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もう二度と、殿下の身代わりにはなりません 【連載版】  作者: 乙原 ゆん


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1/6

1.殿下のご多幸をお祈りしております

「なんであんな子が婚約者なのかしら」


 そう言われるのは慣れていた。

 私はアーメッド子爵家の生まれだ。

 理由あって、ネイラー伯爵家に養子に入り、恐れ多くも第一王子殿下と婚約を結んでいる。


 私は明るめの茶色の髪に、青い瞳をしていて

 容姿でも身分でも高位貴族の子息には敵わない。



 記憶の中にある本当の両親は私を「かわいい」と言ってくれていたけれど、

 金色の髪をした作り物のように美しい高位貴族のご令息ご息女と並ぶと

 「なんでこんな子が殿下の婚約者?」という目で見られる。


 それでも、せめてもと礼儀作法は身に付けた。

 七歳で本当の両親のところを離されて十年。


 家庭教師の先生からは

 いずれは王領をいただき公爵となられる王子殿下の伴侶として

 立ち居振る舞いは問題ないとお墨付きをもらっている。


 けれど、絶対のものだと言い聞かされていた将来は

 不安定なものに変わろうとしていた。



 婚約者との交流のため月に一度のお茶会。

 その約束のために王宮に向かうと

 庭園では第一王子のエリオット殿下と

 モーガン侯爵家のご令嬢イメルダ様が

 二人でお茶会をなさっていた。

 咄嗟に柱の影に隠れて様子を窺う。


「エリオット殿下、いつ婚約は破棄なさるのですか」

「イーダ、待ちきれないのか? この間、時期を見ていると言っただろう」

「本当に破棄してくださいますわよね……?」


 不安げに揺れるイメルダ様の声に、エリオット殿下が堂々と答える。


「ああ。お前のために、最高の舞台を整えているところだ。芋臭く、陰気で、薬草臭い女と、何故私が結婚をせねばならぬ。臣籍に下るのだ。隣にいる者を選ぶ権利くらいはあってもいいだろう? イーダが隣にいてくれれば、たとえどんな場所であろうとそこは素晴らしい場所に思えるだろう。王になれぬ私だが、ついてきてくれるか?」

「まぁ! もちろんですわ! 殿下の側であれば、私どんな場所でも構いません――」

「なんとかわいいことを言ってくれる」


 しなだれかかるイメルダ様の髪を、エリオット殿下が愛しげに撫でる。

 エリオット殿下が授かる予定の領地は、王都からは離れているが

 王領の中でも豊かで穏やかな土地だ。

 ただ、幼くして王位継承権を返上しなければならなかったという

 不幸な境遇に酔っている殿下には、

 そこが未開の地だと思われているのかもしれない。


(殿下がこうしてお健やかで過ごされているということこそが、陛下の愛の証ですのに……)


 そうでなければ私が婚約者に選ばれることもなかっただろう。

 仲良くお茶を飲む二人に胃が痛くなった私はその場を後にした。


 殿下には、お茶会には出向いたものの、

 体調不良で帰ったと伝えられるだろう。

 馬車に乗り込むと、水なしでなんとか丸薬を飲み込み、ひどくなってきた胃の痛みをおさめた。


(婚約破棄をするというのなら、早くしてくれないかしら。そうしたら、義務からも解放されるのに)

 

