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狂った歯車



そうした生活を何年か繰り返したが、根本的な解決はできなかった。


シオンもこのままでは駄目だと思っていたとき、エニシダが婚約した。


最初は胸が張り裂けそうなくらい痛かったが、エニシダがここから逃げれるのならそれが一番だ、と彼女の幸せを心から喜んだ。


何より相手はこの国で一番強いと言われる男、イフェイオン・ルーデンドルフだ。


彼が婚約者になった以上、伯爵もエニシダに対して酷いことはできないはずだ。


その予想は当たり、伯爵はエニシダを屋敷へと移し、証拠隠滅のため小屋を壊した。


エニシダは最初から小屋になど住んでいなかったかのように。


これからはエニシダもいい暮らしができるだろう、と思ったのに、さすがクズ伯爵といったところか。


エニシダは小屋に住んでいた頃よりも痛められるようになった。


屋敷だと騎士が入ることはできない。


入れるのは一部の幹部たちだけだ。


そうなるとシオンでも助けることができなかった。


ただ、エニシダが傷められるのを黙って見守る日々が始まった。


地獄だった。


守りたくて憎き男の家の騎士になったのに、それすらできない自分が憎くて仕方なかった。


それでも尚、耐えている彼女がいるのに自分が逃げ出すわけにもいかず、少しでも役に立ちたくて傍にい続けた。


イフェイオンとさえ結婚すれば、この屋敷から出て幸せになれると信じていたのに、彼女の身に最悪な事態が起きてしまった。


誰も治すことはできない。


それにかかったら必ず死ぬと言われている「不治の呪い」を誰かにかけられた。


いったい何故、彼女にばかりこんな不幸な目に遭わなければならないのだろうか。


自分を嫌っていた街の人たちを救うために薬を開発したのに、その功績は伯爵に取られた。


今ではエニシダではなく伯爵が悪者だと街の者たちも理解してはいるが、それでも過去の出来事が許されるわけではない。


エニシダはきっと許してはいるだろうが、シオンは許せなかった。


自分のそんな醜い感情のせいで彼女は呪われてしまったのではないか。


そんなことはあり得ない、と冷静に考えたらわかることだが、シオンは二度とそんなこと思わないので助けて欲しい、と縋ることしか出来なかった。


エニシダが呪われたことが屋敷で噂になった頃、彼女が婚約破棄を宣言しに公爵家に行ったことが判明した。


伯爵は激怒し、エニシダを監禁する勢いだ。


伯爵にとって娘とは利用価値があるかどうかだ。


勝手なことをして公爵家との縁を消した彼女を伯爵は絶対に許さないだろう。


このままでは本当にエニシダは幸せになれないと思い、シオンは連れ出すことを決意した。


今まではイフェイオンがいるから大丈夫だと思ったが、呪いが原因で婚約破棄を宣言しに行ったのなら、間違いなく向こうはそれを承諾したはずだ。


貴族は汚らわしい存在を忌み嫌う種族だから間違いないだろ。


一緒に逃げてくれるかはわからないが、それでも今夜、連れ出さないと彼女は一生、伯爵から逃げることができなくなる。


チャンスは今日しかない。


シオンは夜になるのを待った。


今日まで働いて、少ない給料で貯めていたお金をようやく使うときがきた。


シオンは物欲がないので、溜まる一方だった。


死ぬまで使わないだろうと思っていたお金を

エニシダのために使えることが幸せで嬉しかった。


逃げた後、一緒いられたら嬉しいが、断られたら陰から見守ろうと決め、夜になるのを今か今かと待った。


夜になり、エニシダの部屋へと向かうともぬけの殻だった。


もう伯爵が彼女を監禁したのかと焦り、屋敷中を探し回ったがどこにも見当たらない。


心配で胸が張り裂けそうだったとき、屋敷が騒がしくなった。


エニシダが見つかったのか、と期待したが、すぐにそうではないと聞こえてきた声を聞いてわかった。


「あの女が消えたわ!」


伯爵の仕業ではないことにホッとしたのも束の間、なら彼女はどこにいるのだ?と不安に襲われた。


まさか死んでないよな?


呪われたことに絶望して、自殺しようとしているのでは?


怖くて、怖くて、どうしようもなく負の感情に押しつぶされそうになる。


シオンは目の前が歪み、真っ暗になっていくのを感じた。


嫌だ。絶対に嫌だ。


お願いだから、死なないでくれ。


シオンはいるかもわからない神に向かって必死に祈った。



ーーどうか、彼女を死なせないでください。


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