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メモリア


私がかかった呪いは長くて一年しか生きられない。


そう言われていた。


だが、私は一年以上生きた。


自分でも驚くほどだった。


呪いをかけられたとわかったときは、すぐに死ぬと思っていた。


どうしてここまで生きられたのかはわからないが、今一つだけわかっていることがある。


それは、この旅はもうすぐ終わりを迎えるということ。


自分の体のことは自分が一番わかっている。


私はもうすぐ死ぬ。


次の場所が私の最後の旅になるだろう。


「お嬢様。次はどこにいかれますか?」


シオンがいつもの台詞を言う。


私たちの滞在期間は長くて一週間。


短くて五日だ。


それ以上いると追っ手に捕まる可能性が高くなるからだ。


考え過ぎかもしれないが、父親である伯爵は自分の欲のためなら、どんなことでもやる最低の人間だ。


諦めている可能性もあるが、私を売って金にしようとすることを諦めていないはずだ。


イフェイオンが無理でも、若い女が好きな年寄りに売ればそれなりの金は手に入る。


だから、どれだけ気に入った街でも長期間の滞在はしなかった。


今いる街も五日で出ていく。


五日あればそれなりに見て回れるが、全部見れるわけではない。


まだ見たいものはたくさんあるが、諦めるしかない。


少し悲しくなるが悪いことばかりではない。


短い期間しかいないからより楽しめるし、いろんな街に訪れる回数が増える。


「シオンはどこか行きたいところはない?」


これまで私の行きたいところばかり行った。


最後はシオンの行きたいところに行ってみたいと思った。


「……メモリア。そこに行ってみたいです」


シオンは少し考え込んでからそう言った。


「メモリア。うん。いいね。そこに行こうか」


メモリア。


シオンの言葉を聞いて、昔、自分もそこに行きたいと思っていたことを思い出した。


最後の旅に相応しい場所だと思った。




今、私たちがいる場所はエトワール国のユティストラという街。


ここから、メモリアまで行くには早くても二週間はかかる。


お金はまだたくさん残っているが、私が死んだ後もシオンは生きていくから残った分はあげたい。


少しでも多く残してあげたいため、あまりお金のかからない移動手段を選ばなければと思う。


荷馬車は嫌だが、これが一番安い。


腹を括って荷馬車で行くことにしたが、いつもとは違う。


藁がたくさん積んである。


どこに乗ればいいんだと困り果てていると、男が藁の上に乗ってくれ、と言った。


この上に?と思ったが言われた通りにした。


寝転がるように乗っていたが、荷馬車が動いても全然お尻が痛くならないし、気持ち悪くない。


少しチクチクするが、いつもに比べると乗り心地はいい。


太陽の日差しのせいで眠気も襲ってくる。


間違いなく今まで乗った乗り物の中で最高だ。


つい、あくびをしてしまう。


うとうとして、気がついたら寝てしまう。


起こされるまで、自分が寝ていたこともわかっていなかった。


目的地に着くと、男と別れ、また別の荷馬車に乗るというのを繰り返した。


一度、藁の荷馬車に乗るとそれ以外には乗りたくなくなって大変だった。


藁の荷馬車がないとわかると落胆し、いやいや揺れが酷い荷馬車に乗ってメモリアに向かった。


お尻が痛くて次の日は大変だった。


最後らへんは感覚がなくなっていた。


「やっと、着いたわね」


私はふらつきながらシオンの手を借りて荷馬車から降りる。


メモリアは恋愛小説の登場場所として使われたことがあるせいか、街には多くの恋人たちがいる。


ほとんどが私たちと同じ旅のものだろう。


「はい。お疲れ様です。観光は明日にして今日は休みましょう」


側から見たら私たちも恋人同士に見えるのだろうか。


「そうね。そうしましょう」


申し訳ないと思いながらシオンに支えられて、私はなんとか歩けた。




コンコンコン。


空も暗くなり、もう寝ようかとベッドに横になろうとしたとき扉を叩く音が聞こえた。


それと同時に「お嬢様。俺です。まだ、起きていますか?」と控えめに話しかけてくるシオンの声が届いた。


「ええ。起きてるわ。どうしたの?」


私は寝巻きの上にストールを羽織ってから、扉を開けた。


「これを」


紙袋を渡される。


「これは?」


不思議に思いながら紙袋を受け取り、中身を確認しようとしたら「では、俺はこれで。おやすみなさいませ。お嬢様」と去っていった。


どうしたんだ?と首を傾げながら「うん。おやすみ。シオン」と言ってから扉を閉めた。


ベッドの上に乗り、渡された紙袋の中を確認する。


「あ、これは……」


中身を見た瞬間、頬が緩む。


ここにくるまでに私が食べたいと言っていたお菓子が入っていた。


このお菓子は小説にも出てくるこの街の伝統的なお菓子で人気だ。


並んでても買えない日もあるほどだ。


気持ち悪くて食欲がなく、今日は何も食べてはいなかった。


食べるのは明日にしようと諦めていた。


早く寝て、体調を治すぎだと。


シオンが買ってきてくれたお菓子を見たら、急にお腹がなった。


さっきまで全然お腹は空いていなかったのに。


私はそのお菓子にかぶりつく。


「美味しい」


急に視界がぼやけた。


すぐに自分が泣いていることに気づいた。


美味しいお菓子なのに、ずっと食べたかったのに、途中から涙のせいでよく味がわからなくなったが、今まで食べたものの中で一番美味しく満たされた味がした。

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