 不貞の現場を見ても、わずかとも心は揺れない。

 十年という月日はあったものの

 婚約者らしい心の交流は殿下との間には皆無だった。



 ブライト王国の第一王子殿下と第二王子殿下は母が違う。

 エリオット殿下の母は、ホーキング侯爵家のご出身。

 殿下が四歳の頃にみまかられ、陛下は別の女性を妻に迎えられた。


 ブラナー侯爵家のご令嬢だった現王妃様は、

 最初は第一王子殿下を可愛がっておられたらしい。


 けれど、第二王子殿下がお生まれになった後、

 距離を置かれた。

 王妃様のご実家であるブラナー侯爵家が許さなかったらしい。


 ブラナー侯爵家は、王妃様がお産みになった

 第二王子殿下を王位につけるおつもりだ。

 王妃様がどう思おうと、

 第一王子殿下は邪魔なのだ。


 それから、第一王子殿下の侍女は減り、

 離宮に暮らすよう命じられ、毒を盛られた。


 もちろん、殿下の母君のご実家――ホーキング侯爵家は黙っておられなかった。

 しかし、現王妃のご生家のブラナー侯爵家は、

 ホーキング侯爵家よりも力を持ち、

 王宮の侍女の人事権は既に現王妃様が持っておられる。

 殿下の身を守る騎士や侍女を手配することさえ叶わず

 どうしようもなかったと聞く。


 しかし国王陛下にとっては、殿下がはじめての子。

 ただ、殺されるのを眺めるのは哀れと思われたようだ。


 殿下を生かす道を探され、私に目を付けられた。


 その頃、私のスキルが判明したのだ。

 スキルとは、一人に一つ与えられる神からの祝福。

 六大要素を操る魔術とは違い、

 神に与えられた奇跡とも言われ、

 魔力によらないまさに奇跡のような事象が起こせるという。


 私の祝福は「身代わり」。

 契約を結んだ人の身に降りかかる怪我や病気を、

 自分が引き受けるという祝福。


 命を狙われる息子を持つ王が

 目を付けないはずはない。


 スキルは七歳の誕生日に神殿に行き判定をしてもらい、

 貴族は国に報告される。

 どうあっても、逃げられなかった。


 男に生まれていても、

 従者として縛り付けられただろう。


 婚約者としてもらえたのは

 温情とさえ言われた。


 そして、私は家族から引き離され、

 ネイラー伯爵家に養子に出されたうえで

 第一王子殿下の命を守る盾として契約を結ばされた。


 ブラナー侯爵家の横やりが入らなかったのは

 私との婚約を許してもらうことで

 第一王子殿下の王位継承権を返上し、

 殿下を臣籍に落とすと陛下が約束されたかららしい。


 そうして、私は第一王子殿下の婚約者となった。 



 はじめて第一王子殿下とお会いした時は、

 殿下は寝台で寝込んでおられた。


 スキルを使うよう強要され、言われた通りにすると

 あまりの痛みに目の前が真っ暗になった。


 気が付けば、離宮の一室で寝かされていた。

 流石に医師は呼ばれたが、

 ブラナー侯爵の息がかかっているのか

「緊張のあまり気絶されたのでしょう」と診断するような医師だった。

 スキルを使った結果、焼け付くような体の痛みに倒れたというのに

 どこが痛いか聞かれもしなかった。


(このままでは、命を落としてしまう……)


