違和感
だが、何かがおかしい。
何がおかしいのかと聞かれれば、うまく言えないが違和感があった。
シオンはエニシダをじっくりと観察した。
だが、何がおかしいのかはわからなかった。
そうしてエニシダを見ていると、オルテル家の騎士が近づいてくるのが見えた。
とりあえず今逃げたら見つかるので、木の上にいながら必死で見えないように後ろに回って体を隠した。
何をするんだ、とちょっとした好奇心から顔を少しだけ出して、エニシダたちのやりとりを観察した。
貴族はどんな感じで騎士と接するのか気になったのだ。
自分には関係ないことだと思いつつも、それでも見たかった。
シオンは少し甘酸っぱい想像をして、エニシダたちを見守ったが、予想していた光景とはだいぶが違っていたため戸惑いを隠せなかった。
「いったい何をしてんだ?」
オルテル家の者を守るはずの騎士たちがエニシダを痛めていた。
今すぐ飛び出して彼女を守りたかったが、それはできなかった。
今このときだけは彼女を守ることができる。
でも、そのせいで更に彼女は伯爵から痛めつけられるようになるだろう。
伯爵はそういう人間だ。
シオンは我慢するしかなかった。
大切な人が、命の恩人の人が傷つけられているのに、何もできずただ見守ることしかできない。
早く終わってくれ、と神に祈ることしかできない。
シオンは悔しかったし、恥ずかしかった。
悪魔の子たちを逃し、普通の人間に戻せたことで何かを達成し、強くなった気できたが、一番守りたい人を大切にしたい人に対しては何もできなかった。
そんな自分が惨めで情けなくて消えてしまいたくなった。
シオンは目を逸らしたくなるのも、泣きたくなるのも耐えて、エニシダが痛めつけられる光景を目に焼き付け、必ず強くなって守り抜いてみせると誓った。
その日から毎日、毎日、体を鍛え、剣を振り、強くなることを目標にその日、その日を生きてきた。
エニシダと最後にあった日、彼女はシオンに謝った。
そして「私のことは忘れて」と言った。
今になってその言葉の意味がようやくわかった。
父親のやっていることを知り、彼女は申し訳なくて謝ったのだ。
そして、自分はそんな人間の娘なため会う資格がないと思い、忘れて欲しいと言って会ってくれなくなったのだ。
彼女は何一つ悪くないのに。
謝ることも罪悪感を覚える必要もないのに。
どうして優しい人が損をするのだろうか。
何も悪くない人が悪く言われ、感謝されるべきではないものが感謝され慕われるのだろうか。
世の中は間違っている。
わかっていても悪魔の子であるシオンには何もできない。
そんな力はなかった。
ただ、できることは少しでもエニシダに降りかかる不幸を取り除くことだけだ。
この国では十三歳になると騎士として貴族に仕えることが許される。
シオンは十三歳になると、オルテル家の騎士試験を受けた。
伯爵は自分の命を守る盾になる人間は沢山いて欲しいと思っているので、騎士試験を受けにきた人たちは毎回全員合格させている。
ただし、金大好き人間なので給料は少ない。
ただ、団長たちはそれなりにいい思いをしているみたいだ。
彼らの身につけている服や装飾品が貴族たちが身につけるようなものだった。
それをみてシオンはようやく違和感の正体に気づいた。
エニシダの何がおかしかったのか。
伯爵令嬢であるのに、きているものが平民の服だった。
何より騎士よりも服がボロボロで汚かった。
街の人たちが噂している話が本当なら、彼女はたくさんのドレスと宝石を持っているはずなのに、今している格好はそれとは真逆だった。
誰かが嘘の噂を流しているのは明白だ。
いったい何のためにそんな噂を流しているのかは、シオンにはいくら考えても答えを見つけることはできなかった。
ただ、一つだけわかっていた。
この噂を流した者はエニシダを傷つけるためにわざとやったということだ。
なぜこんな酷いことをエニシダにするのだろうか。
ここにいる全員殺してやりたいと本気で思った。
一番殺したいのは伯爵だったが、クズでも彼女の父親には変わりない。
シオンは自分の感情を殺し、一つでも多くの不幸を取り除けるよう努力した。
先輩騎士たちがエニシダを殴ろうとしたら、その前に笑顔でお疲れ様です、と言って冷たい水が入ったコップを渡した。
ただの水ではなく下剤入りの水を。
入れる下剤は毎回即効性なので、先輩たちはエニシダを殴るところではなくなる。
夜の巡回では、先輩たちがエニシダに嫌がらせをしようとしたら、幽霊のふりをしたり、それとなく怖い雰囲気を作って近寄れないようにもした。
彼女の大切なものが奪われたり、壊されたりしたときは、見つかるまで探すのは当たり前で、元通り直すまで夜更かししたこともある。
食事がカビだらけだったら、自分のと取り替えてから小屋の前に置いたりした。
他にも色々あるが、シオンはオルテル家の騎士になってから、エニシダの多くの不幸を取り払った。




