永遠の眠り
倒れた拍子に花びらが舞った。
青い空に白い花びらが蝶のように飛んでいるように私の目に映った。
目が霞んでいるせいで、そう見えているだけだとわかってはいたが、そのおかげで私は最後に綺麗な光景を見ることができた。
目を開けるのも難しくなってきた。
だんだん眠気に勝てなくなっていた。
争う気はなかったが、最後に自分の人生を振り返った。
私の人生は幸せだったのかと自分自身に問いかけた。
自信を持って精一杯自分のできることをやってきたと言えるが、幸せだったかと聞かれたら、よくわからないと答えるだろう。
全く幸せがなかったわけでない。
でも、それよりも辛く苦しい日々の方が圧倒的に多かった。
誰にも愛されない、認められない、必要とされてない、そんな人生は孤独で寂しかった。
最後の一年は旅に出たお陰で、私は私を少しだけ好きになることができた。
それだけでも旅に出た甲斐があったと思う。
でも、これからも生きていきたいと思うほどではなかった。
残りわずかな命だとわかっているから、好きなことをして頑張れたのだ。
私が呪われることなく、後何十年も生きていくことになっていたら、きっと頑張れなかっただろう。
残り少ないからこそ、悔いのないよう生きてこれたのだ。
だからと言って、一つも後悔がないわけではない。
幸せな思い出を思い出すより、後悔の方が早くたくさん出てくる。
まずは、両親の悪業を止められなかったこと。
次は、自分の身勝手さで愛する二人の邪魔をしたこと。
振られるとしても自分の気持ちをちゃんと伝えなかったこと。
オルテル領に住む人たちを最後まで守らなかったこと。
研究していた薬を最後までやり遂げれなかったこと。
最後に、奴隷よりしたとされる人たちを助け出すことができなかったことだ。
何一つやり遂げることができなかった自分が無力で情けなくなる。
(最後まで後悔し続けるのは嫌だな。死ぬまでの間は楽しいことを考えていたいわ)
暗いことを思い出していきたくはなかった。
思い出すのはほとんどがシオンと旅をしてして過ごしたことだった。
食べたことのない料理、美しい光景、道中の大変さ、全てが愛おしく大切な思い出だ。
これだけ思い出しているうちに逝けたら良かったのだが、最後の最後に頭の中に浮かんだのはイフェイオンのことだった。
彼は今何をしているのだろうか?
リナリアと幸せに過ごせているのか?
気になったが、私は何も知らない。
知りたくなくて調べなかった。
知ったら会いたくなる。
会えば、せっかく蓋をした想いが蘇ってくるかもしれない。
それが怖くて、絶対に耳に入れないようにしていた。
だから、私は彼の今がどんなのなのか全く知らない。
彼との思い出は、全て昨日のことように鮮明に思い出せる。
それだけあの頃の私にとって、イフェイオンと過ごすというのは特別なものだった。
彼にとってはそうではなかっただろうが。
結局、私は楽しかった思い出より、辛く悲しいけど幸せだった瞬間を思い出しながら、孤独に二度と冷めることのない永遠の眠りについた。
※※※
「お嬢様。お待たせしまし……た」
シオンは戻ってきたが、そこにエニシダの姿はなかった。
急に心臓の脈が速くなり、嫌な予感がしてきた。
周囲を見渡すもどこにも姿が見当たらない。
いったいどこに行ったんだ、と不安に押しつぶされそうだったとき、花が濡れているのが見えた。
それは続いていて、すぐに彼女が濡れた足で歩いたからできたものだとわかった。
これに沿っていけば、エニシダの元に行けるとわかり、少しだけ不安が消えた。
濡れた花の道を走る。
一秒でも速く、エニシダの姿を見て安心したかった。
ーーこの不安は気のせいだ。きっと大丈夫だ。
と、そう思いたかった。
だが、現実は残酷だった。
色鮮やかな花畑から白い花畑に変わり、その中を走っていくと、花の上で寝転んでいるエニシダを見つけた。
彼女の側に駆け寄り、話しかけるが返事がない。
寝ているだけか、と思いたかったが嫌な予感が消え去ることがなかったので、念のために呼吸を確認すると息をしてなかった。
脈を測るが動いていなかった。
エニシダはもう死んでいた。
さっきまで動いていたのに、体温を感じたのに、今は微動だにせず、体温はとても冷たかった。
どれだけ否定したくても、わかっていた。
認めるしかないことを。
彼女はもう二度、永遠に目覚めることがないのだと。