 殿下はこの痛みを抱えておられたのか。

 自分と同じ年齢の少年が命を狙われていると言うことを

 身を以て知った。


 一瞬だけ尊敬の念を持ったものの

 すぐにそれは打ち砕かれた。

 私の意識が戻ったことが伝えられたのか

 殿下がやってくる。


「なんだ、金髪でさえないのか」

「私と会って感動のあまり倒れるとは、大げさだ」

「しかし、王族の尊さを知っているとはたいした物だが、その見た目は自分の婚約者には相応しくない」

「髪を染めろとまでは言わないが、今度来る時には見た目をもっと整えておくように」


 そんなことを立て続けに言われ、療養するようにと言われ伯爵家へと帰された。


 ネイラー伯爵家では、私ははじめから厄介者扱いをされていたが

 それでも、医師は呼んでもらえた。


 医師からは体が非常に衰弱していると驚かれ

 一ヶ月の療養を命じられた。


 身代わりのスキルは、毒を消したりはしてくれない。

 医師の治療でなんとか治ったものの

 今後は殿下が怪我をしたり毒を盛られたりしないことを

 祈るしかなかった。


 私の思いに反して、それから王宮に行くたびに倒れて帰ってくることになった。

 毎回、医師を呼んでもらう私はうとまれるようになり、

 次第に医師はよっぽどのことでないと呼んでもらえなくなっていった。


 ネイラー伯爵家には、私は特別なスキルを持つため、

 第一王子殿下と婚約させるために引き取るようにとしか説明されていないらしい。

 詳しく話すことも禁じられている。

 最初に一ヶ月も療養することになったため

 生来の体の弱さから倒れたと思われたようだった。


 婚約後に盛られた毒は、嫌がらせ目的のものが多かった。

 命を狙った物は毒味で判明し、私も殿下も口にすることがないのが救いだった。


 しかし薬がなければ治らないし、痛い時間はできれば短く終わらせたい。

 私は独学で毒と薬の勉強も進め、医師に分けてもらった薬を持ち歩くようになった。

 手持ちの薬で厳しいときは、神殿を頼った。

 寄付を積めば、薬を分けてもらえるのだ。


 そうまでしても、

 私が殿下に受け入れられることはなかった。


 なんとなく感じていたが

 殿下は婚約者に、モーガン侯爵家のイメルダ様のような

 金髪で可憐な少女を望んでいたそうだ。


 流石に、髪色や顔の造作は変えられない。 


 身代わりのスキルについても説明されたらしいが、

 殿下は信じていないようだ。


 婚約後、体が丈夫になった自覚はあるが、

 昔は体が弱かっただけだと思っているらしい。

 王妃様に可愛がられた記憶があるから

 その実家から毒を盛られたと言われても信じられず

 陛下も現状それで問題はないからと強くは言わなかったようだ。


 そして、婚約から十年。

 殿下は好みの顔で、将来を共にしたいと思われるご令嬢を見つけられた。

 婚約を破棄されれば、スキルに関する契約も破棄される。


 スキルを搾取されてきた私は

 それがどういう結果を生むか朧気に理解していたものの

 殿下に忠告しようとは思えなかった。



「ミシェル・ネイラー! 前に出よ!」


 きらめく夜会の会場で大声で名を呼ばれた。

 壁の花になっていたところから、中央へと向かう。


「お呼びでしょうか」


 婚約者といっても、

 夜会のドレスは贈られず

 エスコートもない。


 エリオット殿下は、私を見て口元を歪める。


「お前のその貧相な顔を見るのは今日で終わりだ」


 殿下の側には、

 彼に腰を抱かれるようにしてイメルダ様が寄り添っていらっしゃる。


「イメルダのように可憐さもなく、ことあるごとに寝込むお前では、私の婚約者として相応しくない」


 これで終わりなのかと、

 二人を静かに見つめる。


「効果が感じられないお前のスキルなど、私には不要」


 誰も、エリオット殿下を止める者はいない。

 その勢いのまま彼は言い切る。


「よって、お前を解放してやろう。私、エリオットの名の下にお前との婚約は破棄し、ここにモーガン侯爵家のイメルダと婚約を結ぶことを宣言する」


 壇上を見上げると、陛下は信じられないとばかりに殿下を見つめている。

 王妃様は眉を寄せつつも、仕方がないといった表情だ。


「エリオット。本当にそれでいいのか。ミシェル嬢との婚約は、お前を生かすための婚約だった」

「たとえ婚約者が誰であれ、私の臣籍降下や王領の拝命は変わりませんよね」

「そう、だが……」

「でしたら、構いません。私はたとえ、どんなことが起きようと、このイメルダと生きたいのです」

「そう、か……。お前がいつの間にそこまで覚悟を決めていたとは、知らなかった」


 彼を生かすために結ばれた婚約だった。

 皆の前で宣言したことだ。

 ここまで言い切ってしまうのならば

 後からやっぱりなかったことにはできないだろう。


「わかった。本来ならば、私の許可した婚約をお前の意思で覆すなど許されぬことだ。しかし、残りの生を愛に生きたいというお前の気持ちを認め、婚約の解消と新たな婚約を認めよう。皆、新たな婚約を祝福しようではないか」


