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別れ



それが、どんな思いからしている表情なのかはシオンにはわからなかった。


でも、その原因が自分にあることだけはシオンも理解していた。


「今日はシオンに渡したいものが、どうしてもあったの」


エニシダは大きなカバンを見せてくる。


でこぼこしていて、たくさんものを詰め込んでいるのがわかる。


重たくないのかな、と心配になるも肩から荷物を下ろしたので、「持とうか」と言おうとしたが必要なくなった。


「そう言われると楽しみだな。何をくれるんだ?」


エニシダから貰えるならなんでよかった。


きっと、どんなものでも嬉しかった。


いったい何をくれるのだろうと楽しみで、カバンを開けようとしているエニシダの手元を覗いた。


中身はたくさんの瓶だった。


形は様々だが、中身が見えないので瓶の中に何が入っているのかはわからなかった。


「瓶?」


「うん。でも、きっと中身が何か知ったら驚くと思うよ」


後ろから話しかけたせいで驚いて肩をびくつかせたが、すぐにいたずらっ子のような笑みを浮かべてそう言った。


「そう言われると気になるな。なんなんだ?」


「なんだと思う?」


「教えてくれないのか?」


他の人とだったら面倒だなっと思っていた。


だが、エニシダとなら面倒なことでも楽しく感じた。


この時間が永遠に続いて欲しかった。


「もちろん。教えるよ」


イタズラが成功したかのように笑った後、エニシダは瓶の中身を教えてくれた。


「これは、髪を染めるものよ」


一人分にしてはあまりにも量が多い。


「で、こっちは肌の色を変えるものよ」


肌の色を変える?


シオンには馴染みのない言葉で意味がわからず首を傾げる。


「実際に使ってみた方がわかるかな」


エニシダはそう言うと瓶の蓋を開け、中身を少し掬うと、自分の肌に塗った。


塗ったところが少しだけ塗られていないところと色が違った。


「どう?」


エニシダが聞いてきた。


それに対してシオンは興奮を抑えられないようにはしゃいでこう言った。


「変わってる!え!?これどうなってるんだ!?」


「ヒースも塗ってみよう」


「え?いいのか?」


他の人にそう言われたら、その塗りもの大丈夫かと怪しんだが、エニシダが言うならと、まだ会うのは二回目なのに信じて疑わなかった。


「うん。おいで」


エニシダは塗りものを大量に掬い、俺の顔に馴染ませていった。


「変な感じはしない?」


「うん。特に。ただ、ちょっと違和感があるくらいかな」


顔に塗りものをしたのは初めてで、どうしても違和感は感じた。


「慣れたら大丈夫だよ」


慣れるまでつけはしないよ、と思ったが、その言葉を言うことは絶対になかった。


エニシダに鏡を見せられ、映った自分の顔を見ると、あの'悪魔の子'の烙印が消えていた。


信じられなくて、鏡に映る自分の姿を何度も確認した。


何がどうなっている理解できず、シオンはエニシダをみた。


「どう?気に入ってくれた?」


その言葉を聞いて、ようやくエニシダが自分を普通の人間にするために用意してくれたものなのだと気づいた。


目の下には隈があり、指先は傷がたくさんある。


一ヶ月という短い期間で仕上げるために無理をしたのがわかる。


気に入らないはずがない。


「うん。うん。すごく。ありがとう」


シオンは溢れ出す涙を気にすることなくお礼を言った。


これさえあれば普通の人間として過ごせる。


あの地獄の日々を過ごす必要がなくなる。


その嬉しさもあったが、それよりもエニシダの優しさが嬉しくて感動したのだ。


自分を普通の人間として扱ってくれたことも、助けようと必死になってくれたことも、全てが嬉しかった。


これで、これからもエニシダの傍にいることができると希望が持てた。


でも、その希望はエニシダの言葉を聞いた瞬間、消え去った。


「ヒース。髪を切って、髪を染めて、別人になるのよ。そして、この街から出ていって幸せになって」


「いやだよ。この街を出たら、二度とエニシダと会えなくなる」


「それでもよ。ここにいたら、間違いなく不幸になるわ。誰も知らない場所でやり直すの。これに、髪を染める薬草とその作り方や肌の色を変える薬草と作り方も書いてあるわ」


エニシダは鞄から本を取り出して見せる。


シオンはそれを受け取ろうとはしなかった。


それを受け取ってしまえば、本当にエニシダと会えなくなると思ったからだ。


仕方なくエニシダは鞄に本をしまい、瓶もしまった。


元々、鞄ごとシオンにあげるつもりだったのだ。


エニシダは鞄をシオンの肩にかけた。


シオンは受け取りたくなかったが、エニシダの好意を無駄にすることなどできず、ただ泣きそうな表情で耐えるしかなかった。


「本当にごめんなさい」


なぜ彼女が謝るのか理解できなかった。


謝るべきなのは自分で、感謝の気持ちしかないのに、エニシダに辛い顔をさせてしまう自分が情けなく憎かった。


「私のことなど忘れて。どうか、幸せになってね」


エニシダはそう言うと、振り返ることなく去っていった。


シオンはようやく見つけた光を失ってしまった。


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