが
吹き飛ぶほどの衝撃だった。
目の前の少女は、私が知っている、
輝くばかりに美しい公爵家や侯爵家のご令嬢達とは
あまりにもかけ離れた素朴な容姿をしていた。
「ミシェルと申します。殿下の婚約者となりましたこと光栄です。精一杯これから務めます」
何やら挨拶をしているが
婚約者というものに持っていた淡い期待が一気に吹き飛び、
そのまま言葉が口から出てくる。
「なんだ、金髪でさえないのか」
そう言った途端ミシェルはふらりと倒れ
侍女が慌てたように支えている。
見舞いに来ておいて倒れるなどと
無作法を露わにする婚約者に苛立ちは募る。
「私と会って感動のあまり倒れるとは、大げさだ」
「しかし、王族の尊さを知っているとはたいした物だが、その見た目は自分の婚約者には相応しくない」
「髪を染めろとまでは言わないが、今度来る時には見た目をもっと整えておくように」
私に相応しくあるようにと忠告をし、
最後に付け加えた。
「具合が悪いのならば、お前も帰って休むといい」
「で、殿下――! ご令嬢はスキルを使って殿下の身代わりになってくださったのですよっ」
侍女が何か言っているが、
私には目の前にあることが全てだ。
病人の前で、自分も倒れるなどと自己管理がなっていない者を
どうして侍女が庇うのか理解ができない。
婚約者の無作法を咎めない
私の心の広さを褒め称えるべきではないのか。
その後、私は順調に回復し
婚約者というミシェルは一ヶ月の療養を必要とした。
周囲からは、
婚約者の身代わりというスキルの効果で
私の病気が治ったと聞いたが
本当かどうかは疑わしい。
治るべくして治ったのだと
私は思っている。
◇
それから、婚約者であるミシェルとは
度々会うことになった。
しかし、婚約者としてのお茶会でも
私の療養中の見舞いでも
毎回途中で倒れ、満足に別れを告げられた試しがない。
(なぜ、あのような虚弱な者が私の婚約者なのだ……)
父上は、よく働いていると満足げだ。
(ただの虚弱を、どうして私の婚約者になど……)
後ろ盾のない自分が、臣籍降下することは納得した。
だが、それがあの虚弱と一緒だとは信じられない。
それでも、婚約破棄を言い出さなかったのは
他にどうしても結婚したい相手がいなかったからだ。
そんな時だった。
モーガン侯爵家のイメルダ嬢と
出会ってしまったのは。
彼女は私の理想を体現したかのような輝くばかりの金髪で、
ミシェルと違って明るい少女だ。
王宮で、父に書類を届けに来た帰りに
道に迷ったという彼女と出会ったことで
私はただ虚弱なだけの婚約者と婚約を破棄し
彼女と婚約を結ぶことを思いついた。
異母弟が生まれてから
王妃様とは顔を合わせることが減ったが
両親は私の結婚を祝福してくれるだろう。
王位継承権を返上し臣籍に下る私がどう振る舞おうと
異母弟の将来に影響はないはずだ。
そうして、婚約破棄を計画した。
だが、私は見たい物しか見ず
聞きたいことしか聞いてこなかったということを
その後、嫌というほどに知ることになる。
◇
婚約を破棄した後、私を襲ったのは、目眩と体の痛み。
ダンスの途中だったが、耐えられずに意識を失っていた。
その日から、私はずっと体調不良を抱えている。
まず、ベッドから起きられるほどに体調が良い日がなくなった。
さらには療養のため口にしたスープですら
血を吐いて受け付けられなくなり、
ようやく「毒」を盛られているというのは
本当なのかもしれないと思うようになった。
あれだけのことをして手に入れたイメルダは
何故か婚約を結ぶことを躊躇っている様子で
一向に手続きが進まない。
これならば、ミシェルと婚約を結んでいた時の方がましだったと
捨てた婚約者に戻ってくるよう手紙を書いてみたが
何度送っても返事がない。
なんとか手に入れた解毒薬を飲み
不調を推して会いに行くと
彼女達は爵位を返上し、聖プラチナム王国に向かうという。
晴れ晴れとして言ってのけたミシェルを
それ以上引き留める気力は私にはなかった。
何の成果も得られないまま王宮に戻ると、
ここしばらく寝込んでいたことで体が弱っているのか
再び寝込むこととなった。
体力が尽きたらしい。
(確かに、愛に生きたいと願ったのは私だが……)
こんなはずではなかったのだ。
次に目を開けたときには
イメルダとの婚約が整い
体調が良くなっているといい。
そんな願いを込めながら目を閉じる。
だがこれが破滅の序曲に過ぎなかったということを
後日私は嫌という程思い知るのだった。
全く書き貯めが無く、できるだけ毎日連載を目指していますが
間に合わなかったら申し訳ありません。
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