シオンの過去
「誰が休んでいいと言った!さっさと動け!」
パーンッ!
毎日のように洞窟内で響く嫌な音が近くで聞こえた。
音が聞こえたのは前からだった。
シオンは重たい荷物を背負いながら、まだ聞こえてくる音に向かって歩いた。
(今日もこの人か)
シオンは監視員に鞭で叩かれている男を見た。
そのとき、男と目が合ってしまった。
助けてくれ、と男の目は訴えていたが、そんなことをすれば叩かれるのは自分になる。
シオンは男の訴えを無視して歩き続けた。
(自分より背も高く、体格もいいくせに甘えるな。ちょっと前までは、お前も俺たちのことを蔑んでいたくせに)
この洞窟内で作業している者のほとんどが「悪魔の子」と烙印を押された者たちだった。
その者たちを見分ける方法は簡単だった。
顔にシミのようなものが現れる。
それは大抵、小さい頃、五歳くらいに現れる。
だが、ごく稀に十代で現れるものもいる。
さっきの男はそうだったのだろう。
突然、顔に「悪魔の子」の烙印が現れ、家族や友人に見放され、ここに連れてこられた。
ここにくるまでは自分も同じように蔑んでいたのに、いざ自分がその立場になると助けを求めるなんて、あまりにも都合が良すぎる。
彼のような人間はここにきて早々に死ぬ。
見た限り、もって後二週間くらいだろう。
ここでは死ねる方が幸せだとされる。
シオンも何度も死にたいと思ったが、死ぬことはできなかった。
怖くて勇気がなかったのか、それともこんな残酷な世界でもまだ生きたいと思っていたのかはわからないが、今日まで歯を食いしばってなんとか生き抜いていた。
いつかまた空を見たい、とここにきたばかりの頃は何度も夢を見ていたが、歳をとるにつれ、それは二度と叶わないことだと知った。
一生ここで生き、死ぬ。
それが自分の運命だと受け入れた。
だが、八歳のとき運命の歯車が動いた。
俺は一生この日のことを忘れないと思った。
神は存在するのだと信じた日でもあった。
どうしてそうなったのかは、今でもわからない。
ただ、監視員たちの指示で俺を含めた数十人が外に連れ出され、違う作業を命じられた。
移動中は逃げないよう手錠をされ、木の檻に入れられた。
「悪魔の子」が普通の人間を見れば呪われると言う言い伝えがあるため、それが真っ赤な嘘だとわかっていても、目が合わないよう下をずっと見ていなければならなかった。
監視員たちも嘘だとわかっているはずなのに、街に出るとわざとその話をして嘘の噂を流した。
ーー自分たちは危険な仕事をしている。この街を守っている。
と、思わせたいのだろう。
一度、彼らが酔ってきた日、そういう話をしたのを覚えていた。
「降りろ」
目的地に着いたのか、兵士の一人が木の檻の扉を開けた。
手錠のせいで上手くバランスが取れず、立ち上がるのに苦労していると、胸ぐらを掴まれて無理矢理出さされた。
何人かは俺と同じやり方で出されていた。
全員が檻から出ると、兵士たちが俺たちの前に木の箱を倒した。
倒れた木の箱から、大量の剣が見えた。
嫌な予感がした。
シオンたちが作業している洞窟の領地主はオルテル伯爵。
あまりいい噂を聞かない人だ。
自分の欲を満たすためだけに、平気で人を見殺しにするような奴だと。
自分の手は決して汚さない卑怯者として有名だった。
「お前たちはこれから森の奥へと言ってもらう。そこで十日過ごせ。剣は好きなのを持っていってよい」
おかしい。絶対におかしい。
シオンは子供ながら、この話がおかしいことに気づいた。
他の者たちも気づいていたはずだ。
それでも、誰ひとり何も言わなかった。
固く口を閉ざしていた。
(当然か。俺たちは'悪魔の子'なんだから、人間様に許可なく話しかけてはいけないよな)
機嫌が悪かったら八つ当たりをしてくる連中だ、「はい」以外の言葉を発したら殺されるかもしれない。
一人、また一人と剣を手に取った。
シオンは短剣を四つを装備することにした。
全員が装備完了すると、監視員の一人が「全員とったな。なら、出発しろ」と近くにいた老人を蹴り飛ばした。
老人は倒れるも、すぐに立ち上がり、足を引き摺りながら森へと入った。
シオンは一番最後に森へと足を踏み入れた。
入った瞬間に感じた。
ここは死地だ、と。




