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手がかり


「本当ですか?ここに泊まっているんですか?」


ユリウスはたまたま街の人に教えてもらった、宿にいた。


その場所は建物と建物の間にあり、普通に歩いていた絶対に気づかない場所にあった。


教えてもらった通りにその宿屋の前に来ても、知らなければ宿屋とはわからない建物だった。


ユリウスは恐る恐る入り、店主にエニシダの絵を見せて、知らないだろうなと期待せずに尋ねたが、予想とは真逆で店主は「彼女ならここに泊まっているよ」と教えてくれた。


まさかの言葉にユリウスは驚いて本当かと店主がうざがるほど尋ねた。


「ああ。だから、何度もそう言っているでしょう」


店主はうんざりした口調で言う。


もういい加減解放してくれ、と懇願する。


だがユリウスは、そんな店主の懇願を無視してこう続ける。


「この女性はいつ出ていきましたか?いや、まだ部屋にいますか?どの部屋にいますか?」


ユリウスは長かった旅がようやく身を結んだことが嬉しくて、自分でもおかしいことを口走っていることに気づいてはいたが抑えることができなかった。


「いや、流石にそこまでは教えられないよ」


店主は面倒な奴に使ったと思い、見せられた絵の女性を知っているなんて言うんじゃなかったと後悔していた。


「君が彼女とどういう関係かもわからないのに。そもそも君、誰?どうして彼女のことを知りたがるんの?」


店主はユリウスの格好から騎士だとはわかったが、いきなり泊まっている女性のことを聞いてきて怪しいと思い始めていた。


聞かれた女性は男性と共にきた。


もしかしたら駆け落ちしたのかもしれない、と想像しただけで、店主は顔には出さなかったが内心「きゃーー!小説みたいな展開」だと興奮していた。


少し前まで怪しんでいたユリウスのことを連れ戻しにきた騎士だと思い込んでしまう。


「あ、自己紹介もせず申し訳ない。私はユリウスと申します。こう見えて騎士です。仕えている主人の名を明かすことはできませんが、この女性に危害を加えるつもりはありません。ただ、主人が彼女に会いたがっているので、今ここに彼女がいるかだけでも教えてもらえませんか?」


店主はユリウスの言葉を聞いて悩んだ。


嘘を言っているようには見えない。


でも、女性が会いたがっているかもわからないのに勝手に教えるのも信用問題に関わる。


だけど貴族の頼みを断ったら、そもそも宿の仕事を失うかもしれない。


目の前にいる男は優しそうだが、だからといって彼が仕えている主人がいい人とは限らない。


女性には悪いが、こちらも生活がかかっているため、この質問には正直に答えさせてもらうことにした。


「一応、後三日は泊まる予定になっていて代金もすでにもらっているよ。いま部屋にいるかは知らないけどね」


店主でも店番はするし受付もする。


でも、だからといってずっと受付場にいるわけではないし、泊まっている客を見ているわけでもない。


それに店主はさっき受付をしていたこと交代したばかりで、探している女性が出ていったか、まだいるのか知らなかった。


たまたま、女性がこの宿に来たとき受付をして、少し違和感を覚えたから覚えていただけだった。


この街にくる男女のペアは見てるこっちが腹立つくらいラブラブなのに、どことなくよそよそしいのに、うざったいカップルより心が通じ合っているように見えた。


珍しいカップルだなと思い、記憶に残っていただけ。


ただそれだけで、それ以上でも以下でもない。


泊まっている客がいま何をしているかなんて把握するわけもないし、できるわけもない。


教えてあげたくても、教えられない。


「そうですか。どの部屋に泊まっているかを教えていただくことはできますか?」


ユリウスは店主の態度が優しいため大丈夫かなと思い、自分でも図々しいとわかっていながら尋ねた。


たまにクズの店員がいるので、内心その店員であることをユリウスは願った。


「いや、流石にそこまでは……」


店主はこれ以上教えるのは良心が痛むからと思い躊躇った。


「ですよね。すみません。無理なことを言って」


さすがにこれ以上は無理だったかとユリウスは謝罪した。


正直に言えば、そこまで言ったならどの部屋か教えても大して変わらないだろと思った。


でも、教えてもらわなくてもいいくらいの情報を得られたので引いた。


こういう中途半端に正義感を持っている人物が一番タチが悪いよな、とエニシダがあまりいい宿に泊まっていないことを知り、心配になる。


ユリウスは店主にお礼を言ってから宿を出て、イフェイオンにこのことを報告するため、探しに向かった。


イフェイオンを見つけるのは簡単だった。


すれ違った人たちの特に女性たちの顔を見ればわかった。


男女の会話だけでも、イフェイオンの容姿を褒めたり怖がったりしているのが聞こえたが、ほとんどの女性はイフェイオンの顔を見て顔を赤らめる。


すれ違った女性のほとんどが顔を赤らめていたので、その女性たちと反対に進めば簡単にイフェイオンの元まで辿り着くことができた。


ユリウスは「相変わらずモテるな」とあまりの顔の良さに羨ましいと感じた。


自分も女性たちから騒がれてみたいと思った。


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