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架空の場所



「本当か!?本当にエニシダを見つけたのか?」


数分前の自分と同じことを何度も尋ねてくるイフェイオンにユリウスは、さっきの店主も自分をこんな感じで見ていたのかと客観視した。


ただ、さっきの店主とは違い、ユリウスはイフェイオンの気持ちがわかるので、うざがることなく何度も同じ質問に同じ返事をした。


「はい。正確に言えば、泊まっている宿を見つけただけで、エニシダ様にはまだお会いできていません」


上の階から人のいる気配はしたが、それがエニシダかは確認できていない。


外に出て観光している可能性もある。


夜になれば間違いなく戻ってくるだろうが、まだ太陽は真上の位置にあり、夜になるまでは時間がかかる。


「そうか。良かった。……本当に良かった」


イフェイオンの声はひどく震えていた。


それが喜びからくる震えだとわかっていたが、聞いていたユリウスは胸が締め付けられるほど悲痛な叫びに感じた。


今にも倒れてしまいそうなイフェイオンの姿は以前の頼りになる背中とは全く違っていた。


ようやく会えると、ユリウスたちはさっきの宿に戻り調べようとしたが、上の部屋には人の気配がなくなっていた。


ユリウスが店主にエニシダはさっき出ていったのかと尋ねると「ずっとここにいたが、その女性は見ていない」と言われた。


二人はエニシダが帰ってくるのを店主の許可をもらい待つことにしたが、その日、エニシダが帰ってくることはなかった。


朝になっても帰ってこない。


何かあったのか、それとも店主が嘘をついているのか、どちらかイフェイオンには判断することができなかった。


ユリウスが店主に部屋にまだ荷物はあるのか確認して欲しいと頼み、その声が聞こえてイフェイオンは少しずつ冷静さを取り戻した。


店主が戻ってきて「荷物はまだ部屋にございます」と言った。


なら、どうしてエニシダは戻ってこないのだろうか。


何かあったのではないか。


イフェイオンは嫌な予感がした。


宿を出て、街中を探し回った。


ユリウスもイフェイオンの後に続こうとしたが店主にこの街に来た人間が一番行きたがる場所はどこか尋ねた。


エニシダが男と一緒にいることは知っているが、そんな関係でないとユリウスは推測していた。


たまたまこの街に来たのか、それともエニシダが来たいと言ったのかは不明だが、それでもこれまでのエニシダたちの足取りから、必ずその街で一番人気な場所を訪れている。


恋愛小説の舞台になった場所だから、どこも人気だと聞いていたが、それでも一番人気な場所を聞いていなかったと思い出し、何故かそれを聞かなければならないと思った。


「それなら、秘密の花園だと思うけど……」


(けど?)


ユリウスは店主のなんとも言えない言い方と表

情に違和感を覚える。


その場所は人気だけど危険な場所でもあるのかと、つい警戒してしまう。


だが、それは不要なものだったと店主の言葉の続きを聞いて思った。


「小説の中だけ存在する、架空の場所なんだ」


(なんだ。架空か。心配して損したな)


ユリウスはホッとして息を吐くが、すぐに疑問が生まれた。


(架空の場所なのに、何故一番人気なんだ?)


そんなユリウスの疑問を彼の表情から読み取った店主は困ったような表情で笑いながらこう付け足した。


「架空の場所だと、俺たち街の住人は知ってるが、ここに観光しに来た人たちはそのことを知らないんだ。だから、いくら存在しないと言っても'自分の目で確かめるまでは信じない'と言って山の奥まで入って探しに行くんだよ。まぁ、誰一人その場所を見つけたものはいないけどな。当然だよな。だって、存在しない場所なんだからさ」


店主はそう言った。


店主の表情から、これまでも「秘密の花園」のことを観光客から散々聞かれ、その度に架空の場所として説明するも信じてもらえないのを繰り返せば、嫌になってしまうのも無理はない。


ただ、ユリウスはこの時一つの疑問が浮かび上がった。



ーー何故、作者は〜「秘密の花園」という架空の場所を作ったのだろうか。



他の場所は実在するなに、一つだけ架空の場所を作る必要があったのかと思ってしまう。


ユリウスは騎士なため、小説家が何を思ってその場所を作り上げたのかわかるわけがない。


そもそも、この街が舞台になった小説を読んだこともないのだ。


絶対に理解などできるわけがなかった。


これ以上は考えても無意味だ、と諦めユリウスは店主にお礼を言ってから宿を出て、イフェイオンの後を追いかけた。

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