 拍手が二人を包む。

 静まった後、陛下が私の方に視線を向ける。


「ネイラー伯爵家のミシェルよ。長い間、苦労をかけた。褒美に望むものはあるか」

「私のような者に殿下の婚約者として長年ご温情をかけていただいたことこそが、褒美だったと思っております。しかし、許されるのでしたら、生家であるアーメッド子爵家へと戻りたく存じます」

「うむ。そなたの養子縁組は、婚約を前提にしたものだったな。ネイラー伯爵も、不都合はないだろう。そのように進めよう」


 陛下の言葉にほっとする。

 自分の家族の元に帰って静かに暮らしたい。

 望むことはそれだけだった。


 陛下の興味は、殿下と新たなご婚約者に移り、

 ワルツの演奏が始まる。


 そうして、誰の注目もなくなったところで

 静かに会場を辞した。


 会場の外では、

 アーメッド子爵家の両親が待っていた。


「お母さま……。お父さま……。お兄さま……」

「もう、お役目が終わり、養子縁組解消の許可も出た。ミシェルが我が家に戻っても良いはずだ。手続きは私の方で行うから安心してほしい。ひとまずここを出よう」


 馬車に乗り込み、王宮を後にする。


(殿下が不注意に飲んだ毒を、どれだけ私が代わりに引き受けただろうか)


 きっとご存知なかったのだろう。

 殿下が毒で苦しむ前に、

 私が身代わりとなっていたから。


 伯爵家にも、未練はない。

 籍を置いていたというだけで

 可愛がられていたわけではなかった。


 むしろ、伯爵令嬢などは

 養子の私でもいいなら、何故殿下の婚約者が自分ではダメなのかと

 ことあるごとに言っていた。

 元からのお嬢様を押しのけて、

 殿下の婚約者となった私は疎まれ

 世話もなおざりだった。


 王宮を後にして、

 しばらくしたところで

 私は身代わりのスキルの使用を止めた。

 同時に、痛み止めを飲んでいてさえ

 体を蝕んでいた疼痛が和らぐ。


 完全に痛みが消えないのは

 今まで飲んだ毒の影響で

 私の体自体が蝕まれているからだ。


 だがもう、新たな痛みを引き受ける必要はない。

 それだけで全てから解放された気分だった。


(殿下とイメルダ様は、一曲は踊れたかしら……。いえ、もう私には関係ないわね)


 たとえ今後、どんなに願われようと

 身代わりのスキルを殿下に使うつもりはない。

 私は静かに瞼を閉じた。





「お嬢様。お手紙が届いております」

「まぁ、どなたからかしら」


 侍女が持って来た手紙の宛名に眉をしかめる。

 そこにある第一王子殿下の名に

 中に書いてある内容が想像できてしまった。


 とはいっても、無視するわけにはいかない。

 手紙を開くと予想通りの文面が並んでいる。


(お断り申し上げたのに)


 婚約破棄された夜会で

 殿下は一曲を踊られた後

 二曲目の途中でお倒れになったそうだ。


 その後、療養されているそうだが

 芳しくはないらしい。

 解毒薬は手配され、痛み止めも手に入る。

 私が長年耐えていた痛みを

 突然自分の身で引き受けなければいけなくなり

 痛みを受け止め切れていないのだろう。


 先日届いたお手紙には

 戻ってきてほしいと書かれていた。

 今日届いたお手紙にも同じことが書かれてある。


 長年の献身を信じてもらえず

 あの日、皆の前で、見世物のように婚約を破棄して

 名誉を傷つけられた。


 なぜ、私が手を差し伸べると思うのか。


(それに、私が殿下の身代わりで毒に苦しんでいる時に、殿下は何をしてくれたかしら)


