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秘密の花園


「なかなか、見つかりませんね。'秘密の花園'」


秘密とついているだけ、本当に見つけられない。


「ごめんね。あるかわからないのに付き合わせて」


日が経つにつれ本当にあるのかな、と思うようになった。


最初はあると確信していたのに、だんだん自信がなくなってきた。


「私も見たいので謝る必要はありません。きっと、あります。必ず見つけましょう」


「ありがとう」


「お嬢様。ずっと気になっていたのですが、秘密の花園のことをどこで知られたのですか?」


「小さい頃、よく読んでいた本に書かれていたの」


「なんていう本なのですか?」


シオンは文字が読めないため、教えてもらっても読むことはできないが知りたかった。


「'愛の悲しみ'」


「'愛の悲しみ'ですか。悲しい話なんですか?」


シオンはタイトルからそう思った。


「うーん。どうだろう。人によって感じ方は違うし、作者がどう思って書いたかはわからないけど、私は悲しい話だとは思わなかったわ。寧ろ幸せだったと思う」


小さい頃は悲しいと思ったけど、歳をとってから読むと感じ方は変わった。


「どんな話なのか聞いてもいいですか?」


「もちろん」


誰かに好きな本のことを話せるのは嬉しかった。


妹や他の令嬢たちは集まったときに自分の好きなことの話をよくしていた。


遠くからその光景を羨ましく眺めていた。


いつか、自分もできたらいいなと思っていたことが今になって叶った。


「この本はね、婚約者だった男が病気になったところからはじまるの」


「病気ですか?」


まるであなたのことのような話だ、とシオンは心の中で思った。


「そう……」


二人の母親は小さい頃からの親友で仲がとても良かった。


だからか、お互いの子供が産まれたとき男女だったら婚約者にしようと約束していた。


二人は初めて会ったときから、いやその前から互いに婚約者として意識していた。


父親たちの心配とは裏腹に二人は時には友として、時には婚約者として、互いを大切にしていた。


だが、男が十九歳のときに病気になった。


男は体格がよく剣の腕もよく、同世代で彼に敵うものは誰一人いなかった。


将来を期待されていた。


異性にもよくモテていた。


婚約者がいるのに何度も告白をされた。


国中の女性が彼の隣に立つことを夢見ていた。


だが、彼の隣に立つことが許された女性はただ一人。


彼自身もそれを許していた者は婚約者の女だけだった。


だが、男は十九歳になると突然原因不明の病気にかかった。


日に日に筋肉は落ち、体は薄くなっていった。


いつ死んでもおかしくないくらい男は弱りきっていた。


医者からは一年ももたないだろうと余命宣告された。


男は女のために婚約破棄を申し出たが、女はそれを拒否した。


「最後まであなたの隣にいさせてほしい」と。


それから二人は毎日一緒に過ごした。


一日、一日を大切に過ごした。


明日がまた来ると信じて過ごした。


だが、一日が過ぎるたび男は弱っていった。


はっきりと死が近づいてくるのがわかった。


もう歩く気力もなくなった。


ベッドの上で過ごすのが当たり前になった。


もう二度一緒に外を歩けないと悲しんでいたそんなある日、男が突然「あそこに行きたい」と言った。


女は男が言った'あそこ'とはどこかすぐにわかった。


男の足で行くのは無理だと思ったが、男の顔を見た瞬間「うん。行こうか」と言っていた。


無理だとは言えなかったのだ。


女は男の家族に事情を話し、二人だけで'あそこ'に向かった。


'あそこ'とは、昔二人が小さい頃よく遊んでいた森の中にある、小さな池の周りにたくさんの花が咲いている場所のことだ。


たまたま二人で森で遊んでいるときに見つけ、そこからはいつもそこで遊んでいた。


二人だけの秘密。花がたくさん咲いているから「秘密の花園」と貴族の大人っぽい名前をつけた。


二人は秘密の花園に着くと池の前に座り込んで話をした。


これまでの思い出をたくさん話した。


女はわかっていた。


男の命が今日までだと。


もう、目も見えなくなっていっているとわかっていた。


男は座っているの保つ筋力もなくなり倒れると、女は慌てて受け止め膝枕にした。


女は必死に涙を堪え話しかけた。


男が最後に見た景色は愛する女が花の中で微笑んでいるものだった。


もうあまり見えていなかったのに、その瞬間だけはなぜかはっきり見えた。


綺麗だ、と女に向かって微笑んだのが最後だった。


男は眠るように息を引き取った。




「……って話なの。最初これを読んだ時は悲しい話だと思ったの。でも、何年か経って読んだときは悲しい話だけど幸せだったんじゃないかなって思ったの。最後の瞬間まで愛する人と思いあい共にいられるのはとても幸福なことなのではと」


いつ自分の身に不幸が訪れるかわからない。


自分だけは大丈夫なんてことはない。


誰にでもあり得ること。


そんななか、もし自分の身に何か起きても見捨てずそばにいてくれ愛してもらえるのは誰にでもあることではない。


作者が伝えたかったのは、今の日常を当たり前だと思わず大切に過ごしてほしい、大切な人に大切な言葉を伝え続けてほしい、だったのではないかと思う。


私はそれができなかった。


勇気がなかったからだ。


たくさん後悔しているが、もう遅い。


受け入れるしかない。


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