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好きなこと趣味


イフェイオンは街の中をどれだけ探してもエニシダを見つけることはできなかった。


人が多いところも、路地裏の人がいないところも全て探し回ったが、どこにもエニシダはいなかった。


誘拐されたのか、それとも自分に気づいて急いで街を出ていったのか。


嫌な考えばかりが頭の中を占め、これからどうすればいいのかイフェイオンは決めることができなかった。


せっかく見えた希望の光が目の前で消えていく。


その場から動くことができなかったイフェイオンは、ようやく追いついたユリウスに声をかけられてゆっくりと顔を後ろを向いた。


ユリウスは息が切れていて、名を呼ぶのがやっとでなかなか店主から聞いた話をすることができなかった。


慌ててイフェイオンの後を追ったユリウスは必死に追いかけても、追いつくどころか引き離された。


いくらやつれていたとしても勝つことは絶対に無理だと力の差を見せつけられた。


「もしかしたらですが、エニシダ様がいる場所がわかったかもしれません」


ユリウスは息が整うとそう言った。


イフェイオンの目から消えた光がその言葉で蘇った。


「本当か!?どこだ!?どこにいるんだ!?」


イフェイオンはユリウスに焦りから詰め寄ってしまう。


「店主から聞いた話ですが、この街には秘密の花園という架空の場所があり、その場所を探すものが多くいるらしいので、もしかしたらですが、エニシダ様も秘密の花園を探しに山の奥へと行っている可能性があります」


イフェイオンは「山の奥」という言葉を聞いて、そういえば、まだ山の中は探していなかったことに気づいた。


「架空の場所ってことは、存在はしていないのか?」


「店主の話だとそうなります。この街はある小説の舞台になったそうです。秘密の花園以外は実在する場所なそうなので、その小説を読んだ人たちは秘密の花園も実在するのではないかと探すらしいですが、誰も見つけていないので架空の場所と街の住人は言っているらしいです」


ユリウスもこの街には初めて来た。


小説も読んだことがないので、店主に聞いた話をそのまま伝えることしかできない。


本当にあるかは見つけないとわからない。


そのためユリウスは「らしい」としか言うことができなくて、なんとも言えないもどかしい気持ちになった。


苦しんでいる主に可能性の話しかできないことが悔しかった。


エニシダが行ってない可能性の方が高いと思っていたが、そのことを口に出す勇気がユリウスにはなかった。


ただ、イフェイオンの選択を待っていると、イフェイオンが小さな声で呟いた。


「エニシダなら行ってるかもしれないな」


イフェイオンは「小説」という言葉でエニシダとしたある会話を思い出した。




「あの、イフェイオン様は、好きな、ことや、趣味、がおあり、でしょうか」


エニシダはまるで怖い上司の前にいるかのように緊張し、顔を真っ赤にさせながら小さな声でそう尋ねてきた。


(好きなこと、趣味か)


イフェイオンは改めて自分に好きなことや趣味が何かを考えた。


これまでの人生はこの国を守るために剣を握る日々だった。


好きなことをしたり、趣味を作る時間など存在しなかった。


少し前までもそうだった。


魔族との戦を終えて帰還し、エニシダと月に一度会える日以外は、仕事と体を鍛える日々だ。


この場合、仕事と体を鍛えることが趣味になるのかと思うが、きっとエニシダが求めている答えはこれではないと思い、開きかけた口を閉じる。


それでも、せっかく彼女が自分のことを知ろうとして聞いてくれたのだ。


何か答えなければと頭の中の記憶を辿った。


その記憶の中に一つだけ好きと言えそうなものがあった。


「馬に乗って何も考えず、ただ走るのが好きかもしれないな」


最初、馬に乗ったのもこの国を守るために必要なことだから始めたことだった。


だが、いつからか何も考えず走っていると公爵家の人間でなく、ただ一人の人間になっているかのようで好きだった。


もちろん馬に乗るときは、ほとんどが戦や鍛錬で頭を空っぽにすることはできないが、領土に帰ってきた今はそれができるため、幸せなことだと思える。


「ええ。それは、きっと、気持ちいいのでしょうね」


エニシダの声はさっきよりも小さかったが、イフェイオンの耳にはっきりと届いた。


彼女の表情はどこか暗く諦めた感じだ。


何故、そんな表情をするのかわからなかったが、なんとなくエニシダは馬に乗りたいと思っているのではないかと思った。


「ああ。もし嫌でなければ、いつか一緒に乗ってみないか?」


イフェイオンは勇気を出して言ったが、すぐに後悔した。


ひと昔は、女性の貴族も馬に乗るのが当たり前だったが、先々代皇后が「貴族の女性が馬に乗るなんて、なんてはしたないのかしら」と自分の嫌いな妹を批判するために言った一言のせいで、貴族たちは女性が馬に乗ることをはしたないと思うようになった。


別にエニシダを辱めようとして言った言葉ではないが、結果的にそうなってしまいイフェイオンは数秒前の自分の発した言葉を後悔した。



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