 伯爵家に見舞いに来てくれることさえなかった。


 いつも私の顔色が悪く、頬がこけていたのは、

 殿下の受けた毒の身代わりで

 食事を受け付けられなかったから。


 ことあるごとに寝込んでいたのも

 殿下の受けた毒や、病気を肩代わりしていたから。


 それすらも私の健康管理ができていないと言われ、どんなにつらかったか。


 返事にそれらを書こうかしらと思っていると、

 どうやら我慢できずに殿下の方からいらっしゃったようだ。


 先触れなく来られて戸惑う侍女に

 応接室に通すように伝える。


 久しぶりに見る殿下は

 かつての私のように頬が痩け、顔色が悪かった。


 侍女が紅茶を出すものの

 湯気を立てるカップを見て、目をそらした。


 どうやら、ようやくご自身が頻繁に毒を盛られていることに

 気が付かれたらしい。


「……殿下。このようなところに、よくいらっしゃいました」

「手紙は読んだか」

「先程、拝読しておりました」

「そうか。なら話は早い。中に書いた通りだ。どうか、戻ってきてほしい」

「お断り申し上げます」

「なっ……」


 絶句する殿下に微笑みかける。 


「あの日の夜会で『たとえ、どんなことが起きようと、このイメルダと生きたい』。そう宣言された殿下のお気持ちに感動いたしました。モーガン侯爵令嬢イメルダ様とのご婚約お祝い申し上げます」

「……イメルダとは、まだ正式に婚約を結んでいない」


 ダンスの途中で倒れた殿下に、モーガン侯爵令嬢が怖じ気づき、

 婚約の話がうまく進んでいないと聞いている。

 だが、王の祝福を受けた婚約だ。

 話がなくなることはないだろう。


「あるのかないのかよく分からない、私のスキルなど殿下には不要だと断じられていたではありませんか」

「そ、そんなことはない。ミシェルのスキルは、とてつもない効果だった。どうかこれからも、私を支えてほしい」


 どのような立場でだろうか。

 聞いてみたくはあったが、それで引き受けると思われてもたまらない。


「無理ですわ。父が、爵位返上の申し出をしています」

「――っ!?」

「長年のお勤めで、私の体は傷つき、長くはないと言われています。ですので、万に一つの望みをかけて、聖プラチナム国に行ってみようかと思っています」


 聖プラチナム国には、聖女様がおられる。

 国外から訪れた私達が聖女様とお会いできるかはわからないが

 それでもこの国で使い潰されるよりはずっといいと

 父は家族で国を離れることを選んだ。

 幸いというべきか、領地のない法衣貴族だったこともいい方向に働いた。


「どうして……」

「私のスキルでは、殿下の身に起きたアクシデントをこの身に引き受けることはできますが、治癒は行えません。痛み止めで紛らわせている物も多いのです」


 その痛み止めも、王宮では手配してもらえないことが多かった。

 私が頼っていた神殿に解毒薬が常備され

 珍しい解毒薬なども置いてあったのは、

 両親が寄付をしてくれていたからだと

 婚約解消をされてから知った。


「…………」

「婚約者でしかないからと、王宮の医師は私に薬をくれませんでしたが、きっと殿下でしたらお薬もいただけますわ」


 殿下の一言があれば、

 王宮で薬ももらえただろう。

 今更言っても、仕方ないことだ。


 もっとも、そこに毒が混じる危険はあるが、

 それは自分でなんとかしてほしい。


 それに、わずかな手間さえ惜しんだ元婚約者に

 今更どうしてすがってくるのか理解が不能だ。


 謝罪さえなく、ただ便利な道具であれと言いつのる殿下に

 私も罪悪感が消えていく。


「婚約者は愛がある相手がいいと願われた殿下の宣言に、私、感動したのです。ご多幸をお祈りしております」


 そういうと、やっと諦めたように帰って行った。


 たとえ、愚かになるようにと育てられたとしても

 どこかで気が付けるタイミングがあっただろうに。


 ただ、どんなに彼が反省しようと、

 私はもう二度と、彼の身代わりにはなるつもりはない。

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